07話 クソ親父に、会いに行った
「こうなっちまったからにゃ、親父殿には認知して欲しい」
「は? え、ちょっと待って。そもそも、どちら様で?」
確かに、街にパラケルススは住んでいた。
目の前で、ひたすら狼狽している。
いや、そんなことはいいから、家に入れろ。
そして寝かせろ。
眠い、疲れた。
そう言いたい。
衣装は砂まみれのホコリまみれ。
髪はバサバサ、体も汚れまくり。
魔物に襲われるわ、人間にも追われるわ。
もうほんと、ろくなことがない道中だった。
街と言っても、辺境の外れの街。
観た感じ、人口規模はそこそこ。
ただ、城壁らしい城壁もない田舎だ。
まあ、それはそれで、正直助かった。
だって、門番まで居たら、どう躱していいか判らん。
だってオレ、無一文だし入場料、払えないし。
この街にはそんなもん、ないみたいだが。
オレ自身は、人間の文明にそこまで詳しくない。
それは、他の姉妹たちも同様だけどさ。
それはともかく。
とにかく、オレは当初の目的通り、ここに辿り着いた。
もう、徒歩の旅行なんざ、御免被る。
だって、地脈に意識通せば秒で観えるのに。
ひたすら歩きで二週間って、バカじゃねーの、みたいな。
……「自分の足」で歩けるようになるまでも長かったし!
風なら風魔法で一瞬で来れるだろうに、怖いってお前!
「認知、出来ないって?」
「……ごくり。私の子、と主張されるんですか?」
生唾を飲み込むパラケルススは、ずいぶん小さく感じた。
っていうか、オレが無駄にでかいのか。
オレは前世の尺度で174センチくらい。
対するパラケルススは、165センチあるかどうか?
頭一つ分は低い、小男だ。
それに。
なんか、老いたっていうか、老けたなー。
白髪頭になってるし、てっぺんはちょっと危うい。
顔や手の皺も増えてるみたいだし。
人間の尺度はある程度理解した、と思うが。
それでも、時間が掛かり過ぎたかな?
「人間の尺度で、だいたい二十年前の話だ」
「おかしな言い方をなさいますね? はて、二十年前?」
……やべえ、かな?
人間の寿命って、百年だったか五十年だったか。
もうボケが始まってたら、どうしよ。
「ええと……。いや昔は、大陸中を放浪していましてね」
「……」
知ってるよ。
だから、思い出せ。
お前が言ったんだろ、「問題あったら自分を頼れ」って。
「……ああ! ……いや? え? えええ?」
「思い出したか?」
「いえ、二十年前、火山島に赴きました! 精霊に会いに」
「そう。そこで『やらかした』よな?」
「や、やらかし? 大地の精霊にお会いしましたけど」
「──ようっ、久しぶりっ」
「……? ……!? …………!?!?」
なんだよ。
せっかく最大限のフレンドリーな挨拶で、和ませたのに。
なんで、そんな驚愕しまくってんだよ。
──お前の、生涯を賭けた研究とやら。
人造生命体の成果が、会いに来てやったんじゃねえか。
「ほ、本当に……、人造生命体? ホムンクルス???」
「おう。オレにとっては不本意で、残念極まりないが」
憮然として。
オレはもう『恥も外聞もなく』、胸を逸らしてやった。
オレの、今の姿は。
──絶世の美少女。
人間の身で、これほどまでの美貌が達成できるのか。
まるで、神の被造物の如し。
眼は、紅蓮の如き真紅。
声は、銀鈴の如き美声。
肌は、白磁の如き白。
髪は、神霊の如き蒼銀。
体は、彫像の如き黄金率。
「だ、大地の……、精霊?」
「お前が刻んだ術式で、こうなった。責任取れ、クソ親父」
……パラケルススが正気に戻るまで。
更に、二時間を要した。
街中の人間からガン見されてるオレは。
見世物の気分を、存分に味わったともさ。
……くそ、こんちくしょう、マジでクソ親父め。
オレは確かに、男、だったんだどちくしょー!!!