68話 どうしてお前が消えるんだよ
「笑止。我を止めるに、未だ力不足」
「まあ、これくらいでは止まりませんよねえ」
って、オイ!
ノリノリで、ウンディと、親父殿がっ。
二人で、魔法戦してるんですけど!?
──あ、いや。
違うのか?
真ん中に、ちび水竜が居るわ。
我が家のペット、ピューイくん。
水流のぶつけ合いの真ん中で、ぱちゃぱちゃと。
気持ちよさそうに目を細めて、遊んでるぽい。
水を得た魚というか。
水を得た、水竜。
やっぱり、水のそばだと元気になるのかね?
ああも元気に遊んでると。
最初に出会ったとき?
今にも死にそうに、元気なかったから。
回復して良かったな、と思わなくも。
で。
かなり透明度の高い、池というか、湖?
の、湖底に。
巨大な建物が、すっぽり沈んでいる。
その、尖塔の頂上だけが、ぽっかりと水上に。
そこが、水霊殿の入り口らしい。
祭司らしい人も居ないし?
他の霊殿で見かけた、信者らしき人たちも皆無。
『──めーねぇ、ラームと、ふたり?』
「のわっ!? ああ、御母君たちは、先に帰ってるって」
『母なる水より来て、水に還る信仰と、水精霊らが』
びっくり。
岩場に溜まった水溜まりの水を震わせた、伝言らしい。
本体のウンディは、まだかなり遠くにいる。
なるほど?
水霊殿は、無人がデフォらしい。
さっきから、親父殿と二人で湖水で水流生んでるのは?
水中の構造物を、調べてるのかね?
魔法はさっぱりだから、よく判らないけども。
二人に任せておけば、見逃しはないだろう。
地霊殿以外の場所で、収穫はなかったから。
ここも、あまり期待はしていないけども。
あっ。
親父殿に、抱っこされてるな?
ほんと、抱っこされるの好きだよなー、ウンディは。
『めーねぇ? ラームが元気ない。なにゆえ?』
「えー、あー。言えない、スマンな」
サラムと、約束してるからなあ。
ウンディには、内緒って。
ウンディからの、返事はない。
でも。
泣き疲れて眠ってるサラムの、寝顔付近。
水鏡が、形成される気配。
『──把握。我、ラームの敵を討つ』
「討つなぁ!? ていうか、敵じゃねえから!!」
『ラームが。我が末妹が負けるなど、有り得ぬ故』
「意外と、ウンディもちゃんとお姉ちゃんしてるよな」
普段の甘えっぷりからは、想像もつかないが。
今、サラムの心配をしてる姿は、姉のそれ、だよなあ。
そうか。
お前、サラムが負けたら、敵、取りに行っちゃうのか。
「でも、サラムは正々堂々と戦ってたぞ」
『堂々と? 笑止、我ら人の理を超えし精霊』
お前、それを言っちゃぁ。
とんっ、と軽い着地音からの、とてとてと軽い足音。
程なく、どんっ、と腰の辺りに軽い衝撃。
あー、オレの両手はもう、満員なんですけど?
「めーねぇなら、二人同時も軽い」
「お前らどんどん重くなるんだから……、ほれ」
サラムを左手に寄せて、片手を開ける。
間髪入れずに、首筋に飛びついて来るウンディ。
全く、お姉ちゃんになったり妹になったり、忙しい奴め。
ていうか。
普通の女子なら絶対抱えられないぞ、お前ら。
どんどん重くなるのが、嬉しいぞ妹らよ。
「さあ。めーねぇ、詳細を語るべし」
「言えねえっつってんだろうが。そっちはどうだった?」
「収穫なく。父上が、建造物の内部を探査中」
湖岸のほとりで杖ついてる親父殿が。
確かに、まだ湖の方に向いて、何か作業しているけども。
水の大精霊ウンディーネが、こう言ってるからなあ。
あっちは、もう何もないんだろうな。
「むぅ。めーねぇ、我、困る」
「サラムと約束してんだよ。オレの口からは、言えないの」
「そうではなく。むぅぅ。小の月、金環に再び」
「ん? 何だって?」
と。
そこからの変化は、唐突で。
急に?
ウンディの身体から、重みがなくなった、と思ったら。
ぱんっ!!
と、軽い、衝撃波。
ウンディの、杖とローブが、オレの右腕に。
「ん? 今のは、ウンディさんですか?」
「……ああ。どうしたんだろう、あいつ」
周囲の水気が、急に薄まったように。
ウンディが、水魔法で全身を、霧に変えて。
どこかへ、飛散してしまった。
ウンディは、水の大精霊だから。
自分自身を水分に変化させることなど、造作もない。
シルフィよりは遅いが、空中を移動することもできる。
けど。
あんなに急いで?
どこに、行ったんだろうか?
──たった、一人で。




