64話 存在感のない男の子に会った
「うえぇ。めーちゃん。寂しいの」
「あー、こらこら。泣くな」
シルフィ、ただいま号泣中。
抱き寄せて、背中ぽんぽん。
元の世界が、恋しくなっちゃったか。
「てか。なんで歌ってたし」
「風の大精霊に、歌を奉納するのが習わしっていうから」
その相手はお前だろう。
自作自演してどうする。
と、思わなくもないが。
シルフィの歌声で、感動したみんなが居るし?
これはこれで、ありか。
「今の生活も、楽しいんだよ。でも、たまに、帰りたく」
「判らんでもないが。帰れないしなあ」
「うん……」
他ならぬ、シルフィ自身が検証した結果だ。
この世界から、他の世界へ移動すること自体は出来る。
んだけども?
元の世界の、IDとかイニシャライズ、みたいなもの。
そういう目印がないと、次元の狭間を漂うことになる。
つまり。
狭間に行っても、ここには帰って来れるけれども。
目的とする世界には、辿り着けない、ということに。
「GPSついてないドローンも、飛ばしたら迷走するもんな」
「じーぴーえす?」
「いやこっちの話。こっちの前世の」
「めーちゃんの世界にも、行ってみたいな」
にこりっ。
多少、ぎこちないけども。
とりあえず、笑顔になってくれた。
無理やりな笑顔でも。
次女は、やっぱり笑ってる方が好きだな。
「そう、次元の狭間は開けるんだから。あれとこれを……」
「楽しそうなところ悪いが、シルフィ?」
「ふぇ?」
すいっ。
片手で示したオレの、背後。
バカでかい剣を担いだ、美少年剣士。
「ふぁ? レイドさん?」
「そうなんだよ、シルフィちゃん。元に戻せるかい?」
「戻すの自体は、訳ないけどぉ……」
きょろり。
シルフィが、困ったように周囲を見回す。
周囲は、風霊殿の内部。
一般拝殿みたいな場所。
というか?
地霊殿で顕著だった、奥殿みたいなものがないようだ。
地霊殿が奥まった、山みたいな構造だったのに対し。
風霊殿は、どちらかというと広々とした盆地空間だ。
前世で言うと、ギリシャのコロッセウムみたいな。
巨大ではあるけど。
ひと繋がりの、巨大な構造物、という感じ。
そして。
中央の屋根が吹き抜けになっていて。
常に、周囲から入った風が、中央に吹き抜けている。
真ん中に風力発電風車でも置いたら、ずっと回ってそう。
で。
中央の広場で、シルフィは歌い上げてたわけだが。
「その、ここで施術は、目立ちすぎかなぁ……」
「今更何を」
「そりゃそうなんだけどっ! お母様が、目立つなって」
「今更何を」
「繰り返さないでっ!?」
いやほんとに、今更すぎるだろう。
シルフィの、凄すぎる歌声の衝撃。
そこからなんとか立ち直ったらしい、風の信者の皆さん。
周囲に、及び腰ながら? 包囲網っぽく、迫って来てる。
「お嬢さん……、いえ、風の精霊、様?」
「やーいバレた」
「くうぅ、めーちゃんに小馬鹿にされるなんてっ」
おいこら。
長女に対してなんて物言いだ、お前。
「わぁぁ、指わきわきぃ!?」
「風の精霊様、僕はいたく感動しました。是非、使徒に」
「ここかぁ? ここがええのんかぁ?」
「あ、あの……、精霊様」
「あふぅん、あんっ、そこ、ダメぇ……」
「精霊様!!」
む。
妹可愛がりが楽しすぎて、我を忘れてしまった。
はて?
見知らぬ、若い男の子が立っている。
どちら様でしょうか?
「申し遅れました。風の信徒、吟遊詩人のカイルと」
「わっ。可愛い、好み」
「あれだけ執事さん侍らせといて、実はショタ好みか」
「美青年と美少年はまた違うのっ!」
「あー、君たち?」
はい、なんでしょうレイドさん?
「とりあえず、この子の話、聞いてあげたらどうだ?」
あ。
カイルくんが、床にのの字を。
ごめんよ?
妹とじゃれるの、楽しすぎてだなあ。
「いいんです。どうせ僕なんか」
ていうか。
カイルくん、存在感、薄すぎるんだもん。
……衝撃を受けたような顔、しないでくれ。
だって、事実だし。




