74話 またメイド服を着るとわ
「デメテルお姉様?」
「全力で反省しとりますー」
もはや定番。
メイド服のオレ、全力で土下座ちぅ。
──前回より、スカート丈短くなってねえか、コレ?
ここは迎賓館の近傍、高級宿泊地。
親交使節団つっても、人数が総数で百人近いので。
これだけの人数を収容出来ちまう宿って、普通ない。
ので。
割と大きな城が丸ごと、滞在地に指定されている。
まあ、城って言っても、廃城になって久しいらしく。
既に、実用性はないらしいけどね。
で。
このお城が、もう日本のお城そっくりというか。
石垣が組まれて、中央に天守閣があって。
……白い漆喰をふんだんに使ってるせいか?
なんか、前世で白鷺城って呼ばれてたお城を彷彿と。
その中で。
天守に集まってるのは、リズとオレら四姉妹。
他の人員と区別されていて、立ち入らないから。
内部では結構自由に過ごしている。
……だからって。
またメイド服着て下働きするハメになるとわっ。
……いや、まあ?
さすがにオレも、アレはないなと。
「ていていてい、帝国の皇女殿下と同衾するとかぁ……」
頭が痛い、みたいな素振りでシルフィが、ため息。
まあ。
女性同士だったので、微笑ましく受け取られてるけど。
問題は。
コチョウが、オレの顔をはっきり認識しちゃったこと。
「そろそろ、自覚してもいい頃合いだよめーちゃんっ?」
う。
ううむ。
認めたく、ないというか。
オレの意識的には?
絶世の美少女=シルフィ。
絶世の妹=ウンディとサラム。
絶世の父親=親父殿。
……みたいな、認識があってですね?
「ううう、嬉しいけどっ。──絶世の妹って、めーちゃん」
「誰が何と言おうと、オレの妹たちは世界最高だ!」
「ああもう! でででっ、ちゃんと分かってる!?」
はぁ。
認めたくは、ないけれども。
……オレって、結構、可愛いの?
「可愛いどころか、超絶の美女なのっ!!!」
う。
周囲の侍女さんズまで、一緒になって頷くとか。
ええぇ。
ほんとに、この顔がぁ?
「ああっ、待って待って、目隠し外しちゃダメ……ッ!?」
「んぁ? なんでだ? 外さないと確認出来……」
おおっと。
目が合った侍女さんズが、どんどん床にへたり込んで。
あれ。
なんかこれ。
ちょっと、楽しいぞ?
「もしかして。姉妹にも効くのか?」
「わぁぁ!? めーちゃんっ、覗き込まないで!?」
「そんな、オレとお前の仲だろ?」
「押し倒さない! やぁん、だっ、ダメダメダメ……」
「ここに取り出したるは、普通のオレの指」
「わきわきさせないー!?」
撫で回すだけで、変な声出して反応するシルフィ可愛い。
よほどのくすぐったがりだよなあ、妹たち。
さて。
現実逃避はこれくらいにして。
「はぁっ、はぁっ! めーちゃん、今日一日、休みなし!」
分かってるよ、くそぅ。
コチョウの方のフォローにリズが回ってる関係で。
オレ、しばらく、この城から出れないというか。
外出禁止令、発令中。
そして。
ウンディが、居ないもんで。
今まで水の精霊力で無尽蔵に使ってた、水。
人力で、汲まないといけなくなって。
ああ。
早いとこ、ウンディ見つけないとなあ。
双子の上が入れた水を、双子の下が沸かしてお風呂三昧。
姉妹四人、水入らずでのんびりしたいぜ。
手掛かり、今んとこないけど。
で。
……周囲が砂漠な、土地柄。
水場が、結構遠いんです。
侵入者防御を想定してるからか?
道筋が曲がりくねって、そして石の階段だらけだから。
天守から井戸まで、軽く1キロメートルくらいはある。
全員で手分けして、毎朝毎夕、水瓶に貯めておく。
それが、下働きの日課。
さすがにこれだけの重労働、侍女さんズの仕事ではない。
「ホッホッホッ。随分と、絞られておられましたな」
「助けてくれないセバスさん、嫌いー」
男性部隊、執事軍団のお仕事なんだよねー。
なので、セバスさん先頭に立って、お仕事中。
じとぉー。
ジト目で睨めつけても、セバスさん好々爺。
むぅぅ。
ただ。
執事服の腕が、尋常じゃないくらい盛り上がってて。
「若い頃は倍は持てたんですがなあ。歳ですな」
「その歳で、樽ふたつも持てたら凄いと思う」
そう。
セバスさん、両手で水の詰まった樽を、軽々と両肩に。
重さ的に、ええと?
前世でいうと、ドラム缶の四分の一? くらいのサイズ。
ええと?
確かドラム缶って、二百リットルだったから。
四分の一で、おおざっぱに、1本五十キロくらい?
二本担いでるんだから……、えっ、百キロ??
これくらい持てないと、騎士って務まらないのかな?
「軽騎兵や弓兵も騎士の範疇ですし、一概には」
ふんふん。
全身鎧の騎士を、王宮ではよく見かけたけど。
全身鎧自体が、軽くても六十キロ以上あるので。
そこから更に剣や槍を持って、しかも戦うから?
騎士見習いがやる鍛錬と、ほぼ同じことらしい。
で。
軽騎兵は革鎧で機動性重視。
弓兵は鎧非着用で遠距離射撃重視。
そんな感じで種別があるから。
騎士イコール、全員が重騎士なわけではないと。
ほー。
さすが先代剣聖さん。
詳しいなあ。
「ホッホッホッ。魔法で身体強化する手もありますがな」
「ああ、オレが今やってる」
「私もほんの少しだけ」
あ、なるほどぉ。
セバスさんも、魔法で筋力強化してたのか。
オレは、今一本だけ水樽、前に抱えてるけど。
さすがに?
オレでも水っていう権能外の素材は、軽量化出来ない。
ので。
全身に精霊力を漲らせて、身体強化してるのだ。
「帝国騎士は、その技法がとても優れておりましてな」
「え? 帝国って、騎士が魔法使うの?」
「使いますとも。魔法剣士としては、大陸最強です」
純粋な攻撃魔術としては、王国魔道士のが優れてるけど。
帝国では、戦闘中に剣士が魔法をばんばん使うんだって。
身体強化系統だけでなく、無詠唱含み、攻撃補助全般で。
逆に、王国は魔法兵団との連携がとても強いそうで。
そして。
帝国では基本的に、剣士は全て騎士で、馬上弓兵。
武芸百般つって、剣だけじゃなく、武器何でも使うって。
だから。
一騎当千。
それを体現してるのが、帝国騎士なんだとか。
「へぇ、へぇぇ! それは、ちょっと教わりたいな」
「コチョウ姫が、帝国近衛師団長でございましょう?」
へっ?
あ。
最初に会ったときに、帝国近衛って名乗ってた。
あ、それ、いいな?
謹慎解けたら、教わりに行きたい。
オレ、魔法苦手すぎるからして。
権能以外の技法、覚えたいなと常々。
で。
その機会は、意外と早く、訪れた。




