79話 なんで、バレたし
「お刺身っ、ウマァァァァァ!!」
握りこぶしっ。
刺し身に醤油、どちらもきんっきんに冷えて!!
これこそが和食ですよっ。
和食の美味しさは、世界一ィィィィ!!
「喜んで頂けて、幸いです」
「うえぇ。メテルお姉様ぁ、お魚がこっち見てますぅぅ」
ぁ。
生魚を受け付けない外国人って、日本でも居たもんな。
リズは生魚苦手、活造り系は恐怖らしい。
慣れれば、美味しいんだから。
無理しないでいいので、そのうち食べてねっ。
で。
帝国南方の、沿岸地域。
到着、しております。
普通に港町なんだけど。
帝国海軍の駐留地が至近距離にある関係で?
軍人と民間人と、ついでに商船関係者に、観光客。
人種のるつぼってくらいにごった返してて。
ものすごーく、賑やかですね。
最初、難破とか漂着とか聞いてたから。
波しぶき轟く、磯の多い岩場を想像してたけども。
「夏場は王国からの観光客で賑わいますよ」
「そっか。王国って、海がないもんな」
街道を浜と丘で挟むような、長細い立地の街。
浜辺に出てみれば。
左右方向、見渡す限りのー、浜辺っ。
白い砂浜、エメラルドグリーンの、海っ。
日差しは強いけどー。
これは、水に入りたくなっちゃうな。
「泳ぎますか? 水着は、売店で買えますが」
「あ、いや。それは遠慮したく」
「え? そうですか。差し支えなければ、理由が?」
「オレ、全力カナヅチなんだよ」
えっ、ってコチョウとリズに、揃って驚かれた。
なんかオレ、スポーツ万能みたいなイメージあるらしい。
そうでもないっていうか、苦手なことの方が多いけど。
それに。
オレ、地の大精霊だからして?
地面から離れると、権能が使えなくなります。
お風呂中とか、お湯に浮かぶと権能なしなんだぜ。
──まあ。
人に軽々しく言えない体重の、オレ。
浮力が、絶望的なんですけどね。
中身、みっちり詰まってるからなあ。
「そ、それはともかく。もうすぐ、漂着民の館ですが」
「隠密メテル、こっそり行くぜっ」
「メテルお姉様、物凄く目立ってますよぉ?」
うん。
往来の屋台に居るのに。
周囲を行き交う人々の視線が、めっさ痛い。
すんげぇ、見られまくってますな。
そら。
三人姉妹みたいな服装で、二人ともに美少女なんだもん。
コチョウは黒髪で、オレは銀髪、リズは金髪。
で、三人できゃいきゃいと食事処巡り。
目立ちもしますわな。
い、いや。
食事は美味しかったけど。
これからが、このお忍びの本番、なんだぜ?
『ふんふんふーん。お忍びのつもりだったんだー』
!?
何故に、精霊通信がっ?!
近くに、シルフィかサラムが居ますのことっ?
『めーちゃん、右、右。そうそう、そっちの、上』
きょろり。
言われるままに、見上げると。
……数キロほど向こうの、物見台っぽい塔に。
居るんだもんよ。
シルフィと、カイルくんが。
『なんで居るしっ!?』
『ウンディの情報集めで帝国に来たんだから。居るよぉ』
くっ。
考えることは、同じかっ。
『カゲツ殿下も来てるからー、合流しよっ!』
くぅ。
満面の笑みが、超怖いぞ。
い、いやっ!
まだ、やらかしの大半はバレてないし!
お忍びがバレただけなんだ、どうにかごまかせるはず!
『めーちゃん、帰ったら新しい衣装が待ってるからねー』
そんな情報は、要らなかったんだよシルフィ。
……オレ、次は何着せられるんだ??




