75話 そっちの扉は、そっと閉じてね
「メテル様! 今日は、私の部隊を見学して下さると!」
「あ、オレもだけど、こっちの妹もね」
ずいっ。
こーら、サラム。
隠れないの。
「さ、サラムー。メテル姉の、妹っ」
「わぁ……、メテル様に、よく似ておいでで」
コチョウが、目を丸くしてるのは初めて見たかな?
そう、ウチの妹、可愛いでせう?
今日は、コチョウが率いる帝国近衛師団を、見学の予定。
わざわざ滞在中のお城に来て貰って、申し訳ない。
合同練兵訓練で?
帝国騎士と王国騎士が、模擬戦するっていうから。
予定はなかったけど、オレらも、見学に来たのだ。
って言っても、王国騎士は、カイオンさんたちだけどね。
オレが行くって言ったら、サラムもくっついて来た。
そういえば、最近、剣技に興味あるもんね、サラム。
でも、人見知りさんは相変わらずだ。
──だから、オレの尻に隠れるなと言うに。
「剣を合わせるのは久しぶりでございますな、コチョウ姫」
「ええ、二年ぶりでしょうか? 腕は鈍っておりませんよ」
いつものカイオンさんの、爽やかスマイル炸裂。
でも、コチョウも割と、獰猛な感じの笑みで。
あれれ?
ライバル関係とか、なんかそんな感じなの?
「剣聖の称号、伊達ではないのですよメテル姫」
「この男、未だ合同練兵で不敗でしてな」
ほむほむ?
王国騎士で、唯一負け知らずらしい。
なるほど?
剣技に限れば、万夫不当って感じでしょうか。
「いえ、私も勝てない御仁が、それそこに」
「な!?」
コチョウが、びっくりしてる。
ウチの執事長、セバスさん。
なにげに、先代剣聖さんだって言ってたっけ。
今は、優雅にテーブルで熱めの紅茶入れてるけど。
サラムも、勝ったことないって言ってたっけ。
──サラム、コチョウと手合わせしてみたら?
「ふぇ? いいの、メテル姉?」
「いいかな、コチョウ? 稽古つけて貰えたら嬉しいけど」
「メテル様の妹御であれば、喜んで!」
と、いつもの快活な笑み。
周囲の帝国近衛兵な皆さんも、にこにこ。
──その笑みが、いつまで保つかな、と。
ふと、オレの頭によぎったんだけどね。
炎の化身、火の大精霊は、伊達ではないんだぞ、っと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ま、参りましたぁ」
「あ、危なかった。本当に、剣は素人ですかサラム姫?」
練兵場で、肩で息してるコチョウ。
その前には、物凄く悔しそうな、サラム。
ううむ。
仕方ないよなあ?
オレの素人目にも、かなりいい感じに戦ったと思う。
神速の連続斬撃や体術で、コチョウを翻弄してたし。
けど。
まさか。
……剣を、斬られるとわ。
「帝国騎士の使う大太刀は、世界最強ですから」
「うん、凄いよねその刀」
さり気なく自慢げに、コチョウ、ぴぅ! と風切り音。
軽々と片手で扱ってるけど。
結構重いよね、大太刀って? 刃渡り長いし。
「身体強化の術ですよ、メテル様。帝国騎士の必修です」
「あ、それそれ。オレ、教わっていい?」
「無論です! メテル様ならば喜んで! ……別室で?」
「んぇ? ああ、個室とかあるのかな」
「ええ、それ、練兵場の端に、女子更衣室が」
「おぉ。じゃ、二人っきりでやっていいのかな」
「ええ、私とメテル様の、二人っきりで。……はぁはぁ」
──。
なんか、コチョウの息遣いが、妙に荒く。
ラスティと同じ匂いを感じるんだが。
ま、まさかね?
帝国の皇女殿下に……、アイアンクローは、避けたい。
「じゃ、サラムはどうする?」
「ボク、コチョウ姫の刀を見せて貰いたいです!」
「ええ、良いですよ。少し重いですので、気をつけて」
いいとこひとつも見せないうちに?
剣、ぱっきり斬られちゃったもんな、サラム。
剣を合わせることが出来ないって、結構なハンデだよな。
そんなサラム。
落ち込んだのも束の間?
今は、コチョウから手渡された、刀に夢中。
近衛師団の他の方に、いろいろ細かい点を教わってるし。
……気が紛れて、良かったなサラム。
で。
女子と思えないくらい、コチョウの剣技は速かったけど。
あれも、身体強化の術と併用なのかなあ?
「はい。帝国騎士は、幼少より修練しますので」
ほお。
小さい頃から繰り返し修練して?
反射的に使えるくらいまで、複数の術を覚え込むと。
だから、無詠唱で、術を重ねて戦えるのか。
なんていうか?
それって、騎士っていうか、サムライだよねー。
「いえ、サムライの称号は特別なものですから」
「へぇ?」
「首級を上げた騎士のみが、誉れあるサムライなのです」
うぇ。
首切り族的な風習が、あったんですね帝国って。
いや、なんというか、戦闘民族とは事前に聞いてたけど。
そして、苦痛を長引かせない慈悲とも知ってるけど。
……目の前で、いそいそと甲冑外してるコチョウが。
なんかちょっと、怖くなったりしましたとさ。




