表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/200

37話 苦労は分け合うのが真の姉妹ですよね

「あのぉ。御母君? これは一体」

「必要なことなのよ? まさか、すぐに出発できると?」


 にっこり。

 笑顔が眩しい御母君。

 が。

 大量の「綺羅びやかなドレス」を、胸に抱えて。


 ──。

 じり、じり。

 迫る御母君。

 下がるオレ。


 どんっ。

 背中が、壁に当たる。


 ここは黒白尖塔城の一室。

 つまり、オレの寝室、兼病室。


 あれから、二週間ほど経過した。

 最初のうちはシルフィとかが傍から離れたがらなかった。

 けど。

 落ち着いた今じゃ、城内で元気に遊んでいる。


 オレが地脈で常に全員を把握してる、って。

 それを理解してからは、離れても安心になったようだ。

 城内程度の距離なら、直通信できるしな。


 そして。

 親父殿の錬金術の応急処置も、一段落。

 手足はチタン製に変わったオレだが、動きに問題はない。

 ……多少、女子にあるまじき体重になった程度。


 全力で足踏みしたら床が抜けた、ので。

 バレないようにそっと、錬金術で直したのは内緒だ。


 で。

 オレの部屋、角部屋で窓は多い。

 陽の光がたくさん入る、明るい設計になっている。

 だがしかし。

 入り口はひとつ。

 その方向には、御母君が迫る。

 やべえぞ、オレ、絶体絶命!?


 と、いうかだな?


「あの。ほんとに、何の理由で、その、ドレスを?」

「曲がりなりにも辺境伯、国内最大領主なのよ、あの人?」


 何を当たり前のことを。

 そんな風に話す御母君。

 ……ほんとに。

 とても還暦近い親父殿と、同い年に見えないですよね。

 にぱっ、と笑う笑顔。

 どう見ても幼女……、ゲフンゲフン。


「領地を離れることになるわけじゃない、それも長期?」

「ええ、まあ、そうなるんでしょうけど」


 答えながら、油断なく周囲を伺う。

 地脈の眼よ、オレの精霊力に応えろ!


 ──シルフィとウンディ。

 地下実験場で魔法実験中。

 オマエ、竜巻より更に致死性の魔法開発するのかよ。

 ていうか、ウンディも一緒になんかやってるの怖え。

 それ、俗に言う氷嵐──、ブリザードなのでは?

 複合精霊魔法とか、なにそれかっこいい。


 ──サラム。

 君、ほんとに武技の達人だよね?

 中庭でセバスさんに剣技教わってるぽい。

 っていうか、セバスさん武人だったんですね?

 執事服で身長の倍もある両手剣振るって、どうなのさ。

 あれに斬られたくはねえなぁ。


 ──親父殿。

 ……城内で見つからねえぞ、ぉぃ。

 オレの眼から隠れるって、相当すぎるんですけど?

 隠蔽術、ちょっと教わりたくなってしまう。


 とりあえず、理解したこと。

 ……誰も助けてくれそうに、ない。


「なら、引き継ぎ兼ねて国王陛下にご挨拶に行かなきゃ?」

「それは、分かりますけど。そのドレス、何の関係が?」

「……うふふ。シルフィちゃんに聞いたのよ?」


 何を。

 不吉な予感しか、しねえ。

 この御母君の上気した肌と、荒い息遣いは覚えがある。

 服飾屋のおネエさん、コルトさんと似た匂いだっ!?


「メテルちゃん? 社交界デビュー、しないとね?」

「ごめんですっ! いやだもう着飾られるのはぁぁぁ!?」


 ……。

 ああ、やっぱり今回も駄目だったよ。

 しかし。

 本能が言っている、ここで挫折する定めではないと。


 これでも長女っ。

 たかが豪華なドレス程度、負けてなるかっ。

 こうなったら。

 着こなして、やらぁっ!!


「うわ、聞いてたけど。何でも似合うって聞いてたけど!」

「いちばんいいのを頼む」


 ふっ。

 開き直り全開で、にやり、と笑みを貼り付けたまま。

 頭ひとつほど低い御母君を、軽く見下ろしたら?

 御母君、その場で腰を抜かしてしまわれた。


 ……。

 え、ドレスは義足が生々しいから無理、って結論で。

 男装っぽいズボン衣装も一応あったので、そちらを。

 したらば。

 なんかヅカ女子みたいになったんですけど、オレ。


 上着は、襟と袖が長い、上質な革の白服。

 胸辺りと襟には、意味不明なたくさんの勲章。

 肩パッドには金ぴかのひらひらとモールがくっついてる。


 片手が完全に金属剥き身なので、両手共に白手袋。

 これ、片手分投げつけたら決闘の意味になるんだっけ?


 革ベルトで吊った腰剣は、貴族用の細い剣。

 レイピア、っていうらしい。

 使ったことないので、ほんとに飾りだ。


 ズボンは馬乗り用の革ズボンで、お尻ぴっちぴち。

 割と締め付け感ある下履き好きなので、これはいいなと。

 長靴も編み上げの膝まである、ロングブーツ。


 腰まである銀髪は、編まれて背高帽子に詰め込まれ。

 あご紐で支えるタイプなんだけど。

 これ、油断したら扉とかで上にぶつけそう。

 元々170センチ超えてるオレ、今2メートル近いぞ。


 そんな感じで。

 オレの姿っていうのは、今現在。

 ──男装の女騎士?

 みたいな。


「あの、御母君」

「ひっ、ひゃい!?」

「お加減が、悪くなったり?」

「ちっ、近寄らないでお願い! やばい、これはヤバイ!」

「……??」


 なんだろう。

 女性の心理って、よく分からないんだけど。

 物凄く、オレの姿に慌てていらっしゃる? ような。


「ああっ、絵画にして残したい! 芸術すぎる!」

「何言ってんですかね御母君」


 会って日が浅いとはいえ、娘ですよ?

 オレ、女性の自覚かなり薄いけども。

 そんな、まさか。

 娘に、欲情とか?


 ……なんか、真っ赤になってハァハァ言ってる幼女って。

 絵面的に、そっちの方が不味い気が。

 そっち方面って、ほんとによく知らないんだけど。

 もしかして。

 お腐り(腐女子)になられていらっしゃったり、したり?


「これは世界が知るべきだわ! 頑張りましょう!?」


 何をですか。

 社交界デビューですか。

 えええ、やだなあ?

 っていうか、社交界デビューって、何歳からなんです?

 女子なら、十二歳からおk?


 ふふふ。

 御母君。

 獲物は、あと三人居ますぜ?


「そうよ、こうなったら全員まとめて!」

「合点承知之助!」


 道連れは、多ければ多いほど、いい。

 オレは率先して、逃げ回る姉妹たちを追いかけた。


 ふっふっふ。

 みんなで幸せになろうよ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

──少しでも面白いと思ったらっ。評価ボタンを押して頂けますと、感謝感激でございますっ。──


小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ