84話 帝国海軍、健気に頑張る
『勝手に出ていくディーなんか、お姉ちゃんじゃないっ!』
『ラーム、我にも都合がある。眷属を護るは我が使命』
どかぁん。ずどごぉぉん。
わぁ。
怪獣大決戦だー。
と、言うのも。
片や、氷結の大巨人。
片や、猛炎の巨大竜。
双方ともに、精霊力の大盤振る舞い。
熾烈にして苛烈な、姉妹喧嘩の真っ最中。
だが。
君ら、ひとつ忘れてやしないかい?
君らが暴れるたびに、地上に現れる被害の数々。
──後始末は。
誰がやると、思ってんだ?
『『ひ、ひぃっ!? おしりぺんぺんは、ダメっ!?』』
はっはっは。
そんなもんで、済むわけなかろう。
見ろ。
我が家のお仕置き担当が。
能面のように笑みを貼り付かせて。
「うんうん、ウンディ、サラム。逆さ磔で甘味抜きっ!」
『『!?!?』』
オレは地上の被害を「後で」整えるだけだが。
現に?
リアルタイムで被害を防いでるのはシルフィだからして。
そりゃ、厳し目になるわなあ。
……そして。
「目標、氷の巨人っ! 各艦、斉射、てぇぇぇっ!!」
ぽんっ。ぽんぽんっ。
……なんか前世で戦艦ゲームとかやってたせいか。
帆船の横に並べた、ちっこい大砲が、可愛らしく見える。
ていうか。
ウンディに届いてませんがな、カゲツ提督。
──軍務総督って、言ってたっけ。
海軍も、カゲツ提督の麾下か。
「領海を犯したるは巨人! 我らに理ありですわ!」
ううむ。
効いてないっていうか。
確かに?
脅威相手に何もせずに帰しちゃったら、軍人の名折れか。
リズたちは、避難一択だよな。他国王族だし。
楽しかったけど、パーティここでお別れか。
まあ。
『さして、実害も意味もない』ので。
頑張って下さい、帝国軍人の皆様っ。
オレらは離れて、静かに見守ってます。
と、いうか。
こら、ウンディ。
事情を詳しく、聞かせなさいっ。
その、ウンディ。
リズやコチョウたちと離れた、オレとシルフィの前で。
水流で作った、超悩殺ボディに分離している。
あっちで、帝国海軍やサラムの炎竜と戦ってる氷?
ありゃ、今やただの彫像だ。
こういう、分身分離はウンディの得意技なので。
サラム?
あれは、姉がこっちに分離したことに気づいてない。
まあ、最近暴れ足りなかったみたいだし。
もう少し、暴れさせてあげよう。
炎の大精霊は、本来、運動が大好きなので。
「くぅ。これ見よがしに、盛っちゃってぇ」
『これが我の真の姿。盛ってはいない』
真の姿って、お前。
すらりと伸びた背丈は、オレとシルフィの中間。
全身は薄絹みたいに、水膜に覆われている。
全体的にスレンダー、耳も長く、確かにエルにそっくり。
けども。
シルフィがガン見してる、胸。
そこら辺が妙に、元より成長している。
でも、顔立ちは。
以前のウンディを、そのまま可愛らしくしたような。
つまり。
「ふぅん、理想の姿ってわけねぇ?」
『前世は我、ばんきゅっばーんであった。想像に非ず』
妄想具現化じゃねえか。
それはともかくとしてだ。
騒動の原因を、説明しなさい説明。
──いや、分かりづらいのは分かってるので。
シルフィ、翻訳しなさい翻訳。
したらば。
……むぅ。
複雑な歴史だのぅ。
この大陸に、亜人種が居ない最大の原因。
この大陸の覇者、人間族が?
亜人種を迫害して、追い出したから。
なので。
他の大陸や群島に、亜人種国家が樹立している。
ただし。
彼らは、人間への恨みを、忘れたわけではない。
つまり。
人族への攻撃の一助として、ダークエルフは。
水鏡を利用して、『空間を歪曲』する術を開発した。
つまり、ワープやテレポートみたいなもの。
これで、海を超えてこの大陸を攻めようとしたのか。
ただ。
幼いエルデガルドが浜辺に出てきちゃったのは。
ぶっちゃけると、実験のミスによるもの。
ダークエルフのテレポート術は、まだ実験段階で。
開発者の愛娘なエルデガルドが、転移しちゃったと。
……エル、無事で良かったなぁ?
転移は変な失敗すると、ハエと混ざったりするんだ。
「やぁ。こわぁい」
「あ、スマン。エルを怖がらせるつもりは」
「キスして、ママ、キス!」
「……君、分かっててやってないか?」
ちゅちゅちゅっ、ちゅぅぅー。
幼女が頬を染めて嬉しがるのは、微笑ましいが。
……光源氏って。
幼女を自分好みに教育したんだっけ?
いや、オレは自分好みにしてるわけではないから!
どちらかというと。
エルが、オレ好みに変化中と、いうか。
『故に、めーねぇ。その娘は、五体満足で返さねば』
「うん。じゃ、送って行こう。どこだ、ダークエルフの里」
『数千海里離れたる、別大陸にて』
びしぃっ。
オレ、凍る。
エルは普通のダークエルフだから、船に乗らないと。
いや、船くらい、姉妹の誰でも作るのは容易い。
実際、ウンディも氷の巨人になって、水面に浮いてたし。
でも、オレ。
……めっちゃ、船酔いするんだ、これが。




