表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/200

47話 精霊四姉妹、オンザビート!

「長旅の里帰り、大義であった。皆の衆、ゆっくり休め」


 と。

 しっぶぅぅぅい、お祖父様の言。

 はい、休ませて頂きたく!

 ──ほんとうに、言葉通り、休んでいいのなら!!


 ……ダメなんだよなあ、貴族様のお言葉って。

 大抵、字面通りに聞くと、酷い目に遭う。

 似たような話で、前世でも。


『食べながら聞いて下さい!』


 って言われたので、正直にもりもり夕飯食べてたら。

 教師に思いっきり、拳骨で殴られたっけ。


 ああいう『暗号』って、何を目的に作られるんだろね?


 それは、今は置いといてっ。


 御母君と親父殿、それにオレたちの一行。

 が、城の正門を通過しようとする、挨拶。


 言葉を発するタイミングから、礼の仕草まで。

 事細かく、手順が決められていて。

 素人のオレらには、さっぱり理由も分からない。

 伝統と儀礼なんて、人外精霊には理解出来ようもない。


『ぜったい喋っちゃダメよ、メテルちゃんたち!』


 って、御母君が口を酸っぱくして言ってたっけ。

 心配しなくても。

 オレだって、こんな場で注目されたくはない。


 っていうか。

 オレをガチで化粧すると、周辺が死屍累々になる対策で。

 オレ以下、四姉妹は全員。

 顔の前を、分厚いベールで覆われている。


 オレなんか超絶に念入りで。

 ぶっちゃけると、肉眼で前が、見えないんですけど?

 これ、ベールっていうか、既に目隠しですよね?


 いや、まあ、地脈視点あるから別にいいんだけどね。

 ねえ?

 なんでオレだけ、完全に不透過なんですかねえ?


 周囲には、街の住人総出の輪が、十重二十重。

 オレら四人は、先頭を歩く親父殿と御母君の、すぐ後ろ。

 オレらの後ろに、更にセバスさん筆頭で家臣団。

 セラさんたち? 雇われ護衛なので、この場にはいない。


 これは、つまり、お芝居のようなもの。


 正門前で馬車を降りて、開け放たれた門を徒歩で潜る。

 城の主たるじーちゃんが、城に入る許可を与え祝福する。

 門塀の脇に並んだ民衆兵士が、御母君の帰還を歓迎する。


 いろいろ手順はあるけども?

 やることのメインは、つまりそういうこと。


 でも、まあ?

 いっこだけ、確実に理解できることはある、ぞ?


「じーちゃんは。御母君帰って来て、超嬉しそうだ」


 じろりっ。

 じーちゃんの視線が、オレに向けられる。


 あ、やべ。

 声に、出ちゃった?

 でも、だって、じーちゃんの姿。

 よーく眺めてないと、分からないだろうけど?


 じーちゃんってば。

 つま先で軽くステップ踏んで、ノリノリなんだもん?

 あれは、ダンスか何かの素養がある、と見たぞっ。


 軽く腰を屈めて、じーちゃんに、礼。

 これで。

 ご、誤魔化せない、かなあ?


「どこの田舎娘を拾ったかと思ったが。胆力は、あるな」


 ……むかっ。

 い、田舎娘、だとぉ?

 顔を隠したとは、いえどもっ?

 ウチの妹たちは。

 どこに出しても恥ずかしくない、美少女揃いなんだぞっ!


 周囲はもう、割と歓迎ムードに近いと思う。

 拍手喝采はないけれども、厳粛な空気でもない。

 そんな、曖昧な空気の中。


 じーちゃんは、普通の人間だし?

 まさか呟きが聞こえた、なんて思ってないだろうけど。

 ここは、御母君の言いつけに、背いてでも。

 分からせておく必要があるよな、次女よっ?


 こっくり。

 地霊のオレが聞こえた音が?

 音階の支配者シルフィに、聞こえないはずもなく。


 じゃあ、何やるべか?

 ここは、やっぱり、アレで行こうずっ。


 ええぇ、アレやるの?

 ボク恥ずかしい、とか四女の思念が聞こえるけど。


 そんなことは、いいからっ。

 オレが、やれって言ってるんですっ。

 貴方方? やっておしまいなさい?


 ……と、割と強めに思念を送れば。

 諦めの空気と共に。


 ──ぱぁん!

 小気味良い、乾いた破裂音。

 炎の四女サラムが、空気中で火種を炸裂させた音だ。

 破裂音の残響が、街中に響く。

 残響が尽きる前に、また、続けて。


 ぱぁん! ぱぱぁんんっ!

 表拍で。それは、だんだんと、速くなっていく。

 と。


 ぼこんっ、ぼん、ぽぉんっ。

 深めに掘られた、正門脇の、堀。

 水面上で弾ける、巨大な泡の、破裂音。

 水の三女ウンディが奏でる、水音。


 大きな音と、小さな音。

 重低音と、甲高い破裂音。

 確かな調律で、サラムの破裂音と、絡む。


「な、なんじゃ? 娘に、婿殿よ。魔法か?」


 じーちゃんが驚いておる。

 ふっふっふ。

 狙いどーり!

 だが。

 真骨頂は、これからだ!


 ばん、ばん、からかかっ、かつんかつん、ばぱぁん!

 石垣や飾り石が、オレの権能で自ら弾け飛び。

 そして反射し、落下し、空気を震わせて、多彩な音を。


 オレたち三人が奏でる音の集合は、街中を取り巻いて。

 賑やかに、それでいて荘厳に。

 精霊の調べが、周囲を圧倒する。


 田舎娘で悪かったな?

 コレが、田舎娘の芸だぞっ。

 どうだ、見たか?


 少し狼狽して。

 でも、リズム感は悪くないらしい、じーちゃん。

 不思議がりながらも。

 全身でノリノリになってるのは、街の住人も、一緒。

 みんなが、思い思いにステップを踏み出している。


 だがっ。

 まだ、こっちには切り札が、あるんだぜ?

 隣のシルフィと、額を付き合わせて。

 お互い、ベールで見えないけどさ?

 思いっきりの笑顔で、笑い合う。


 そして。

 お互いに、片手を繋いで、並んで。

 至近距離で、合わせて。


 全ての『伴奏』の上に乗って、吹き抜ける、ハーモニー!


 どうだ。

 これが、精霊四姉妹の、最終兵器。

 精霊の、声、だ!

 天にも届く、美声の調べを、音に聞けっ!


 ──なし崩し的に始まった、お祭り騒ぎ。

 じーちゃんを驚かせるのには、成功したけど?


 手順や手はずが台無しになった、つって。

 御母君に、後で割とこっぴどく、怒られた。


 むぅ。

 楽しかったから、いいってことにしませんか御母君?


 え、注目されすぎ?

 あ、やっぱりダメでしたか。


 面倒事が、後でやって来ると。

 えええ?

 やだなあ?

 そこら辺は、きっと御母君が上手くやってくれるかなと。


 ……限度があるんですねごめんなさい。

 何も考えておりませんでした、はい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

──少しでも面白いと思ったらっ。評価ボタンを押して頂けますと、感謝感激でございますっ。──


小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ