58話 バニーガールがいた
ひとまずラスティに別れを告げて。
これは是が非でも、地霊殿の内部に潜入せねば、と。
一般の参拝客に紛れ、普通に正門から参拝入場。
……したら、ですね。
「何やってんだ、アンタ」
と。
思わず、敬語を忘れて口からまろび出てしまった。
いや、だって。
物凄く、知った顔が居たんだもん。
「メテルちゃんっ!? もちろん、お小遣い稼ぎよー!」
「小遣いってあなた、そこまで落ちぶれたんですか……」
誰だって、セラさんだ。
ただ、冒険者のときの、ローブと杖の魔術師然ではない。
強烈なハイレグに、兎の耳。
どう見ても、バニーガールです。
……お金に執着してるな、とは思ってたけど。
風俗嬢やるほど、落ちぶれてしまったのかセラさん……。
え、違う?
情報収集してるうちに、入信することになった?
ていうか、バニーガールじゃない?
地霊殿正式な、愛の侍祭の正装??
つまり。
世の、主に男性の愛を受け止める役目を担う。
悩殺全開、愛と性技の侍祭軍団(王都・女性限定)。
──ろくでもねえな、ここの地霊殿っっっ!!!???
「あやや……、お姉様、リズは恥ずかしくて見れないです」
「見ろ、十四才に恥ずかしい呼ばわりされてんぞアンタ」
「娼婦は世界最古の職業なのよっ、春は売ってないけど!」
じゃあ何やってたんだ。
と、聞けば。
地系統の、魔術入門書を売りつけてたらしい。
殿方限定で、お安く、ぱふぱふをおまけに。
……後で怒られるんじゃないのか、それ?
「その頃には私達、辺境に戻ってるわよ」
とんずらする気満々だよ、この人。
このくらい思い切り良くないと、冒険者やれないのかね。
で。
頼んでた案件、ですけど?
「えっ? 何だったっけ」
「ラスティの動向ですよっ!? 同じパーティでしょ?!」
「あー! あの子、風来坊的なところあるから」
忘れてたわー、てへぺろ。
って。
セラさんのそれは、不吉な予感しかしないんだけど。
そして。
「ところで? そちらのお嬢さんから、お金の匂いが?」
「どんな匂いですかそれは」
「お、お姉様? リズ、なんだか悪寒を感じるのですが」
「その悪寒は正解だ。このお姉さんには、近寄るな」
「ちょっ? 人を危険人物呼ばわりは、ないんじゃない?」
いえ、危険人物なのは、そうですけど。
セラさん?
ご自分の格好、お忘れではないですか?
──こうして見ると、でかいな?
シルフィが同じ衣装着たら、隙間が余るんだろうなあ。
「やっぱり……、自分で揉んでおっきくするんですかぁ?」
「うーん、自分でやるよりは、他人にして貰った方が?」
「何の話してるんだお前らは。てか、目立つ!」
いつの間にやら、周囲に人だかり。
そりゃそうだ。
オレはともかく、セラさん、割と美女の範疇なんだもん。
そんな女性と、オレらで女性三人。
一般入場門のすぐ脇で、大声で話してたら。
そりゃ、目立つよねえ。
で。
目立つと、いろいろ寄ってくるわけですよ。
「そこの三人! 大僧正様が特別にお会い為さるそうだ!」
居丈高に。
辺境には居ないタイプの、えっらそーな神官戦士。
いぼいぼのついた棍棒持って、ふんぞり返ってる。
黄色と白のツートンカラーな神官服の、上に。
ぴっかぴかの胸甲、脚甲、手甲。
ぶわさっ! とか音を立てるマントまで、白地に金糸。
黄色が地霊のイメージカラー、らしいんだけども。
黄色っていうより、黄金? にすごく寄ってる気が。
むぅー。
親父殿に危うく金の彫像にされかけた、もんだから。
金ぴかって、ちょっとトラウマ入ってるんだよな。
「見目麗しき女子は、大僧正の供になれるチャンスがある」
やだよそんなの。
見ろ、リズがガチで鳥肌立ててんじゃねえか。
そして。
セラさん?
なんで、小さくガッツポーズしてんだアンタ。
「バカねぇ、上手く取り入れば玉の輿、じゃなかった」
めっちゃ本音出たぞ、ぉぃ。
「ここにレイドたちが居るのよ? 探るチャンスじゃない」
……あ。
も、申し訳ないっ、レイドさん!
完全に忘れていたとは、もう言えないっっ!?
あれ。
じゃあ。
地下に、ラスティ居たから。
レイドさんも、同じく幽閉されてるんじゃないのかなあ?
なるほど。
ここは、セラさんの作戦に、乗ってみるのもアリか。
……ところで。
「パーティの、コルトさんとマークさんはどこに?」
「私がこの作戦やるって言ったら、俊足で逃げたわよ」
女装兄と男装妹のコンビは。
肌を出す気は、なかったようだ。
他人事ながら?
たぶん、マークさんはガチで似合うと思うけどね。




