47話 精霊四姉妹、オンザビート!
「長旅の里帰り、大義であった。皆の衆、ゆっくり休め」
と。
しっぶぅぅぅい、お祖父様の言。
はい、休ませて頂きたく!
──ほんとうに、言葉通り、休んでいいのなら!!
……ダメなんだよなあ、貴族様のお言葉って。
大抵、字面通りに聞くと、酷い目に遭う。
似たような話で、前世でも。
『食べながら聞いて下さい!』
って言われたので、正直にもりもり夕飯食べてたら。
教師に思いっきり、拳骨で殴られたっけ。
ああいう『暗号』って、何を目的に作られるんだろね?
それは、今は置いといてっ。
御母君と親父殿、それにオレたちの一行。
が、城の正門を通過しようとする、挨拶。
言葉を発するタイミングから、礼の仕草まで。
事細かく、手順が決められていて。
素人のオレらには、さっぱり理由も分からない。
伝統と儀礼なんて、人外精霊には理解出来ようもない。
『ぜったい喋っちゃダメよ、メテルちゃんたち!』
って、御母君が口を酸っぱくして言ってたっけ。
心配しなくても。
オレだって、こんな場で注目されたくはない。
っていうか。
オレをガチで化粧すると、周辺が死屍累々になる対策で。
オレ以下、四姉妹は全員。
顔の前を、分厚いベールで覆われている。
オレなんか超絶に念入りで。
ぶっちゃけると、肉眼で前が、見えないんですけど?
これ、ベールっていうか、既に目隠しですよね?
いや、まあ、地脈視点あるから別にいいんだけどね。
ねえ?
なんでオレだけ、完全に不透過なんですかねえ?
周囲には、街の住人総出の輪が、十重二十重。
オレら四人は、先頭を歩く親父殿と御母君の、すぐ後ろ。
オレらの後ろに、更にセバスさん筆頭で家臣団。
セラさんたち? 雇われ護衛なので、この場にはいない。
これは、つまり、お芝居のようなもの。
正門前で馬車を降りて、開け放たれた門を徒歩で潜る。
城の主たるじーちゃんが、城に入る許可を与え祝福する。
門塀の脇に並んだ民衆兵士が、御母君の帰還を歓迎する。
いろいろ手順はあるけども?
やることのメインは、つまりそういうこと。
でも、まあ?
いっこだけ、確実に理解できることはある、ぞ?
「じーちゃんは。御母君帰って来て、超嬉しそうだ」
じろりっ。
じーちゃんの視線が、オレに向けられる。
あ、やべ。
声に、出ちゃった?
でも、だって、じーちゃんの姿。
よーく眺めてないと、分からないだろうけど?
じーちゃんってば。
つま先で軽くステップ踏んで、ノリノリなんだもん?
あれは、ダンスか何かの素養がある、と見たぞっ。
軽く腰を屈めて、じーちゃんに、礼。
これで。
ご、誤魔化せない、かなあ?
「どこの田舎娘を拾ったかと思ったが。胆力は、あるな」
……むかっ。
い、田舎娘、だとぉ?
顔を隠したとは、いえどもっ?
ウチの妹たちは。
どこに出しても恥ずかしくない、美少女揃いなんだぞっ!
周囲はもう、割と歓迎ムードに近いと思う。
拍手喝采はないけれども、厳粛な空気でもない。
そんな、曖昧な空気の中。
じーちゃんは、普通の人間だし?
まさか呟きが聞こえた、なんて思ってないだろうけど。
ここは、御母君の言いつけに、背いてでも。
分からせておく必要があるよな、次女よっ?
こっくり。
地霊のオレが聞こえた音が?
音階の支配者シルフィに、聞こえないはずもなく。
じゃあ、何やるべか?
ここは、やっぱり、アレで行こうずっ。
ええぇ、アレやるの?
ボク恥ずかしい、とか四女の思念が聞こえるけど。
そんなことは、いいからっ。
オレが、やれって言ってるんですっ。
貴方方? やっておしまいなさい?
……と、割と強めに思念を送れば。
諦めの空気と共に。
──ぱぁん!
小気味良い、乾いた破裂音。
炎の四女サラムが、空気中で火種を炸裂させた音だ。
破裂音の残響が、街中に響く。
残響が尽きる前に、また、続けて。
ぱぁん! ぱぱぁんんっ!
表拍で。それは、だんだんと、速くなっていく。
と。
ぼこんっ、ぼん、ぽぉんっ。
深めに掘られた、正門脇の、堀。
水面上で弾ける、巨大な泡の、破裂音。
水の三女ウンディが奏でる、水音。
大きな音と、小さな音。
重低音と、甲高い破裂音。
確かな調律で、サラムの破裂音と、絡む。
「な、なんじゃ? 娘に、婿殿よ。魔法か?」
じーちゃんが驚いておる。
ふっふっふ。
狙いどーり!
だが。
真骨頂は、これからだ!
ばん、ばん、からかかっ、かつんかつん、ばぱぁん!
石垣や飾り石が、オレの権能で自ら弾け飛び。
そして反射し、落下し、空気を震わせて、多彩な音を。
オレたち三人が奏でる音の集合は、街中を取り巻いて。
賑やかに、それでいて荘厳に。
精霊の調べが、周囲を圧倒する。
田舎娘で悪かったな?
コレが、田舎娘の芸だぞっ。
どうだ、見たか?
少し狼狽して。
でも、リズム感は悪くないらしい、じーちゃん。
不思議がりながらも。
全身でノリノリになってるのは、街の住人も、一緒。
みんなが、思い思いにステップを踏み出している。
だがっ。
まだ、こっちには切り札が、あるんだぜ?
隣のシルフィと、額を付き合わせて。
お互い、ベールで見えないけどさ?
思いっきりの笑顔で、笑い合う。
そして。
お互いに、片手を繋いで、並んで。
至近距離で、合わせて。
全ての『伴奏』の上に乗って、吹き抜ける、ハーモニー!
どうだ。
これが、精霊四姉妹の、最終兵器。
精霊の、声、だ!
天にも届く、美声の調べを、音に聞けっ!
──なし崩し的に始まった、お祭り騒ぎ。
じーちゃんを驚かせるのには、成功したけど?
手順や手はずが台無しになった、つって。
御母君に、後で割とこっぴどく、怒られた。
むぅ。
楽しかったから、いいってことにしませんか御母君?
え、注目されすぎ?
あ、やっぱりダメでしたか。
面倒事が、後でやって来ると。
えええ?
やだなあ?
そこら辺は、きっと御母君が上手くやってくれるかなと。
……限度があるんですねごめんなさい。
何も考えておりませんでした、はい。




