70話 帝国へ行く準備が整うのを待っている
「親交使節団?」
「そう。数年おきに、帝国と王国で交換留学制度をね」
と、御母君。
目の下、くま出来てますよ。
なんか、いろいろと苦労してたの、丸わかり。
「わたくしの子供のことよ? 奔走して当然でしょう」
「私の姪でもある。我が子のことも、よろしく頼むぞ」
叔父上も、お疲れさまでしたっ。
王宮、いつもの玉座の裏の、隠し部屋。
親父殿に、御母君。
叔父上に、リズに。
オレ、シルフィ、サラム。
親戚、勢揃い中。
さり気なく、王族の集いになってんだけどね。
「本当は、わたくしも同行したかったのよ?」
真剣に悔しそうだなあ、御母君。
そう。
王国の重鎮で、王妹、宮廷魔術師の御母君。
大物すぎて、使節団に入れなかったのだ。
というか。
御母君が国から出ると?
いろいろと、王国の機能が止まるって。
どれだけ働いてるんですかね、御母君。
多少は見習っていいんじゃないですか、親父殿?
「私は私で、ちゃんと働いてるんですよ。──たまに」
ちゃんと目を見て言って欲しい。
いや、いつも通り絶賛目隠し中だけどさ。
「たぶん。ウンディさんは、水霊殿で見つけたんですよ」
何かを。
と。
表面上は、穏やかに続ける親父殿。
でも。
黒曜石の杖を握る手が、真っ白になってるのが分かる。
親父殿が、しっかり監視していれば?
変幻自在のウンディであってさえ、逃さなかった。
たぶん、そんな風に自分を責めてるんだろうなあ、と。
「古い弟子が、帝国には居ますので。頼んでおきます」
必ず、ウンディさんを連れ戻して下さい、って。
親父殿、それは頼まれるまでもないよ。
親父殿も、王国保持軍事力の一端だから。
王国から、軽々しく出るわけにはいかない。
と、いうわけで。
親交使節団の、面子は。
王妹ホリィ殿下の、子息女。
オレを筆頭に、シルフィと、サラム。
で。叔父上の、娘。
第一王女、リズ。
他にも何人か、王族以外でも文化人が入るらしいけど。
それは、これから出発日までに調整するらしい。
交換留学制度だから?
帝国側の面子と入れ替わる形になるので。
あちらの面子が決まらないと、決められないんだとか。
それから。
護衛で、ウチの侍従兼護衛コンビ。
カイルくんと、レイドさん。
あと、使節団の全体を、セバスさんが取り仕切っている。
……セバスさん、帝国でも有名人らしいけど。
何をやらかして多方面で有名なのか、一度聞いてみたい。
それに、リズの護衛で、剣聖カイオンさん。
──彼女さんとらぶらぶが始まったとこなのに。
連れ回して、申し訳ないなあ。
そのカイオンさん。
ハクラさんが注意事項言い渡す、つって。
絶賛、薬室に拉致られ中。
微笑ましく見送ってから、かれこれ二時間以上経つけど。
ナニか致してたりしたら、と思うと部屋に踏み込めず。
……ああいう関係も、ちょっといいなあ。
「え、何、めーちゃんそっちに行くの?」
「そっちってどっちだよ。オレはそんな気はねえよ」
ちょっといいな、って言っただけで勘ぐるな、次女よ。
──そういうお前は、どこら辺まで進んだんだ?
「ア、アタシはそんな風にカイルのこと、思ってないもん」
「別にカイルくんのことだとは言ってねえんだが」
「……!?!?」
はっはっは。
語るに落ちるとは、まさにこのこと。
後で隣室のカイルくんに、教えてやろう。
「シルフィ姉も、けっこんするの?」
「しーなーいーの! 変なことに興味持たないっ!」
「けっこんって、変なの?」
「変……、ではないけどぉ……、ぐぬぬ」
んー。
サラムが、元気を取り戻したのはいいんだけど。
なんかちょっと、幼児返りしてる気が。
ショックだったんだろうなあ。
双子の姉が、絶賛家出中なんだもんなあ。
旅の間に、何かフォローしてやらんとなあ。
「変ではないのですよぅ、むしろぉ、甘酸っぱいのですぅ」
「食べられるの?」
「食べられるというかぁ、食べちゃうというかぁ」
「何を口走ってんだお前は」
ぺしっ。
思わずリズの後頭部にツッコミ入れたら。
御母君に、きっ、と睨まれてしまった。
「メテルちゃん?」
「なんでせう、御母君」
「こんなのでも第一王女殿下、王位継承権一位なのよ?」
「信じられないことに」
「ほんとにね、どういう教育したんだか」
叔父上、叔父上。
そっと目を逸らさない。
リズも、自分のことを言われてると自覚しなさい。
「あちらは……、帝国は、礼式にとても厳しい国だから?」
「はーい。全力を尽くします!」
「……あ、いや、全力を尽くされるとアレだから、適度に」
「? はぁ。まぁ、では、そういうことで?」
「影武者でも立てた方がいいかしら。最悪、帝国が滅ぶ?」
失敬なっ。
オレだって、ちゃんと覚えたことは実践できますしっ。
えーと。
困ったら、目隠し外してにっこり笑えばいいんだよな?
「あっちで被害者増やさないのよ!?」
なんだ、被害者って。
オレの顔って。
もしかして、災害級に酷いのか??
まあ。
とにかく、面子は決まったんだ。
そうして、オレは表面上はのんびりと。
使節団の、帝国への出発日を、待ち続けた。




