82話 女性には別腹がみっつもよっつも?
「ふふーん、めーちゃんの新しい服は、これっ!」
「コレに着替えさせたくて合体魔法撃たせたとか?」
「んーっ、内緒!」
確信犯だな、このやろう。いやこの次女。
オレの新しい衣装は。
上着にスパッツの、すっげーラフな普段着ではあるけど。
上着の丈が、普通なら股まであるところ。
……超絶ミニスカートっていうか。
スパッツ丸見えじゃねーか、こんちくせぅ。
食い込みキツすぎて、筋がくっきりな気がしなくも。
なんだよこれ、まるっきりシルフィの普段着では?
「うんうん、アタシの服も、似合うよね!」
「胸とケツがキツいんだよバカやろう」
「──めーちゃん、今日はご飯抜きっ!」
「オレ、別に悪くなくない!?」
そもそも、オレの体型を作ったのはお前だろうが!?
っていう、言い訳は聞いてくれないんだよなこの妹。
まったく、わがままさんめっ。
そういうところも、まあ、可愛いけどな。
ぜってー、伝えてやらないけど!
「閉じ込めて居たわけでは、ないのですよ?」
「あ、分かってますよ殿下」
エルを、軽く外に連れ出すにあたって。
猛烈にオレに懐いてるっていうか?
女の子以外に、近寄りたがらないので。
必然的に、オレらが抱いて出ることに。
別にカゲツ殿下が閉じ込めてた、なんて思ってない。
単に、帝国の軍人さんに、女性が少ないだけだろう。
実際?
今まで見たことある帝国の女性騎士って。
コチョウ率いる、近衛師団しか知らないからな。
「後宮警護を兼ねるので、女性でないといけないのですよ」
「ほほぅ。そこんとこ、詳しく」
え、全男性の夢?
ハーレム? ねえ、ハーレム持ってるの皇帝陛下?
忙しすぎるって言って。
初日の夜会からすぐに、帝都帰っちゃったけど。
「違います! 帝国の後宮は、老女を養っているのです!」
ほぇ?
コチョウの説明によると。
皇帝陛下、亡くなった皇后陛下一筋のお方で。
後宮は元々はハーレム用途だったのが。
現皇帝の代になってからは?
王宮侍女を、引退後に養う施設に代わってるって。
その中で、乳母や幼児教育教師を余生にしたり、とか。
つまり、養老施設兼、貴族子息所の保育施設か。
なかなか、余った施設を有効に活用されてらっさる。
リズ?
王国も、そういうのやってないの?
「王国は普通に幼年から高等まで学習院がありますからぁ」
おおっと。
ていうか、学習院作ったの、親父殿と御母君らしい。
──オレら? そんなとこ、通ったことないです。
やべえ、藪蛇だった。
リズが告げ口したら?
オレ、この年で学校通いになる気が。
やだよ勉強とか今更!?
「ママぁ。キスぅ」
「ママじゃねえ。なんで羊羹食って額に付くんだよ」
ぺろり。
ついでに、ほっぺにちゅぅぅ。
全く、妙に甘えっ子なんだから、エルは。
って。
君等は、何故に赤面してるのだね?
普通に、幼女とスキンシップだろう。
「アリですねぇ!」
「アリですな!」
「めーちゃん、アリよ!」
「アリ、かしら?」
四人で声合わせんでも。
普通に、甘味処に入って食べさせてるだけ、ですやん。
って、いうか。
オレら、身分的には全員、王侯貴族だからして?
それに、帝国で一応軍事機密的な、エルが居るから。
周囲の警戒レベルが、偉いことになってて。
ただいま、甘味処、全店貸し切り中。
元から居たお客さんたち、追い出してごめんよ。
そして。
「ママぁ、次はこれ! おしるこたべたい!!」
「カタログの最後まで制覇する勢いですね君は」
エルや。
いったい、君のその小さな体の、どこに。
見てるだけで吐き気を催す量の、甘味が蓄積されてくの?
「えっとね、甘味は別腹、なんだよ!」
「誰だそんな嘘知識教えた奴」
こら。
そっと目を逸らすな、次女よ。
「わぁん、アイアンクローはだめぇ!?」
「お前の場合は、ほんとに胃袋を気圧で圧縮するからだろ」
「ほんとのほんとに、別腹はあるんだよぉ!」
「何を寝言を……、っていうか、全員で深く頷くな!?」
お前らは、胃袋がみっつもよっつもあるのかよっ。
まさか、うすらでかい乳袋も、前世が牛だからとかっ!?
っていうか。
ふと、護衛のレイドさんと、目が合って。
あ。
レイドさん、精霊核ネックレスの効果、出てますね。
いま、二十代くらいに見えますよ。
もう少し老けたら、故郷に帰れますね?
そうじゃない?
今、重要なのは、それじゃない、と。
何でせう?
え、女性に逆らっちゃいけない?
さ、妻帯者が言うと、重みがありますよね。
言葉で戦うと、倍返しされるだけ?
うひぃ。
そういえば。
オレ、滞在城に帰ったら、おしおき待ってるんだった。
……何着せられるのか、がくぶるっ。
か、かくなる上は。
帰城前に、姿を消すしか?
「あ。ママぁ? お姉ちゃんが、呼んでるぅ」
「……は? オレに姉なんて」
と。
エルが、指差す先を見れば。
甘味処の、窓の向こう。
夕焼けで黄金色に輝く、水平線。
の、付近に。
「わぁわぁわぁ。氷霊の塊だよぉ、あれ」
「……間違いなくウンディだな。ド派手な登場しやがって」
推定全長、数キロメートル級。
あほみたいなでかさの氷山が。
ゆっくりと、潮の流れをガン無視して?
浜の方へ、近づいてくるのが見えていた。




