72話 護衛の冒険者と思われてるオレ
「盲目の冒険者か、なかなかやるものだな!」
ばんばんっ。
どうやら皇女殿下に、背中叩かれまくり。
確か、コチョウ殿下だっけ。
オレ、馬には乗れないもので。
姫君の、馬の轡を引いて、街の中へ。
「めーちゃん、アタシら先に行ってるからねー!」
……誤解を解く気はないんだな、お前ら。
まあ、面白いからいいけど。
どうも、隊列の先頭で砂虫を相手にしてたせいか?
護衛の冒険者だと、思われてるようなのだ。
侍女さんズが用意してくれた、オレの今日の衣装。
動きやすいように、って最大限に配慮してくれて。
シルフィやサラムが着てるみたいな?
ふりふりフリルがなくて。
で、砂漠の気候に合わせて、半袖だからかなぁ。
帝国って、国土の北半分が砂漠帯なんだよね。
そうこうするうちに、コチョウ姫、下馬。
シルフィたちは、迎賓館らしき館へ行ったみたいだ。
姫君たちはっていうと?
どうやら、近衛兵たちの詰め所っぽい建物へ。
木造二階建てで、屋根の上に櫓。
いかにも、兵隊さんの砦って感じだね。
お姫様が武術っていうのが、王国になくてなんか新鮮。
リズは、武道とは無縁の天然さんだもんな。
オレも、姫君に手を引かれるまま、その中へ。
歓迎されてる感じは、するなあ。
周囲の近衛兵さんたちからの視線も?
一目、置かれてるような。
「しかし、盲目でどうやって周囲を見ているのだ?」
「えーと。魔力の発散や反射感知とか、そういう感じで」
「ほう! 私は魔力を追えぬ。冒険者とは、凄いものだな」
ああ、それで。
オレが発散してるあほみたいな精霊力に気づかないのね。
お馬さんはどうもそれを感知してたみたいで?
最初から、すげえ怯えられまくりだったもんなあ。
で。
帝国には冒険者は少ないんだとか。
皆無なわけではないんだけど?
帝国民の男性に、基本的に刀を帯剣する武人が多くて。
魔物退治が生活に組み込まれてるから。
なので、同じく魔物退治が専門の?
冒険者向けの依頼が、極端に少ないので。
ぶっちゃけると、冒険者の仕事が、王国と全然異なると。
「帝国の冒険者は、採集依頼などが多いな」
「ダンジョンとかはないんです?」
「あるにはあるが、あれは武人の腕試しに使われている」
おおぅ。
徹底的に、完全無欠な武人のお国柄なんだな、的な。
武人がそのまま支配階級で?
文官や官僚でも、戦えない人員がほぼ居ないそうな。
その分、王国と違って魔法職の地位が低いんだって。
「攻撃魔法など、一発二発耐えて接近すれば良かろう」
高笑いするコチョウ姫に、呼応する近衛兵の方々。
うーん、漢らしいっ。
オレ、この姫君、結構好きだと思う。
「ところで、目の傷は大丈夫か? どれ、見せてみろ」
「あっ。やめといた方が……」
「何、私は姫と言っても第三。戦闘の傷は見慣れて……」
しゅるり。
オレの目隠し布を、軽く解いたコチョウ姫。
ほら、言わんこっちゃない。
あまりにも醜すぎたのか、絶句されてしまわれた。
「醜いですよね。あまり直視しない方がいいっすよ」
「み……」
「み?」
「醜いなどと、莫迦を申すな! なんという、美!?」
「び?」
お口に両手当てて、赤面しまくってるけど。
びってなんだ、びって。
帝国語かねえ?
「冒険者などして、顔に傷でもつけたら如何にする!」
「いや、お姫様に言われるとは」
思わず、笑ってしまう。
鎧武者な貴方が言うな、的な。
と、それだけで硬直しまくってるコチョウ姫。
ほら、目隠し布、返して下さいよ?
「か、隠してしまうのか?」
「御母君に、あまり見せないように、って言われてまして」
内緒にしといて下さいよ?
後で、こっぴどく怒られるんですから。
ぶんぶんと、首が外れそうな勢いで首肯してくれたけど。
──こんなときだけど。
ウンディが居なくて良かった、的な。
あいつが居たら、水鏡でモロバレしてただろうから。
って。
そろそろ、シルフィたちに合流しないとな。
ウンディが居ないから。
今までと違って?
あっちも、オレの動向を把握出来てないはず。
姫君に、シルフィたちの場所を尋ねたら。
姫君自ら、オレを迎賓館まで送ってくれた。
──オレが馬に乗れないもんで、コチョウ姫の後ろで。
コチョウ姫の鎧の上から、腰を抱いたら。
終始無言で、なんかめっちゃ赤面してたんだけど。
なんか、オレ、顔真っ赤で怒られるようなこと?
したんだろうか。
ううむ?
やっぱり、御母君の言う通り?
目隠しはしといた方が、無難っぽいなあ。