65話 照れまくりなシルフィも可愛い
「やれやれだ。どうやら、撒いたみたいだぜ」
ひたすら走りまくった、路地裏。
ぐねぐねの路地を何度も行きつ戻りつして、迷走。
既に、オレはここが王都のどこら辺だか、さっぱりだ。
そんな中で、油断なく。
建物の角から剣を出して、反射で確認してるレイドさん。
か、かっこいい!
油断なく周囲を伺う様子も、完全にプロの冒険者です。
いいなぁ。
オレも、あんな風になりたいなー。
「ハハハ。メテルちゃんも、頑張ればすぐランク上がるぜ」
「そうですかねえ? E級から上がらない気がひしひしと」
あれだけ倒して何言ってんだ、なんて慰めを貰った。
ううむ。
倒すのは訳ないんだけど。
オレ、結構ヌケてるからなあ。
気の合う、よく気のつく相棒が欲しいところ。
さて。
「で。そろそろ、息は整ったか?」
「ぜえっ、ぜえっ、も、もう少し」
吟遊詩人の、カイルくん。
年齢は、オレと同い年か、ちょい上くらいか?
見た目は一見普通の街の人、なんだけど。
吟遊詩人って大変だな、と思うのは。
背中に背負った、大きな竪琴。
「いえ、普通の吟遊詩人はリュートなんですけど」
「そうそういえばっ、酒場で見た人もリュートだったー」
お前、昨日の今日でもう酒場行ったのか、シルフィ。
その、シルフィの小脇に、竪琴ごと担がれたカイルくん。
オレの力ばっかり目立つけど?
やろうと思えば、四姉妹全員がそれなりに膂力あるのだ。
まあ、今回は?
『風の信者群に追い回される』
って、緊急事態だったからだけども。
「僕、なぜか存在感が薄いので、せめて音量だけでも、と」
「詩吟で目立てない吟遊詩人って」
それもうただの、演奏家では。
と、指摘した瞬間にがくりと項垂れる、カイルくん。
ううん。
まあ、存在感が薄い理由は、分かるんだけどなあ。
「何故でしょうか!? 風の精霊様にも、お分かりで?」
「アタシー、シルフィっていう名前があるのでー」
「シ、シルフィ様! 是非に、御加護を!!」
男の子に詰め寄られてタジタジしてるシルフィ。
って、かなり珍しい光景かも。
「めっ、めーちゃん! 眺めてないで、助けてっ!!」
「え? お前の信者なんだから、お前がやるのが筋だろ?」
「そっ、それは、そうかもしれないんだけどもっ!」
ははぁ。
単純に、色恋系じゃない純粋な好意に慣れてないんだな。
このぅ、意外にウブじゃないか、うちの次女ちゃんは。
「べっ、別に、これくらい、何ともないも……っ!?」
「どうか、どうか僕に、歌の加護を!」
跪いた相手に両手取られただけで、目を白黒。
はっはっは。
可愛いぞシルフィ。
何、オレは同じシチュエーションでどうなんだって?
オレは前世が男だからな?
全然平気に決まってるじゃないか。
カイオンさんにお姫様抱っこでドキドキしてた?
いやお前、アレは。
ああいうシチュエーションが初だったからで。
言い訳すんな?
お前こそ、話逸らしてんじゃねえや。
「あの、お二人は、仲がお悪いので?」
「いやいや、こんな仲のいい姉妹、そうはいねえぜ」
むぅ。
付き合いの長いレイドさんに、断言されてしまった。
流れで、自己紹介。
ていうか。
もしかして、だけども?
「レイドさんに余分に入ってる精霊力を、カイルくんに?」
「シルフィなら、出来るだろ?」
「そりゃ出来るけどぉ。あっ、カイルくんってば」
今頃気づいたのかよ。
そう。
カイルくんが、存在感激薄な理由。
単純に、魔力の保持量が、人間にしてはかなり低いのだ。
なので。
レイドさんは逆に、精霊力過多で若返っちゃってるから。
「その、精霊力というので何とかなるのでしょうか?」
「えらい切実そうだけど、具体的に?」
「店に行っても無視されたり、往来では人にぶつかられ」
……まるで、透明人間だな。
思わず、頭なでなで。
レイドさんなんか、目頭押さえてるし。
吟遊詩人の呪歌っていうのが?
魔法的に、どういうものかは知らんが。
保持魔力が低すぎて、歌に魔力が乗らないのなら?
圧縮魔力と言い換えてもいい、精霊力を保持させれば?
「めーちゃんめーちゃん、破裂するかも?」
「あ、そうか。……めんどくせ、核を分けちまえ」
「いっそいっそいっそのこと、ペンダントとかにしたら?」
「御母君と同じだ。魔力吸収術式付与しちまえ」
それなら。
レイドさんとしばらく一緒に居たら?
自然に、精霊力が移るんじゃないのか、と。
術で無理やり移し替えるのも、出来るけど。
どうせなら、緩やかに移した方が、負担が少ないだろう。
そういうことで。
お二人様、ご案内ー。
「こ、公爵家に、俺らが?」
「ちょうど、サラムの護衛が一人減ってるところなのでー」
「ぼ、僕、平民なんですが。貴族の邸宅へ?」
「適当に歌ってればいいからー。三食昼寝付きー」
別に、人員的には困らないよな。
で、思い出したけど。
サラムの専属護衛な、メイヴィスさん。
未だに、身元確認やってるんだろか。
そんなことを考えてたら。
彼女、ものすごく意外なところで?
意外なことになっていた。




