62話 お子様の教育に悪い情景だった
「女王様とお呼びっ!」
ああ、見てはいけないモノを見てしまった。
ウチのちびどもには、決して見せられない。
教育に悪い、なんてレベルではないっ。
さあ、帰ろうか。
「帰っちゃまずいんだろ、メテルちゃん?」
「だって、あんなんなってるセラさんに声、かけれます?」
むぅ。
レイドさん、ラスティ、オレ。
三人で、顔を見合わせる。
ちなみに。
ラスティが知ってた隠し通路と?
レイドさんが覚えてた、奥殿の方向を組み合わせ。
合致した通路というのが、なぜか。
大精霊像の、真下に繋がっていたという。
その、奥殿で最も大きな大広間。
そこの真ん中に。
気色悪いヒゲモジャのでっぷりおじさんと。
──よく見知った顔の、乗馬鞭持ったお姉さんがいる。
「この、豚めっ、跪きなさいっ!」
セラさんってば、本気でノリノリっていうか。
黒革のラメスーツが汗に濡れて?
うわぁ。
いやらし系、全開だあ。
どうやら、あのでっぷりおじさんが、大僧正らしいが。
プレイ内容がどうにも、高尚な系統に入りつつあるぽく。
……いろいろヤバイ台詞叫んでるけど。
聞かなかったことにしようと、強く思いましたまる。
「あの、メテル様? その、精霊の大岩、というのは?」
「この真上に建ってる、精霊の像、がそうっぽい」
つまり。
オレら三人の、ほぼ真上。
目の前で行われている高尚なプレイのおかげか?
周囲は、恐らく無人、なんだけども。
「うーん。どうしよっかなぁ……」
「どうするっていうか、どうにか出来るもんなのかい?」
レイドさんに訊かれたけど。
ううむ。
出来るには、出来るんだけども。
どうやって、持ち運ぼうかな、と。
ぁ。
そうか。
閃いたっ。
「レイドさん、武器と防具、どっちが欲しいです?」
「ん? 今か? それなら、武器だなあ」
「かしこまりっ。では、お手を拝借」
ぱぱんがぱん。だーれが……。ではない。
レイドさんの両手を取って。
精霊の大岩。
元は、オレの身体だった岩だもん。
精霊力を通じるのなんて、訳ない。
だから。
狭っ苦しいこの台座の下で、天井に、片手を当てて。
「うぉっ!? メテルちゃん、手、手が、熱う!?」
「ちょびっと熱くなると思いますけど、我慢の子でー」
むぅん!
気合で、精霊の大岩から作られた、精霊像を。
オレの、身体の一部として、吸い込む。
精霊核に、岩成分を混ぜるようなもん。
でも。
天井すれすれ、数十メートルに達する巨大像。
それを、全部吸い込もうとしたら。
どんなに、強烈無比な圧縮を掛けたとしても?
オレの身体でも、多少は出っ張ってしまう。
胸とか尻じゃないぞっ?
純粋質量の、お話だっ。
なので。
「こ、こりゃ、夢か? メテルちゃんの手足が、剣に?」
「現実でございますー。んーと、成形魔法? みたいな」
親父殿が錬金術や黒魔術で作る物品成形とは、異なるが。
オレの感覚としては?
片手から吸った材料を、左半身のチタンの手足に詰めて。
出っ張った材料を、レイドさんの剣に取り出した感じ。
岩成分を、そのまま取り込んだ、わけじゃないのだ。
岩が持ってた精霊力を、取り出して吸収した。
だから。
元の巨大像の、大部分は。
この台座の上で、今頃、砂に変わってるはず。
って、言ってる端から?
目の前の、台座の最下部に開けられた小さな鉄格子から。
さらさらと、砂が流れ込んで来る。
「銀の……、いえ、地精霊の大剣、ですわね?」
「いや、こりゃすげえ! 軽いし、何でも斬れそうだぜ」
ふっふっふ。
恐らく世界唯一、チタンの剣ですよっ。
自慢しちゃって下さいなっ。
……ただ。
問題としては、ちょっと、剣の大きさ的に?
現在のレイドさんの身長より、明らかにでかいんだけど。
「いや問題ねえよ? 元々、こういう剣振ってたし」
「あ。元々の装備も、取り返さないとですねえ」
「そういうことなら、私の錫杖も。愛着ありまして」
ふむ。
ここを抜け出す前に、やっとかないとだなあ。
ただ。
「ま、待って下さい女王様!? 像が、精霊像がっ?!」
「女王様の言うことを、お聞きっ! 跪け、豚めっ!!」
あっちは、放置していいのかな。
ううむ。
……いいことにしよう。
オレもラスティも、さっさとここを出て。
はやく、普通の女の子に、戻りたいのだ。
……衣装的にっ!
「俺が若返ってるのは、どうにかなりそうかい?」
「オレにはさっぱりですけど、風霊殿に行けば?」
そっちには、魔法巧者のシルフィが行ってるし。
っていうか。
元々、シルフィのやらかしが原因なんだから。
あいつが、片付けるのが筋だろう。