36話 家族に提案をしてみた
「よぉっく、理解したわ。ほんとのほんとに、精霊なのね」
あ、はい。
そうなんですよ。
御母君に、理解して頂き恐悦至極。
まあ、そりゃね?
目の前にこうして「血肉のない肉体を持つ」娘、居るし。
身体が欠けて平気なとこ、真正面から見ちゃったもんな。
姉妹全員それなりに、それぞれの権能を使ったし。
やっぱ、百聞は一見に如かず、だよなあー。
……けど。
「あの。なんで、全員で監視されてるんでせうか、オレ?」
「つくづく、思い知ったからよデメテルお姉様?」
ひぃっ。
シルフィさん、至近距離で三白眼はやめてっ。
超、怖いです。
シルフィの剣幕に怯えてるのか?
ウンディとサラムは、結構離れた部屋の隅っこ。
セバスさんに遊んで貰ってるけど、なんか元気ない。
そのシルフィは、大仰に息を吸って。
「前々から思ってたけど!」
びしぃっ!
突きつけられた人差し指は、寝ているオレの、鼻上。
というか。
オレは、身体の大部分がもげた状態で、ベッドに寝てる。
親父殿の本気の【錬金】を浴びたせいだ。
──オレが相手じゃなかったら?
もしかしたら、親父殿は精霊を「物理的に」殺せるかも。
精神存在だから、身体を失っても死ぬことはないけどな。
身体の利便性を知った今。
身体がなくなると、割と困ることが多い。
そう思うのは、全員同じだと思う。
シルフィが怒ってるのは、そういうことじゃないぽいが。
「おねーちゃん、戦闘中、記憶飛んでるよね!?」
「……あー。否定出来ない」
そう。
なんか、戦闘中の記憶って、ふわふわしてるのだ。
邪魔だなあ、とか鬱陶しいなあ、みたいな?
そういうことを考えてたような、漠然とした記憶のみ。
具体的に、どういう戦闘の進め方をしたのか、とかも。
「集中してるせいかな? 何考えてたか、思い出せない」
「ああ、もうっ! いつもいつもいつも!」
ああ。
何したか覚えてないけど。
……。
泣くな、シルフィ。
「たったひとりのおねーちゃんなんだからね!?」
ぐえ。
首にしがみつかれて、変な声が出る。
肉体あるって、いいなー。
多少なりと、身体が残って良かったぜ。
「さて、施術しますよ。多少時間が掛かりますが」
「……え? 親父殿、治せるのコレ?」
わんわん泣き縋ってるシルフィの頭を、片手で抱いて。
親父殿が、困った顔でベッドのオレを見下ろしている。
「直せますよ。材料さえあれば」
「……材料?」
「大精霊を宿す精霊核ですよ? 世界中から集めないと」
とりあえず今は、仮の義手義足で、我慢してくれ、って。
ああ。
錬金術で、鉄とかの金属を【錬成】するわけだ。
それは、材料さえあればオレも自分で出来ちゃうよな。
でも。
金に変えられた手足は、精霊核には戻せない。
親父殿ですら。
あれは。
精霊力が繋がる全ての地域から集めた素材で作ったから。
……オレ自身でさえ、全ての素材を覚えてないくらいだ。
やれやれ。
苦笑なんだか、微笑みなんだか。
いつもの親父殿の、曖昧な笑い方。
で。
隣に、なんか、バツの悪そうな、御母君。
「悪かったと、思ってるわよ。お詫びに、全力で探すから」
「何を?」
「材料よ! これでもSランク冒険者なんだから!」
ああ。
そういう?
オレの身体を治すための、材料集めクエスト。
そんな感じの冒険者依頼、発注でしょうか。
「そういうことですね。資金はありますが、時間がね」
「そうだよなあ。それならさ、親父殿?」
オレの提案した、内容。
結構、いい考えだと思うんだけど?
何しろ、探索範囲が世界中だ。
長期間寝たきり、ってのもごめんだし?
そういう、わけで。
「義手義足で、冒険者復帰、ねえ……」
「全員でパーティ組むのが、いちばん早いんじゃん?」
困惑顔の、御母君。
でもまあ?
家族水入らずパーティ、ってのもいいかなって。
それだけのことをやる能力、オレら全員にあるんだから。
オレは大地の精霊。
金属製なら、義手義足でも操るのは、お手の物。
そりゃ。
肉の身体同然に扱える精霊核よりは、精度劣るけどね。
ここで延々寝たきり成果待ちよりは、断然いいはずだ。
「いい考えですよメテルさんっ。さあ、出発しましょう!」
「貴方、仕事から逃げたいだけでしょ!? 引き継ぎ!!」
「ホリィさん、我々には時間がないんですよ!」
「後任に領地運営を引き継ぐくらいの時間はあります!」
「いやだ、書類仕事はもういやなんですよー!!」
……親父殿。
地下では、すげえかっこよかったイメージあるのに。
どうして、貴方は。
普段はそんなに、とてつもないダメ親父なのだろうか。
謎すぎる。




