60話 地下は暗く狭く、臭い
さて。
首尾良く、地下牢の門番さんをクリアして。
地下牢の通路は、軽く下り坂で、そして真っ暗。
じめじめしてるし、冷たいし臭いし。
──クリアの仕方、あれで良かったのかなぁ……。
筋肉は全てを凌駕するとか?
脳みそまで筋肉愛が詰まってる人だったので。
軽く、持ってた鉄棍をひん曲げて差し上げたら。
筋肉愛を激しく叫びながら?
元に戻そうと、全力で頑張っていらっさる、なぅ。
──いやオレ、地の権能あるから。
鉄さんに、自発的に曲がって貰っただけなんだけどな。
「メテルちゃん、メテルちゃんだろ!? 俺、俺だよ!!」
「……はて? どちら様でせう?」
呼び止められたものの。
少女かと思うくらいに、甲高い声。
振り返れば。
鉄格子の向こうに、美少年。
──うーん、顔の傷がワイルドなのか致命的なのか。
び、びみょー。
……少年の知り合いなんて。
辺境にしか、居ないはずだけどな?
「俺だよ、俺俺!!」
「オレオレ詐欺されてもなあ。お名前は?」
「ああ、そうか! 姿が違うからか!! レイドだよ!!」
……え?
えええ!?
レイドさんっ、また更に若くなってるのでは!?
「何だか知らないが、ここに来てからな」
「で、ですよねえ? 迷宮で別れたときより、更に縮んで」
「我が家の息子よりも、若いな。だいたい、十歳前後か?」
そう。
鉄格子の向こうにいるレイドさん。
うちのちびたちより、更に小さい。
背丈は、オレの腰に届くかどうか?
筋骨隆々だった身体も面影なく、少年そのまま。
「ここに来て『不老不死の研究材料』とかで捕まってな」
「ありゃりゃ。それは実りがない」
「俺は魔法はさっぱりだが、やっぱりそうなのか」
オレも魔法はさっぱりだけど。
姉妹でいちばんの魔法巧者、シルフィに言わせると。
身体だけで不死性を持つのは、不可能だって。
オレらだって?
精霊核に、あほみたいな量の精霊力詰まってるわけだし?
まずはエネルギーの供給源と、エネルギー量の確保。
そこが出来てないと、身体の素材だけあったって、って。
まあ、素材といえば、精霊核だって不死素材だからな。
御母君にほんのちょびっと、切り分けたけど。
アレも、魔力をある程度詰めたら、すぐにいっぱいに。
むしろ?
ある程度までしか詰められない大きさにしたんだけどね。
──オレらの精霊核に詰まってる精霊力は……。
自然界に存在する魔力を、超絶に圧縮してあるから。
未圧縮の生魔力と、ZIP圧縮後の精霊力、みたいな。
「メテルちゃん、この鉄格子のカギ、見つけられるかい?」
「いやカギなんか要らないっすよ」
ぱきぃん!
少年レイドさん、お目々まん丸。
ちょっと、かわいいと思ってしまった。
いかんいかん、男性に可愛いは禁句だ。
「えっ? メテルちゃん、意外と力あるんだな……」
「いや、えっと、説明しづらいな。魔法みたいなもんです」
「ああ、魔法か! 指先一本で鉄格子折るなんてすげえな」
ほんとは、こっちも精霊力なんだけども。
ついでに言うと、空間に大量に満ちてる、地のちび精霊。
オレに構って貰いたくて、わーっと溢れて来てるから。
ちび精霊は、子供みたいで可愛い、んだけども。
頭もミニサイズで、ぶっちゃけ頭が良くないから。
あまり複雑なことさせると、大抵なんかやらかす。
──地精霊は、損害も軽微で大したことないけど。
水や火の子がやらかすと、……派手なんだよなあ。
ウンディやサラムが、かつてやらかした痕跡が?
世界中にいくつも、史跡みたいに残っている。
「うほっ、メテルちゃん、近くで見ると、その、衣装」
「あんまりじろじろ見たら、料金取りますよっ!?」
「う、うん、分かっちゃいるんだが……、目のやり場が」
「あー、もー! 前歩いて下さいっ、前を!!」
もー!
セラさん、恨みますよっ!?
くっそ、二度と着ないぞ、こんな際どい衣装!
「そうだ、ラスティは? ラスティも捕まってるんだよ」
「そうなんですよ。どこらへんか、分かります?」
「ああ、最初は一緒の部屋だったからな。確かこっち……」
ああ、レイドさんが案内してくれて、助かった。
最初にラスティの声を聞いた場所に、向かおうとしたが。
……オレ、天下無双の方向音痴だったんだよ。
もう既に、どっち方向か、さっぱりです。
──権能に任せて地面割ったら?
王都が。
マグニチュード11級の大震災に、見舞われる未来しか。
──オレが人類滅亡させて、どうする的な。
頑張って、手加減できるようになろう。
……いつか、きっと。




