80話 妹愛は、国境を超える
「コチョウはー、メテル殿下と魔法練習してるのではー?」
びびくぅん!
と。
コチョウの肩が、はっきりと震えるのが見えた。
そういえば。
身体強化、教わる予定だったんだけど。
『両手を取って、お互いの魔力を送り合って循環』
という練習方法を取るらしいので?
──オレという精霊の魔力を送ったら。
レイドさんっていう、失敗前例もあるし?
人間のコチョウがどうなるか判らん、という理由にて。
練習断念、せざるをっ。
シルフィ開発の、精霊力系の身体強化はあるから。
困りはしないけど、覚えたかったなあ。
で。
漂着民が収容されている、港の砦。
元々は、港湾管理官の旧館で予備施設、無人だった。
「緊急避難場所として残してあったのですけどもね」
「カゲツ殿下っ、えいえい英断っ。さすが軍務総督ぅ」
優雅に笑うコチョウの姉君、カゲツ殿下と。
よいしょがさりげない、ウチの次女。
なんだよォィ、妙に気が合っちゃってんじゃねえか。
「王国第一王女と、うちの長女が揃って行方不明だからぁ」
お鉢が回って来たのよっ、ってシルフィが。
──ご、ごめん?
公務の予定、把握してなかったわ。
オレとリズが居なかったら、地位が一番高くなるんだな。
むしろ、お前が全部回れば?
能力、知識、対応力的に、全部完璧だと思うんだけど。
とか思ったら。
じろりっ、と睨まれて。
ふと、困ったように笑う、後ろのカイルくんと目が。
あ。
そうか、デート中だったんだな。
そりゃ邪魔して悪いことしたなあ。
って、いうか?
『どこらへんまで進んだのだね。具体的に』
『何も進んでないないないっ!?』
今度はシルフィの背が、びびびくんっと。
ショートパンツスタイルの足に、ローヒール。
活動的スタイルは、浜辺なこの港町によく合ってる気が。
そして、愛し合う男女が手に手を取り?
浜辺で、一夜を過ごし……。
熱く火照った身体を、お互いに重ねて……。
『かいかいカイルとそんなこと、しないもぉんっ!?』
『──別にカイルくんとお前の話だとは、一言も?』
『!?』
にこやかに表面上はカゲツ殿下と視察するシルフィ。
その肩や背中が、裏の精霊通信に反応して、震えるのが。
いや、面白いぞ次女よ。
いじり甲斐、ありまくりだ。
だが。
いじり甲斐と言えば。
「今日は重大な日だからって、楽しみにしてたわね」
「はっ、はい。その通りで」
「だから軍務代わってあげたのにね」
「姉上のご配慮、有り難く」
「着物、何着も選んであげたわよね? 見せた?」
「いっ、一着だけ……」
「どうだったの? 可愛いコチョウの話、聞きたいわ」
……あっちもあっちで、結構いじられてんなー。
あちらはカゲツ殿下の方が上手らしい。
妹いじりって、姉の特権ですよね?
なんて想いを込めて、コゲツ殿下を見やると。
くすりと笑って、軽いウィンク返してくれたので。
姉同士の妹可愛がり信念は、国を超えて繋がるらしい。
王国と帝国の絆は、今後数十万年、安泰ですね!
その頃、人類が存続してるかどうかも知らんけど!!
つって。
視察が奥へ、下部へ進むにつれて。
理由いろいろつけて、随行員が減り。
最深部へ進む頃には?
王国から、オレ、シルフィ、リズ。
帝国から、カゲツ姫、コチョウ。
護衛たちとも、ここで一旦お別れ。
ここから先は、正真正銘、帝国の軍事機密。
王族以外は、ほぼ立ち入れませんのことよ、と。
それくらい、帝国では……。
『精霊力を、自在に操る』
っていう、漂着した亜人種を重要視してる証明かなと。
──オレら四姉妹が、四大精霊だと知ったら?
環境破壊してでも、惑星改造を願いそうだなと。
なので、一応、内緒ちぅ。
砂漠気候って。
その地域で生きる人間には、不便だらけだもんねー。
……そりゃ、やれば出来ちゃうけど。
惑星の気候っていうのは、複雑に絡み合っていて。
例えば太陽発電。
一見、エコに見えるけど。
地面に降り注ぐはずだった太陽光熱の一部を奪って?
上昇気流の生成を、阻害しているから。
長期的に見ると、一帯の気候を乱していることに。
結果として?
巡り巡って暴風雨を呼んだり、逆に雨が減ったり。
被害に遭うのは、その地域外の人だろうけどね。
風力発電も、本来吹き抜けるはずだった風力を奪う。
すると?
どこか遠くで気流が変化して、逆に暴風を生んだり。
つまり。
気流、海流、地熱っていうのは。
複雑に絡み合って、現在の惑星気候を構成しているから。
軽々しく、大々的にいじるべきではない、ということ。
──オレは別に、困らないけど。
天変地異の全てに対応できるほど?
今の人類って、強いわけじゃないからなあ。
そういうことで。
帝国が、精霊をどう、扱おうとしてるのか。
それは。
四大精霊を崇拝する王国としては、重大関心事。
という、名目で。
ぜったい、ウンディが関わってんだから?
ここで待ってりゃ、あいつ、きっと現れるぜ!
と、思ってたんですけども。
──あいつの気配、半径数キロ以上、反応ないし。
あ、あるぇ?
ともかく。
漂着民本人に、会ってみよう。
そうしよう、そうしましょうっ。




