66話 サラムそっちのけで、他人の恋路を観察
「人の欠点を笑っちゃいけません」
「はい。ごめんなさいでしたカイルくん」
再び、反省させられるオレ。
御母君、厳しいー。
というか。
我が家の新参居候、吟遊詩人、カイルくんが?
白の賢者を称える歌を歌ったので。
それで、いま。
「そうよね、見る人が見れば、分かるのよねぇ」
……見たこともないくらい、超ご機嫌な御母君。
ちょ、ちょろい。
相変わらずの幼女姿で、腰に手を当てて大威張り。
どう言い訳しても、可愛い以外の言葉が見つからない。
そんなわけで。
風霊殿で、特に目ぼしいものもなく?
シルフィと合流した、オレら四人。
そのまま?
御母君とサラムが向かった、火霊殿に来ている。
と言っても?
レイドさんは元に戻る目処が立った、ってことで。
トラブルメーカー、セラさんの回収の方に走ってった。
ので、オレとシルフィとカイルくんが、合流。
「ねえねえねえ、お母様? これ、どういう状況?」
「何って、武闘会らしいわよ? 剣聖決定戦だとか」
な、なるほど。
即座にシルフィが、壇上のサラムに声援送ってるし。
そう。
天下一武○会みたいな、真四角の石の広場。
それが、火霊殿の中央に。
周囲より一段低い感じに、配置されている。
ここも、風霊殿と同じく、コロッセウムみたいな配置だ。
ただ、こちらは至るところに油の松明が灯されていて。
正直、物凄い気温に達している。
そして、壇上に。
我らが最愛の妹、ちびっこの片割れ、サラムと。
現剣聖の、カイオンさんが。
かなりのガチ目に、剣戟を繰り広げ中。
相変わらず、サラムの動きはとてつもなく、速い。
のに。
見えてるはずもないのに?
その旋風みたいな攻撃を全部弾いてる、カイオンさん。
なんだこれ、人外最強決定戦か?
元が精霊のサラムが速いのは、当然だけど。
対等どころか、むしろサラムを押してるカイオンさん。
もう、人間技じゃないね、あれは。
半端なさすぎ。
そういえば?
先代剣聖っていう、執事長のセバスさんも。
サラム、まだ一度も勝ったことない、って言ってたっけ。
剣の道って、長く険しいんだなあ。
……で。
「なんであそこに、メイヴィスさんが居るんでせう?」
「審判役ですって。一応、火霊の騎士らしいから」
「は、はぁ。そ、そうだったんだ?」
「単に、あそこに立ちたかったんじゃないかしら?」
御母君に言われて、もう一度メイヴィスさんに視線を。
元々、サラムの護衛を買って出たのも?
サラムの剣筋を間近で見たい、って動機だったしなあ。
そのサラムと、現役の剣聖なカイオンさんの、戦い。
そりゃ、至近距離で見たくなる気持ちは?
判らんでもない、んだけども。
「──そんな事実、多分、ないですよね?」
「あっはっは。ほら、我が家には関係のない娘だし」
うわあ。
見捨てる気、満々だよ御母君。
っていうか?
この戦いで、ほんとに剣聖? って役職が決まるんです?
「剣聖って言っても、自己申告だから」
「でも、サラムが勝ったら決まっちゃう?」
「そうねえ、カイオンも剣には厳しい子だから」
決まっちゃうらしい。
が、がんばれサラム!
な、なんか敗色濃厚だけども!?
ほんとに火の権能、一切使ってないんだもんなあ。
負けそうだけど?
おねーちゃんはとても誇らしいぞ、サラムよ。
「本来は火精霊への奉納で、模擬戦や剣舞するらしいわよ」
「それが何でまた」
「居合わせちゃったのよねえ、デート中のカップルが」
カップル?
はて?
と。
視線を巡らせると。
オレらの居る席の、ほぼ真逆に。
めっちゃエキサイトして声援送ってる、女性が。
「カイオンそこだ! そうだ、そのまま、ああっ!?」
わー。
結構短期間で、進みましたねえ、にやにや。
他でもない、王宮薬室長のハクラさんでしたっ。
「火霊殿は剣と戦いを司るから、医務局の仕事も多いしね」
くすくす。
軽く笑ってる御母君?
だから二人で来てもおかしくないのよ、と。
いやいや。
だからって、現役剣聖で王宮騎士のカイオンさんと?
王宮薬室長で、医務局統括なハクラさん。
二人とも王宮の重鎮なのに、連れ立って来てるとか?
デートですねっ。
デートしかないですねっ、にやにや。
「わたくしの後輩なのよ? 恋路を邪魔しないの」
「邪魔なんかしませんよー、にやにや」
「分かってると思うけど? 絶対に目隠し外さないのよ?」
「うぇ? 何ででしょ」
「ハクラがメテルちゃんに転ぶ可能性が出るからよ!」
……え。
いや、御母君とシルフィ、二人で頷かれてもな。
そして。
唐突に竪琴奏でて戦いの歌を歌いだすな、カイルくん。
見ろ、シルフィに怒られてんじゃねーか。
腹式呼吸がなってないとか、声量が足りないとか。
あれ、普通に歌い手のダメ出しっぽいな。
って。
シルフィが同世代の男の子に、対等に接するって、初?
こ、これはっ。
期待できるかも、しれんな?




