52話 問題が更に増えた
《あらあらあらっ、めーちゃん可愛いーっ!》
《我、メテル姉の女性っぽさ、再認識》
くそぅ。
絶対、様子見に来ると思ったんだ、こいつら。
これは、シルフィとウンディの合わせ技。
ウンディが空気中の水分を集めて、水鏡を作る。
それをシルフィが空中に固定して、映像転送してるんだ。
でも。
精霊核越しの通信が通じるんだから。
そこまで距離は、離れてないのか。
《お母様から伝言ごんごん、離宮に到着してるからねー?》
《……ぉぅ。いつか判らんけど、そっちに行く》
《全然ぜんぜん、急がなくていいしロマンス堪能してね?》
《…………》
何がロマンスだっ!?
オレは姿は女でも、中身は男なんだっての!
何が悲しくて、男性のお姫様抱っこでロマンスかっ!?
「しかし。カイオン、君はよく平気だな……?」
「何がだ、ハクラ?」
「メテル姫の美貌を直視してるんだぞ、君?」
「ああ! 何、美姫の熱い眼差しには慣れているからな」
──この人、ぜったいナルシストだと思いまーす。
きらりん。
みたいな擬音が聞こえないのが不思議なくらいの。
超、爽やかスマイルを決められた。
まあ。
お姫様抱っこ中に暴れると……。
オレの、今の体重ってたぶん80キロは超えてるからな?
抱っこしてくれてるカイオンさんが危なそう、なので。
頑張って身体縮めて、胸の中で大人しくしている。
違うぞ!
なんかどきどきしてるのは、緊張してるからだし!?
オレ、根本的には人見知りだからして!
決して、男性の体臭や力強さに反応したとか……。
そういう理由で心臓ばっくんばっくんな、訳ではない!!
《めーちゃんめーちゃん、顔、赤いよ?》
《やかましいわっ!》
思いっきり、背景にキャーキャー歓声入れやがって。
水鏡で御母君とかに中継してんだろ!?
……。
これ、後日延々といじられるんだろうなあ。
違うし、そういうんじゃ、ないしっ。
ぷぅー。
で。
離宮、っていうのが、どうやら王宮から一旦出るらしく。
がっちり体格な門番さんたちがずらりと並ぶ、通用門。
拝礼されながら。
オレとカイオンさん、ハクラさんが通過。
したらば。
「カイオン、我が姪を娶る気か?」
「はっ! 婚期はまだ先と、決めておりますれば!」
ざざっ。
ちょっと慌て気味に。
カイオンさんとハクラさんが、立ち止まって礼。
門の外に、六十代くらいの、しっぶぅぅいおじさま。
物凄く偉い人なんだろうなあ、的な?
通路で誰と会っても礼されてたハクラさんカイオンさん。
二人が、直立不動で緊張しまくってんだもん。
なんか、気になること言ったな?
我が姪?
ええと。
姪っていうのは、自分から見て兄妹とかの子供だよな。
と、いうことは。
御母君の、お兄さん?
──。
国王陛下じゃねーか!?
「とっ、わっ、王様、ええと、こんにちは!?」
「先程妹と、他の三人の姪には顔合わせしたが」
ほぅ、と目を細める王様。
気づけよオレ!
王冠、かぶってんじゃねーか!?
て、いうかね?
王様、王冠被ってるのは、いいんだけど。
格好自体が、ちょっとお歳を召した冒険者、みたいな?
全身鎧に片手剣と、円盾だけど。
相当に年季の入った鎧姿で、使い込まれすぎ。
何よりの、違和感が。
「あの男め、我が妹と関係をはっきりせんかと」
「あー。心中お察しします?」
オレが居ない間に、親父殿と一戦交えたのかなー、的な?
だって。
全身の装備の材質が、鉄じゃないんだもん。
これは、親父殿がステンレスか何かに【錬金】したな?
後で戻せるんだろうけど。
ていうか、王様の装備なんだから、戻すんだろうけど。
……あー、親父殿の、【錬金】。
見たかったなあ、上級錬金術なんだもんなっ。
どうにかして、会得したい気持ちはあるんだけど。
「ほぉ? メテル、だったかな?」
「は、はい? そうですけど」
「──良い見合いの候補が居るのだが。婚姻の予定は?」
──婚姻。
男女が契りを結び、生涯を添い遂げること。
確か、そんな意味だったっけ。
ええと。
「……ふぁいっ!?」
「その様子、相手は居らんな? 叔父が見繕ってやろうぞ」
闊達に笑う、王様。叔父様。
あのー。
一昨日来やがれというか。
全身全霊で、ご遠慮させて頂きたいのですけども。
あと。
精霊通信越しに聞こえる、全力の笑い声。
姉妹ぷらす御母君で、笑いまくってるけど。
この流れで言うと?
叔父様が見繕おうとしてるのは……。
精霊四姉妹、全員分だと思うぞ?
──今頃慌てんな、っていうか。
……。
お前らも、道連れだっ、はっはっは。
悠々と去っていく王宮内に去っていく、王様を見送り。
カイオンさんとハクラさん、深々と、深呼吸。
「何やら大変なことになりましたな、メテル姫」
「ですね。パーティ準備に追われている面々、可哀想だわ」
あー。
普通の社交界パーティに、お見合い要素も加わるのか。
──。
全力で、逃亡したら。
きっと、準備してる方々が大困りするんだろうなあ?
ううん。
困ったな?