73話 酒は飲んでも呑まれるな
「酷いではないか、デメテル殿!」
怒られた。
くっそ、誰だコチョウ姫にバラしたの。
早すぎだろう。
「むしむしむしろ、バレないと何で思ったの」
にやにやをやめろ、次女よ。
──まあ。
迎賓館で普通に会食しちゃったもんな。
オレ、長女だからして。
使節団代表で、皇帝陛下に、ご挨拶したからか。
うーん。
コチョウ姫の姿は見えなかったんだけど?
どこで見てたんだろう。
「王国王妹の娘御、四姉妹長女が目隠ししていたと聞いた」
「……あっ」
むむぅ。
目隠しって、もう身体の一部みたいになってるから。
そうだよな、冷静に考えなくても?
ものすぎょい、外見特徴だよなあ。
そして。
現在、迎賓館で行われてる、夜会。
コチョウ姫ほか、皇帝陛下の姫君たちと、立食中。
……まさか、余所の国でまで社交パーティするとわ。
「これも皇族の務め。堅苦しいのは、同意するがな」
闊達にお笑いになる、コチョウ姫。
うーん、やっぱりこの姫、好きだわオレ。
好みが、結構似通ってると思う。
「珍しく衣装選んでたのは、デメテル姫のためでしょう?」
からん、と。
氷をたっぷり入れたお酒を片手に、美女な姫様が。
ご挨拶、ご挨拶っ。
こちら、コチョウ姫の姉君、カゲツ姫。
すらりとした体型に、優雅な着物っぽい衣装。
着物っていうか、チャイナドレスに近いかな?
腰スリットの下は、カモシカのような生足。
確か、コチョウ姫が17歳で、カゲツ姫が21歳だっけ?
なるほど確かに?
カゲツ姫、大人の魅力むんむんっ。
これは、シルフィとは違った魅力だなあ。
あいつのは、なんか背伸びしてる感じあるもんな。
「主賓がこのような端で、どうしました?」
「あ、いや、主賓はオレじゃないので」
「あら? 往路でのご活躍、妹より聞きましたわよ?」
だから今日の主役だろう、なんて言われてもなあ。
むしろ?
オレの精霊力に惹かれて出てきちゃったぽい、砂虫たち。
……オレが、戦犯なのではなかろうか。
い、言わないけどねっ。
「姉上、今は私がデメテル姫と話しているのですよっ!」
「それにしては、全く喋っていなかったじゃない」
「むぐっ!? そ、それは、デメテル姫が大変お美しく」
「珍しく女物着たんだから、褒めて欲しいんじゃないの?」
へえ?
そういえば、コチョウ姫のドレスって、初めて見るな。
帝国の民族衣装なのか、全体的にチャイナっぽい。
御二方とも、とてもお似合いですよ?
ああ、コチョウ姫はなんで俯いてしまうのだ。
お化粧した顔も、昼間の精悍な表情もどっちも可愛い。
そんな、皇女姉妹のチャイナドレス。
どちらも、腰の辺りに深いスリットが入っている。
少し違うのは。
カゲツ姫が生足で、コチョウ姫がカンフーパンツ。
「あ、足を晒すなど、はしたないではないか……」
「筋肉美なんだから、見せればいいのに」
「姉上!?」
あっはっは。
ほんとに、仲のいい姉妹だなあ。
なんだか、オレが妹らをイジってるような感じ。
揶揄するカゲツ姫も、嫌味っぽい感じはしなくて。
むしろ、武芸に秀でた妹の長所、みたいに。
「ああ。確かに、昼間のコチョウ姫は、凄まじかった」
「……」
「褒められたんじゃないの、どうして真っ赤に?」
「あ、姉上は少し黙っていて頂きたい!!」
か、可愛いぞコチョウ姫。
褒められ慣れてない、のかな?
オレの一言で、顔真っ赤っか。
と。
姫の頬に、編上げの髪から、後れ毛が。
すいっ。
軽く、手の甲で頬を撫でて、払ってやる。
「な……、で、デメテル様!?」
「あ、いや。後れ毛が、頬に」
「ありっ、ありがとうございますっ!」
「あ、それと」
「な、なんでしょうか!?」
「オレのことは、『メテル』と」
オレの方が、御二方よりちょいと背丈があるので。
軽く屈んで、顔を寄せて、こっそり。
デメテルは、正式名なので。
ていうか、呼ばれ慣れてないので、一瞬反応がね?
「あっ……、あ、愛称でお呼びして、よろしいので?」
「もちろん。むしろ、嬉しいですよ」
「では、私にも敬語は要りませんので!!」
「え。じゃあ、コチョウ?」
「はい、メテル様!」
なんでオレには様付けなんですかね。
コチョウ姫の舞い上がりっぷりが珍しかったのか?
カゲツ姫から、コチョウ姫を頼まれてしまった。
そのカゲツ姫は、軽く会釈して、またパーティの中へ。
後に残されたオレと、コチョウ。
コチョウの反応が、急に、変わったというか。
なんか、かっちんこっちんに緊張してるっぽいんだけど。
ううむ?
何で、急にそんな反応に。
理由が判らないので?
ぐびり、と卓の上の、コップの中身を。
あれ。
これ、もしかして。
水じゃなくない?
で。
……まさか。また、なのか?
「あるぇ? こるぇ、何か、入ってるぅ?」
「あ! これは我が国の米酒! 水ではありませんよ!?」
「うふぇ。米酒かぁ、くぅぅ、効くぅ!」
なんと。
憧れと懐かしの、お米があるんでやんすね!
……でも。
さすが、米の蒸留酒、というか。
アルコール度数が、半端なくてですね。
ふらり。
足元がよろけるのを。
コチョウが、すかさず抱き留めてくれた。
「と、とりあえず別室で、お休みになられては!?」
「ふぁ。ごめんねぇ、肩貸して貰っちゃってぇ」
「何、メテル様程度、軽いもので……、きゃっ!?」
「むぁ。オレ、意外と見た目より重いからぁ」
「あっ、ダメっ、メテル様、このままではっ」
……。
すまん、コチョウ。
オレは、もう。
ね、眠いんだ……。
控室の、ベッドに押し倒した形だけど。
数時間程度で、アルコール抜けるはずだから。
少し、我慢してくれ。
「メテル様? メテル様!? ああんっ、幸せです!」
「くすぅ……。すぴぃ……」
「ああっ、メテル様の体温! メテル様の吐息!!」
なんか、不穏な台詞が耳朶を打ちまくってる気がするが。
ね、眠くて……。
ひとまず、おやすみぃー。




