85話 逆さ四角錐は、聖地
「あ、大精霊様。次は、石垣をこの辺から、向こうまで」
にっこり。
……カゲツ殿下の、爽やかな笑顔が逆に、怖い。
──怪獣大決戦から、二日後。
ものの見事に、オレら全員、精霊だとバレまして。
街の被害は、そりゃ軽微だったけども。
精霊姉妹の、姉妹喧嘩。
無傷とは、行かず?
オレ、長女の務めとして。
港の港湾設備拡張に、駆り出されておりますっ。
「こんな素敵な能力、全土で活用させて頂きたいですわ」
「謹んでご遠慮させて頂きたくっ!?」
言いながら。
砂浜の砂に、拳、一発!
ごぉんっ!
ごん、ごん、ごん、ごぉぉん!
砂からせり上がった石垣が、言われた範囲に、ずらり。
──いや、元からの地の権能だけだと?
こんな真似、出来なかった。
何しろオレ、破壊するしか能がなかったので。
じゃあ、なんで創造制御できるようになったか、って。
『めーちゃんめーちゃん、錬金術に組み合わせてみたら?』
って、シルフィが。
言われてみれば?
親父殿の【錬金】は、材質を創造する術式だけども。
オレの【錬成】は、素材を抜き出す術式。
砂っていう、石の元になる素材が大量にある浜辺なら。
……実際、海底の砂から砂槍、権能だけで作れたし。
あれを、【錬成】と組み合わせたら、もっと楽になる?
ってことで。
やってみたさ。
──出来た。
めっちゃ、楽に。
そういう、わけで。
新技の、練習も兼ねてっ。
カゲツ殿下のお望み通りに。
港町、絶賛拡張工事中ー。
……って。
「で、あの。これ、いつまでやるんでしょうか」
「お陰様で、帝国の誇る軍艦が六隻ほど損傷しましてね」
「……はい。次はどこの造成でせうか、しくしく」
「あらやだ、私がいじめているみたいな態度はおやめに?」
いじめられてなんか、ないやい。
どっちかっていうと、これは。
イジられている、みたいなっ。
コチョウー!
お姉さんを、止めてー!?
「コチョウは勉強を抜け出したので、帝都に戻されました」
助けは来ないらしい。
っていうか、リズも滞在城に強制送還されたしな。
それに。
シルフィは、普通に魔法術式で。
ウンディは、水の権能で。
サラムは、炎の権能で。
それぞれ、馬車馬のように拡張工事に駆り出されており。
もう、港町っていうか?
軍港レベルまで、拡張進んでるんですけど。
カゲツ殿下、何か、鬱憤溜まってたのかしら?
むぅ。
いや、逆に考えて。
錬金術を組み合わせれば、破壊する危険、低いんだから。
この際だし?
前世で見かけてた、防波堤や艦艇用整備ドッグとか。
練習がてら、全力で造成してみようか。
カゲツ殿下っていうか、帝国。
同盟国だし、困らないっぽいし。
よし。
そうと決めたら。
「うーん。じゃ、ちょっと全力で行きますのでー」
「えっ? あ、あの、危険とかはないのでしょうか」
「たぶん、大丈夫!」
「不吉な言い切りは止めて下さい!?」
大丈夫、きっと!
大賢者パラケルススの愛弟子、錬金術士メテル。
いっきまーす!
……やり過ぎた。
沿岸一帯、コンクリートでがっちり固めてしまったわ。
航空母艦でも、接岸おっけーだぞきっと。
あと。
余計なもんまで、うっかり建立してしまった。
「あの。逆さにした四角錐のような建物は、一体?」
「強く記憶に残ってたのが、そのまま造成されてしまい」
うむ。
一応、聖地の名をほしいままにした施設ですから。
きっと?
今後、各種イベントで大変に盛り上がると思います。
特に、真夏と大晦日に!




