38話 餌付けされるサラムは可愛い
サラムがかわゆすぎて3000文字超えてしまいました。
申し訳ない、ぺこりっ。
……クリスマス? なんですかねその単語(血涙。
がたごと、がたごと。
街中の石畳じゃ殆ど揺れない上質な馬車でも。
街道に出ると、やっぱり道の悪さは影響するみたいだ。
「舗装予算がねえ? セバス、そこんとこどうなの?」
「はい。奥方様の仰るように、街道整備は後回しですな」
ダンジョンの下層が発見されたもんで。
領地の予算が冒険者関係で、かなり喰われてるって。
今までは、親父殿と御母君の魔法製品で稼いでたけど。
街がダンジョン素材で自立できるようになったら。
街の規模が、もっと大きくなるかも?
そんな話を、御母君とセバスさんが話している。
オレは領地経営とかそこら辺、よく分かってないので。
……ちらり。
話について行けずに、周囲を見回したりする。
女性用馬車、ということで。
この馬車はオレら女性陣しか乗ってない。
まあ、セバスさんは筆頭執事なので例外。
あと、今までほぼ見かけなかった下働きの侍女さんたち。
セバスさんが「筆頭」執事なんだから。
そりゃ、筆頭じゃない部下もいるよね。
どうもサラムが超絶人見知りなので気を使ってたようだ。
その、サラム?
「ささ、サラム様、クッキーを焼きましたのよ」
「……あまい」
「まあ、なんて可愛らしいお顔っ!」
「美味しかった、……ありがと」
……順調に侍女さん達に餌付けされてんな、あれは。
只今、王都に向けて、絶賛大移動中。
お城って放置していいのか、って思ったけど。
あそこ、ほんとに「魔法の要塞」的な建造物なので。
──親父殿と御母君がセットで施錠したら。
もう、誰にも開城できないらしい。
そういうわけで。
大荷物と大勢の家臣っていうか侍女さんズを引き連れて。
気分は職場旅行! みたいな。
……。
今更だが。
人数、多すぎない?
この馬車だけで、軽く20人は乗ってんですけど。
しかも。
後に続く親父殿の馬車には、男性陣が詰め込まれ。
そちらには護衛の冒険者も乗ってる、という。
そう、馬車もあほみたいな大きさ。
長さは6メートルくらい?
二階建て、簡易厨房とトイレ付き。
どこの観光バスですか。
これだけの大きさの乗り物、普通の馬では引けない。
無論ながら。
馬さんに鞭打って、無理やり引かせてるわけじゃない。
馬車の先頭では、二頭の「ゴーレム馬」が疾走中。
親父殿が錬金術で錬成した真鍮製の、魔法の馬。
疲れ知らずで魔力が続く限り走り続ける、マジメな奴。
「メテルちゃん、ゴーレムは知らないのね?」
「いやだから、オレ魔法素人なんですってば」
「あれだけの魔力あって魔法初心者って、恐ろしすぎるわ」
パラパラ、さかさか。
どうやら御母君、見るからに絶賛お仕事中。
領地経営に関する書類、なのかな?
数字と文字がみっちり詰まった紙束を、次々決済してる。
その、作業の片手間で。
オレ、話し相手として傍に「侍らされ」中。
正直。
……領地経営について話されても、受け答え不能。
つらいです。
シルフィとウンディ?
率先して親父殿の馬車に逃げやがった、あいつら。
……魔法バカが三人揃って同じ場所にいるの、不吉だ。
きっと今もなにか、変な魔法を開発中なんだぜ?
──せっかく綺麗に飾って貰ったんだから。
頼むから、汚すなよ?
なんか、一着で家の数軒は建ちそうな豪華さだった。
あと。
何回でも言うけど。
……オレの妹たち、着飾ったら更に超絶可愛い!!
「メテルちゃん、魔法の勉強する気は?」
「ふぁいっ!?」
妄想してたら変な声出てしまった。
いやだって。
昨日一日、三人まとめて撫で回しまくりで可愛がったし。
全身隅々、撫で回しスキンシップ。
オレ、割と好きなんだよな。
ウンディやサラムも、割と触られに寄ってくるし。
シルフィは逃げ回るけど、あれは恥ずかしいのかね?
全力で逃げるのを追い詰めて押し倒す遊びも、楽しい。
最初は全身で拒絶してたシルフィも、可愛かった。
まあ、最後には恍惚としてたから、いいだろう。
反応良すぎて、痙攣しまくってたし。
毎度のことだが、なんであんなに拒絶するんだろうな。
謎だ。
「錬金術も、理解して使ってるわけじゃないんでしょ?」
「あ、はい。さっぱりですね。精霊核に刻まれてるので」
「……それよ。ほんとに、ホムンクルスなのね?」
右手の手袋を外したオレを、御母君がさすさすと。
……だんだん、なんか触り方がいやらしい手つきに。
触る場所も、腕から首や胸に!
ひぃっ、オレ、そっちの趣味ないんですよ!?
「ごめんね。石材と思えないくらい柔らかくて」
「石材、とは違うんすよね。説明しづらいけど」
苦笑して、軽く上着をはだけて見せる。
上着の下はタンクトップみたいな肌着一枚。
御母君が、ガン見しまくってるので目の前へ移動。
先ほどとは違って、研究者目線になってるので安心した。
……さり気なく後ろを向くセバスさん、マジ紳士。
左腕と左足は自壊しちまったもんで、冷たいチタン製。
御母君が撫でてる、左肩のチタンと精霊核の接合部。
そこはぴったりと噛み合ってて、段差もない。
親父殿、ほんとに凄腕錬金術士です。
自分で錬成するより、綺麗かもしれない。
ありがたい。
見た目は普通の肉体だけど。
肌一枚の下に、筋肉や血管は存在しない。
表面を人間の肌に偽装してるだけだ。
その、精霊核。
作ったオレ自身にも、材料がよく分からない。
ので。
今から王都に行くついでに。
ラスティが向かったはずの、地精霊神殿にも足を伸ばす。
精霊を信奉してる神殿なら、手掛かりくらいあるだろう。
「どう見ても、素肌よねえ? 温かいし」
「御母君は冷たいですね指先。温かいものを?」
「そうね、わたくし、冷え性なので。セバス?」
「コンソメスープをお持ちしましょう。メテル様も?」
「あ、どうせなら全員で。ていうか、休憩しません?」
考えてみたら。
昨日グレイパレスを出てから、ずっと走り詰め。
オレら精霊には負担ないけど、ずっと乗り物の中。
後ろの馬車にいる親父殿たちも、疲れてるに違いない。
御母君も、枕が変わると寝れない、つってたっけ。
その御母君。
クールな横顔でまた書類を読んでる、けど。
口元が、にこにこ、にこにこ。
少し喜んでる風なのは、きっと気の所為じゃない。
仕事が詰まってる、って常々言ってる人だし。
休憩の提案、自分からは出しづらいよね。
あ。
そういえば。
「サラムー?」
「う? うやっ、何、メテル姉!?」
いや、お菓子食べてていいから。
誰も取らないから、落ち着いてお食べ?
周囲の侍女さんズも、オレも思わず。
両手いっぱいクッキー皿抱えたサラムの姿に、にっこり。
じゃ、なくて。
「ウンディと露天風呂作る、って張り切ってなかったか?」
「……あっ! すぐ準備するー! メテル姉、穴掘って?」
「お安い御用だ。馬車が止まったら、すぐにな」
そう。
風呂は日本人の心。
この世界にも、風呂好きの遺伝子を伝えなければ!
しかし。
風呂に水張ってそれを沸かす、って、一般人には難しい。
魔力有り余ってる親父殿や御母君でも、同じ。
だがっ。
オレら精霊姉妹の合せ技なら!
コストはっ、無料!
できることっ、無限!
夢の無尽蔵エネルギー!
「無尽蔵じゃなく、周囲の精霊力を消費してるのよ?」
「……?」
「周囲に物質の形で存在する精霊力を利用してるの」
「…………?」
「だから、水がないところで水を産むには水気が必要で」
「………………???」
「わたくし、何故、精霊に精霊魔術基礎を説明する羽目に」
すみません。
完全に、本能だけで権能使ってます、オレ。
まあ。
露天風呂に入れば。
そんな細かい理屈、吹き飛ぶさっ。
「物理的に吹き飛ばすのはやめてね、お願いだから!?」
うっかり間違って飛ばさないように、気をつけます。