55話 オレにそんな意図はなかったんだ
「お姉様ぁ……、リズは、お慕い申し上げておりますぅ」
「分かったから首筋にキスマークつけんな、地味に痛い」
まだまだ、社交パーティは継続中。
べろんべろんに酔っ払った従姉妹のリズ。
この子をベッドに放り込む口実で、オレは一抜け。
優雅に右腕一本で抱き抱えて、会場の外へ。
ついでなので、警護のカイオンさんに?
首尾良くお堀固めたって伝えたら、きょとんとしてた。
ふふふっ。
後々、慌てふためくが良い。
リズはオレの腕の中で、完全に寝落ち。
片腕で抱えると、真っ赤な顔で、むにゅむにゅ言ってる。
初めて出会った、人間の従姉妹。
十四才だから、十六のシルフィより下。
で。
十二のウンディ、サラムより上。
オレからしたら、妹分がひとり増えたようなもんだが。
リズからしたら?
生まれて初めて、姉が出来たみたいに思ったらしい。
そういうわけで。
興奮に興奮しまくって、話しまくりの飲みまくりの。
うっかりお酒呑んで、ばたんきゅーまでがお約束。
こういう、うっかりさんなリズ。
なんか、妹三人の誰ともタイプが違うからなあ?
可愛がりたくなってしまうぞ。
そういうわけで。
リズの私室まで運んで。
──ベッドに、放り込みはしたけど。
なんか、すごい寝苦しそうにしてる、けども。
これは、脱がせた方がいいのかね?
ご、ごくりっ。
「心配せずとも、侍女が後で世話するだろう」
いや、穢れを知らぬ十四才の従姉妹をひん剥くとか。
そんな、鬼畜じゃないですよ、オレ。
はっはっは。
──くっそ、叔父上が先回りしてやがった。
あなた、パーティの主賓でしょうに。
「だからね、叔父上。オレは結婚とか考えてないですっ」
「そうは言うが、孫の顔は見たいのが親というものだぞ」
かっかっか。
なんか、人生が楽だったり苦だったりしたような笑い声。
叔父上、妙に似合ってるけども。
ものすごく年寄りじみてるから、およしになって下さい。
ていうかね。
どうやって先回りしたし?
「王宮には百を超える隠し通路があってな」
「いや、オレも知ってますけど」
「!?」
驚かれても。
だって。
石材で作られたお城だもん?
地精霊のオレが、分からないわけないでしょ。
「嘘か誠か測りかねておったが。まことの、大精霊か」
「そうなんですよ。王都に祀られてるんですってね」
ふうう。
深々と、ため息。
ついでに、ひゅるりと吹き込む風を止めに、ベランダへ。
「なるほど、祀り上げられるのは、大精霊殿はお嫌いか」
「敬語やめてよ叔父上ー。めっ」
軽く、両手の人差し指で、バッテン。
笑われた。
いやだって、急に態度変えられても。
オレ、ただの精霊なのにさ?
親父殿だって御母君だって、態度不変で嬉しかったのに。
普遍がいちばんですよっ、叔父上ー。
「なるほど、あの男が珍しく執着するのも、よく解る」
「んん? 叔父上、親父殿と、古い知り合い?」
「あれが登城した頃からな。あの生意気な侯爵の三男坊め」
憎々しげな言葉と、裏腹に。
叔父上の目線は、懐かしい感じに。
これは。
腰を据えて、昔話を聞きたいぞっ?
「んふー。叔父上? それは長くなるお話?」
「それはもう、長話じゃとも。儂の部屋へ?」
「ふふふっ、お供しますぅー!」
行かいでかっ!
ついでに、リズの私室から叔父上の部屋へ。
つまり、玉座に直通する通路を教えておいた。
知らなかったらしく、物凄くびっくりしてて。
どうやって塞ごうか真剣に思案してたのが可笑しかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「むぁー、遅くなっちゃったなあ」
「泊まって行けば良いだろう。王宮内とはいえ、夜道じゃ」
「むむ。護衛騎士さんに送って頂くのも申し訳ないし……」
叔父上の私室。
さすが国王陛下、玉座の裏に、隠し部屋とはっ。
侍女さん騎士さんたちも人払いで、ふたりっきり。
……いや!
めっちゃお話上手い、叔父上!!
どれくらいぶりに、こんなに笑っただろうか。
そうかー親父殿。
ふふふ。
若い頃はずいぶんと、はっちゃけてたのね。
冒険者資格取った理由とか、勇者パーティに居たとか。
本人が絶対話したがらないような、武勇伝の数々。
めっちゃ、楽しかったぁ。
あと?
御母君とのロマンスとかー。
お兄さんな肉親の叔父上から聞くと、随分色眼鏡だけど。
親父殿もカッコつけること、あったんだなと。
いやぁ、いやー。
にやにやが、止まらないっ!!
「ふぁ。ふみゅ、ねむねむぅ」
「おっと。酒は弱いのか、メテルは」
「ふぇ? おしゃけ、入ってた?」
「知らんで呑んでおったのか? 弱いが、果実酒じゃぞ」
「むぇぇ。おしゃけは、呑まないようにしてのにぃ」
ぷぇぇ。
回りが早いー。
言われてみれば、顔、めっちゃ熱い。
人間の体を模してる、この精霊核の、身体。
摂取した飲み物や食べ物、どうなるのかって。
一時的な胃袋みたいな場所で、即座に吸収されるから。
アルコール成分ですか?
めっちゃ酔いますよ。
分解も早いから、数時間程度で素面だけどね。
「どれ。ベッドに運んでやろうぞ」
「あー、叔父上、らめぇ。オレ、身体」
「今更、遠慮するでない。どぉれ……、…………!?」
あっ。
そりゃ、そうでしょうよ。
オレ、左半身がチタン製だもん。
大地の権能があるから?
見た目でもオレ自身も、重さ感じてないけども。
オレ自身を抱えあげようとしたら?
全身鎧並みの密度重量を持ち上げるようなもんだ。
やべぇ、と思ったときには。
オレは、ベッドで叔父上の身体に、のしかかっていた。
「フォッフォッフォッ。これは、一本取られたな」
「押さえ込み一本?」
「押さえ込みとは言い得て妙。動けんぞ、メテル」
「うにゅ。叔父上、ごめんけど、オレ、もう眠い」
「姪を抱えて寝るも良いか。ゆっくり、眠るが良いぞ」
言われるまでもなくっ。
もう、本気で眠いんすよぉぉ…………。
あ。
パーティ結局、投げっぱなしだ。
もう、いいや。
めんどくさぃぃぃ……。
ぐぅ。
────。
パーティ主賓の国王陛下を、部屋に連れ込み?
力技で、無理やり押し倒した。
と。
結果に気づいたのは、翌朝だった。




