69話 オレはとても不機嫌である
1,200ポイント超えましたぁ。
いつもいつも、ありがとうございますっ。
「でででっ、調子、どう? めーちゃん」
「すこぶる良い。十二年も貸してたとは、思えないくらい」
むっすー。
そうは言いつつも。
オレ、超不機嫌。
四大精霊殿で、コレ以上の収穫はなさそう、ってことで。
とりあえず、離宮に戻っている。
御母君と親父殿は、公務や報告がある、つって王宮へ。
そういうわけで、離宮に今いるのは。
セバスさん以下、執事軍団と侍女さんズは居て当然。
屋内屋外あちこちに散って、忙しく働いてらっさる。
それから、オレ、サラム、シルフィは当然。
室内に居るのは、オレら三人だけだ。
吟遊詩人のカイルくんと、冒険者のレイドさん。
この二人は、侍従兼、護衛だから部屋の外に居るけどね。
でも、みんな。
不機嫌なオレのこと、腫れ物みたいに。
唯一、シルフィだけが。
オレの傍らで、『身体のメンテナンス』を手伝ってる。
──結論から言えば。
オレの左半身。
チタンの義手義足だった左腕と左足が。
……精霊核に、戻ったんだ。
「あのバカ妹。戻ってきたら、きっついお仕置きだぞ」
「ひっ、指わきわきはダメっっ!?」
「わきわきだけで済むもんか、あーしてこーして」
「めーちゃんめーちゃん、それ以上は姉として」
そういうお前も、頬を赤らめてんじゃねえよ。
ナニを想像したんだ一体。
そう。
オレの左半身が、精霊核に戻った、最大の理由。
──ウンディが、自分の身体をオレに、返したからだ。
今のウンディは恐らく?
実体のない、純粋な精霊力だけで動いている。
……と、いうことは。
「たぶたぶたぶん、帝国の方に居る、んだと思うんだけど」
自信なさげな、シルフィ。
探知系は苦手だもんな、お前。
そこら辺は、オレとウンディの分担だったから。
精霊核をオレに返して?
実体のない精霊に戻ったウンディ。
そうなると、今のウンディは、海や川、湖に溶けてる。
あっちからサインを発しない限り。
居場所の把握は、恐ろしく困難だ。
オレと違って、無駄に精霊力を発散しない子だし。
「どうして、何も言わずに行っちゃったのかなあ……」
物凄く心配げなサラムを、背後から抱き締め。
その頭頂部にオレの顎を乗せて、一言。
「妙に焦ってたからな。身体があると、邪魔だったんだろ」
「邪魔って?」
「あいつは水の化身になれるけど、肉体ごとは面倒だから」
「そか。何か、権能を全開で使いたい理由があったんだね」
「ああ……、たぶんな」
それが何だかは、さっぱりだけど。
オレらは今、オレの精霊核を分割して、肉体を得てる。
だけど。
精霊としての権能は、肉体が許容できる範囲だけ。
当たり前だが、それぞれが権能を全開にしたら?
肉体の形状を保てずに、破損してしまう。
精霊核自体は、殆ど無限の耐久力があるけども。
それは、肉体の形を維持することと、同義ではない。
ウンディやシルフィくらい、魔法に長けてれば?
それこそ水分や気体に同化するくらいは出来るけど。
──一時的な範囲で、永続ではない。
それが、何かウンディが困る点があったんだろう。
……あいつ、徹底的に合理主義だから。
「ででで? いついついつ、行くの?」
「……ん?」
暇つぶしに胸に抱いたサラムをわきわきしてたら。
シルフィが、素早くオレからサラムを抱っこして奪って。
なんだよ、わきわきが足りないのに。
声を殺してひたすら耐えるサラムは、可愛いんだぞ。
っていうか。
行くって、どこにだ?
「帝国の方に向かったのは、たしたし確かなんだよ?」
「隣の国、だよなあ? オレら、身分的にどうなんだろ」
「でもでもでもっ、お母様、なんとかするって?」
帝国は。
辺境のオレらの実家、グレイパレスからほぼ真逆。
国境の向こう、砂漠で隔てた、平原の国。
騎馬軍団がおっそろしく強い、大陸最強の国家らしい。
魔法が強烈に発展している、オレらの王国と?
大陸の覇権を、争ったこともあるとか。
ただ。
今代の皇帝と、叔父上……、現王が、同盟を結んでいて。
大国同士、それなりに摩擦はあるけど。
経済的には、強く結びついている、とは聞いてるな。
いつ聞いたかって?
社交パーティ以来。
公爵家子息女の務めだって、御母君が、常々。
初めて読む本は、絵本や絵巻物が良かったのになあ。
博物知識や風物誌とかも嫌いではないが。
税理や政情、国家勢力範囲とかは。
どうせ数千年もしたらいい勢いで、変わるんだから。
別に、頑張っていま把握してなくても、良くなくない?
……こういう、政治知識は。
ウンディがとにかく、何でも記憶してたんだが。
だから?
今後、なんかそっち系の知識が必要になるなら。
ウンディを、絶対に呼び戻さないと!!
「めーちゃんはそうやって、理由作らないとダメ?」
「んー、そういう理由もあるってことだ」
「うんうんうんっ。そういうことにしとくね」
このぅ、シルフィめ。
分かったような顔で、笑いやがって。
オレら精霊、四姉妹。
不老不死だから、今分かれたっていずれまた会える。
けど。
オレの近くに、ウンディが居ない。
それだけで、オレが嫌なんだよ。
いつも一緒に、仲良く元気に。
あいつが嫌がったって、オレが押しかけてやるさ。
何しろ?
オレ、長女だからして。
──その機会は、意外と早く、訪れた。




