35話 そんな宿命は要らない
600ポイント超えてましたぁ!
皆様のご愛顧に、感謝感謝っ。
でわでわ、メテル姉の勇姿をどぞっ。
※珍しく負傷ありのガチバトルしてますので、苦手な方は飛ばして下さい。
「ん、なっろぉぉぉ!!!」
ごぉん!
オレの双腕に「生やした」チタンの棍棒が、弾かれた音。
御母君の作る魔法の防壁は、凄まじく硬い。
「割られた!? なんて威力なのよメテルちゃんっ!」
当たり前だ、オレだって少しは考える。
ただ無意味に殴ってるわけじゃない。
地脈を通した視界で、いちばん防備が薄い場所を観た。
地脈を通した視界を別の場所に「分ける」と、混乱する。
けど。
昆虫の複眼みたいに、「同じ視界を複数から見る」なら。
──少しでも動きに違いがある映像は……。
間違い探しと、同じだ。
多数の、微妙に角度の異なる視界の中で、目立つ。
足元は、砂で満たされている。
魔法の実験場だからか、衝撃を緩和するためか。
普通の戦士なら、走りにくいことこの上ないだろう。
でも。
オレは、大地の精霊。
地脈に通じる地属性の砂は、踏みしめれば即座に固まる。
それに。
砂粒ひとつにすら、視界を移すなんて簡単すぎる。
周辺一帯全てが、オレの領域だ。
……たまに水の抵抗を感じるのは。
ウンディが、邪魔してるのか。
空気も重くて薄いのは、シルフィが。
全身に感じる熱気は、サラムが。
みんなして、本気で邪魔してやがる。
ああ、鬱陶しいぞ、妹たちよ?
……もう、何十回撃ち合っただろうか?
最初のうちは、割と力をセーブしてた、気がするんだが。
今は。
……「こうなってしまった」からには。
相手を打ち倒すまで、止まらない。
いや。
止まれない、って感じか?
オレの力の全力で、……目の前の敵を、叩き潰す。
そんな感じに。
オレの脳内は、完全に唯一思考で塗り潰されていた。
「お母様、めーちゃんはバトルジャンキーだから!!」
なんか、遠くの方でシルフィが叫んでる。
けど。
目の前の、御母君が次々に無詠唱で作る防壁の、向こう。
──いまだかつてない、真剣な表情で。
初めて見る、手加減抜きの攻撃魔法の形成。
親父殿。
熱いよな?
「おお、ッ、らぁぁぁぁ!」
くるり、と片足を軸に斜めに身体を回して、踵落とし。
光の防壁に弾かれるのは、見越してる。
そのまま回転の勢いで、蹴り、左裏拳、右打ち下ろし!
ここまでやっても、親父殿の集中が乱れることがない。
ホムンクルスの身体だ、大精霊の全力からは程遠い。
防壁に防がれるとはいえ。
オレの攻撃、打撃には、地脈から得た魔力が乗ってる。
……迷宮で戦った経験があるから、解る。
普通の魔物なら、防壁越しでも一撃で木っ端微塵。
親父殿の立つ床が、防壁の形にぼこり、と凹む。
球状に親父殿を覆う光の防壁の効果だ。
言うだけあって、御母君も、確かに強い。
オレの一撃で毎回割れる、とは言っても。
大精霊の攻撃を、たかが人間如きが止めるんだから!
……なんっつー、強敵!
勝ちたい!!
そんな思いが、脳裏を支配していく。
「お母様、戦闘に集中させすぎちゃ、駄目なのっ!」
「理解したわ! なんて魔力なの、防壁魔法が紙のよう!」
ああ、うるせえ。
集中の邪魔だ。
親父殿の魔法が、完成しようとしている。
目前に構えた杖の先端が、強烈に輝いて……。
オレの、目を灼く。
オレ自身の目は、しばらく使い物にならないっぽい。
……それが、どうした?
大地の大精霊を舐めんな?
代わりは、いくらでもある。
「お父様、無駄なの!」
「忙しいので、後にして下さいシルフィさん」
「駄目! めーちゃんは周辺全ての砂粒すら視界にする!」
外野が、うるさい。
そう思ってるのは、どうやら親父殿も一緒だ。
なんだ。
オレたち、似た者父娘だったんだな?
にやり。
親父殿の口元が、微かに綻んだのを観て、嬉しくなる。
じゃあ。
そろそろ、そっちの手札も見せて貰いたいな?
そう思った刹那。
それは、来た。
「──【錬金】」
「……ッ! ぶ、【分解】!?」
忘れてた!
親父殿は、オレ以外じゃ大陸唯一の錬金術士!
大地の権能なオレの全身は、精霊核。
──オレ自身すら……、親父殿の錬金術の、素材だ!?
「ガッ……、ガ、アアあぁァァァあああ!!?」
咄嗟に放った【分解】で、多少の威力は削いだ、と思う。
けど。
オレには使えない、錬金術の上位魔術──、【錬金】が。
確かに、確実な効果を発揮して。
親父殿の魔力を浴びた、オレの全身が変質してく。
変質は……、なんてこった。
黄金だ。
オレは、見る間に黄金の彫像に変わろうとしていた。
金ピカになったから、どうだ、っていうのは錬金の素人。
金元素、Auは比重が強烈に重いし、柔らかい。
同質量のオレの腕や足が、そのまま金に変わったら?
まず、元より重く柔らかくなる。
だから、自重を支えられずに崩れる。
それに、打撃しても容易く変形しちまう。
親父殿の背後に居る御母君や、シルフィにサラム。
三人が、息を呑んでる。
組成を変えて全く別の物質にしてしまう。
それが、錬金術士の本領。
オレが使う【錬成】や【分解】なんてのは、低級初歩。
これが、世界最高峰の錬金術士の技なんだ。
けど。
生憎と。
親父殿よ。
オレは、『人間じゃない』からな?
「オオオォォォォ、らぁぁぁぁ!」
ずどん。
ごおん、ごどんっ!
オレは迷わず、咄嗟に【錬金】を浴びた手足を叩き折る。
片腕、片足。
折った部分から、出血するようなことはない。
精霊核で「人間の形状を真似ていただけ」だ。
本質は、ホムンクルス。
人間らしい血肉など、最初から持ってはいない。
そして。
オレの権能は、大地に属する精霊力全てを操ること。
ここは、地下空間。
……なんだ。
全域が……、『オレの、腹の中』も同然じゃないか。
一撃で、地殻をぶち壊し、マントルまで貫く。
『オレサマ、オマエラ、マルカジリ』。
そう、考えて。
残った片腕を、振り上げた、刹那。
「めーねぇ、ごめん」
「……?」
あ。
そうだ。
片腰にウンディが、しがみついてたんだった。
……?
もしかして。
最初から今まで……、ずっと?
「…………?」
「我、三半規管、限界」
「……さんはんきかん。ええと。それは一体」
「我から出ずるモノ、全て水。故に、これは恥ではない」
「……なんか、読めたぞ。頼むから、オレの方を向くな」
急に、頭の奥が冷えて。
見下ろした先には、顔色が物凄く真っ青な、ウンディ。
……。
オチは、読めてた。
「えろえろえろえろっ、うぇろえろ、えろえろえろっ」
「だから、オレに向かって吐くなっつっただろぉ!?」
最愛の妹の立ちゲロ攻撃で。
オレはようやく、正気に戻れた。
……四肢欠損、どろどろの、ぬるぬる。
なんだこれ。
オレはなにか、ぬるぬるになる宿命でも背負ってるのか?




