59話 半分だけ食い込むと気になる
「ていうか。この霊殿、内定したらホコリだらけなのでは」
四大精霊殿の中でも、地霊殿は愛と豊穣を司るせいか。
こういう、愛の営み系な行為には?
無頓着というか、むしろ推奨してる感じらしい。
おかげで。
この王都、風俗街みたいな怪しげな界隈がない代わりに。
元のそこら辺界隈の住民が、地霊殿の信者で?
霊殿内で、普通にそっち系の商売してるんだとか。
で。
信者数が圧倒的すぎて、事実上の、無法地帯と。
叔父上も、頭抱えてんだろなー?
むー。
オレ、自分がそういう経験、希薄なせいか?
こういう施設入るの、手順がよく分からないんだよな。
軽く、見上げてみる。
本殿までは、まだかなり距離がある。
今、どこに居るかって?
一般拝殿の内部。
女子更衣室です。
……。
…………。
「ぇぇぇー。ほんとに、これに着替えるのー?」
「大僧正とお近づき、なチャンスなんだから!」
オレの不平不満に、セラさんが断言。
そのセラさんは、もう恥ずかし抵抗値はなさそうだ。
そんな、正装って言ったって。
オレの認識じゃ、そのまんまバニーガール、というか。
ウサ耳以外にも、猫耳とかバリエーションはある。
でもっ。
頭はともかく……。
「うぇぇ。なんだこの切れ込み。きっつー」
「ほらほらっ、諦めて履き上げるっ!」
「ちょっ、後ろから引き上げないで!? 股間がっ」
「最初は食い込み感きついけど、慣れたら楽なもんよ」
「きついっていうか、これ、形がくっきり出過ぎ……」
「じっと見てる人からは、見物料取れるのよ!」
どんだけ商魂の塊ですか、アンタ。
はぁ。
ええぃ、旅の恥は、かき捨てだっ。
諦めて、着るもん、着替えてやるぅ!
「あ、ちなみに」
「くっそ、腹は緩いのに胸がきつくて……、なんです?」
「参拝のみで入信なしなら、着替えなくていいんだけど」
「先に言えよ、こんちくせぅー!?」
けたけた笑ってるセラさん。
この人、かなり性格悪かったんだなあ。
……。
マークさんたちがいつも距離取ってるの、分かった気が。
近くに居るだけで、何かしら騒動を持ってくるんだ。
「さぁ、細かいことは、気にしない! 大僧正様の元へ!」
「全然細かくねえんですけどね! ああ、もう!」
切り替えよう!
オレをこんな姿に貶めた原因は!
つまり!
大僧正とやらが、こういう制服を作ったのが悪い!!
おのれ大僧正っ。
このうらみ、はらさでおくべきかっ!
「ちなみにこの制服、バリエーションがあって」
「なんですかそれ」
「上級になると、網タイツになったり紺色水着になったり」
「それはどこらへんの層にウケるんですかね……」
異世界の風俗、謎すぎる。
まあ。
着替え終わって、更衣室を出ると。
「お姉様ぁ……、目隠しも、かっこいいですぅ……」
「そういうお世辞はいいから」
「ああん、お世辞じゃないのにぃ」
そう。
オレも、迂闊に素顔晒すと、主に女性が倒れると気付き。
現在、ごりごりに目隠し状態です。
で。
表には、リズたちが待ってたんだけど。
さすがに、ここから先には連れて行けないからなあ?
護衛の女騎士さんが、ちょこちょこ目隠ししてるし。
教育上、この場所自体が子供にお勧め出来なさすぎる。
それに。
「あんまり目立つとぉ、お父様に怒られますのでぇ」
そらそうだ。
ガチで王位継承権第一位、第一王女殿下だもんな。
ということで、神官戦士に奥に進む許可は貰ったものの。
リズだけは、馬車に戻ってオレを待つことに。
「ようやく、その顔の威力に気付いたの?」
「あまりにもブサイクすぎて、倒れちゃうんでしょうねえ」
「逆よ、逆。……はぁ、なんでそこまで自己評価低いかな」
「??? オレ、全然普通なんですけどね?」
精霊なだけで、他は全然普通だぞ、オレ?
まあ、そんな感じで。
セラさんと二人で拝殿を上がり、奥の通路へ。
門番の数はかなり多いものの?
この格好が功を奏してるのか、咎め立てはない。
と、いうか。
武器とか、隠しようがないもんな、バニーガール。
そして。
尻と胸に、全方位からすんげえ勢いの視線が痛い。
ちくせぅ、かき捨てかき捨てぇっ!
メイド姿で絶対領域晒したのとは?
もはや、露出面積の桁が違うっ!!
めっちゃ赤面してるんですけど、オレ!!
──で。
そのまま真っすぐ上がれば、大僧正が待つ奥殿。
でも。
オレの用事は、地下牢なのでー。
「じゃ、ここで二手に分かれるってことで」
「メテルちゃんっ、抜け駆けはダメよ!?」
「誰が抜け駆けか。オレは男に興味ありません」
「はぁっ! まさか、メテルちゃんが百合に興味を」
そっちでもねえし。
……あれ?
オレって、今、女だから。
男に興味持たないと、身体的にまずいのかな?
ま、まぁ。
それは今は関係ないので。
地下道の反応がある方へ、ひとり進むとしようっ。
……。
この衣装で、歩いてると。
なんか、地味に片方が尻に食い込んで、気になる……。




