表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/200

33話 オレは、魔法の才能ないんですってば

「で、奥方様?」

「あら、いやぁね? 親子なんだから名前で呼んで頂戴な」


 いや。

 名前聞いてませんけども。


「そうだわ! ホリィよ。これからずっと、よろしくね?」

「あ、どうも。よろしく……、お願いしていいんだろうか」

「あら、だって私のあの人の娘なんでしょ? じゃあ」


 そうなる必然でしょう?


 そう続けて、きょとんと見上げていたウンディを抱っこ。

 お母さん姿が様になってますよね、ホリィさん。


 ……こらっ。

 お母さんになるんだってよ、隠れんなサラム。

 はい、前に出て、ご挨拶しなさい。


「う。うー。サ、サラム。メテル姉の、妹ー」


 後ろに隠れるなと言っておるのだ。

 というか、オレのケツは隠れ場所じゃねえと言うにっ。

 頭ぐりぐりすんな、それ以上割れ目は広がらねえよっ。


「はい、サラムちゃんね? ホリィよ、よろしく」


 ウンディを軽々と抱いたまま、片手をサラムに差し出す。

 サラムもちゃんと握手返して、偉いぞっ。


 そして。

 ホリィさん、見た目より力あるよなあ?


「当然よ、わたくしもあの人と同じ、冒険者なんだから」

「……同じ?」

「知らなかったの? あの人、大陸最高ランクのSSSよ」


 そして、ホリィさんはふたつ下のSランクらしい。

 ──親父殿ぉ! 聞いてねえよ!?


 隣でシルフィも、慌てて胸の冒険者票を仕舞い込んでた。

 そうだな、鉄製、Cランク昇進したばかりだけど。

 親父殿に収入アップを提案した手前、恥ずかしいよな?


 なんだ。

 っていうことは?

 親父殿、仮に、その気になれば。

 シルフィの数百倍を軽く稼げる人だったんだなあ……。


 ──その気に、なれば。


「あはは。自分の興味があること以外したくない人だから」

「ああ。なんかそんな気はしてました」


 苦笑してみせるホリィさんに、相槌。

 街の方の自宅でも、魔法屋業と言いつつ。

 実態は日がな一日、魔法陣眺めて考え事してたし。


 今にして思えば。

 あれ、ひたすら脳内楽しかったんだろうな。

 ……仕事から逃れて、魔法開発に逃避してたんだなと。

 仕事で忙しいのかと思って気を遣ってて、損した気分だ。

 くっそー。


「ささ? 娘が四人もって知って、いろいろ用意したの」

「あ、どうも。お、お邪魔します?」


 灰色尖塔の扉を開けると、いい匂いが漂って来る。

 きゅるる、と腹が鳴ってしまい。

 ホリィさん、笑顔が超、深まる。


 貴方達の自宅なのよ。

 遠慮なんて、要らないわ?


 そう指摘されてもなお。

 なんか、物凄くお客さんな気分が抜けなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ウンディとサラムは、美味しい豪華な食事のあと。

 おねむになって、ベッドで仲良くお昼寝中。

 セバスさんが穏やかな眼差しで見守ってたから、任せた。


 オレとシルフィは、っていうと。

 ホリィさんの後について、城の中を案内して貰ってる。


 城、って言っても。

 別に、城を守る軍隊や騎士が詰めてるわけじゃない。


「わたくしとあの人の二人だけで、王国軍より強いのよ?」


 それは、兵士とか要らないですよね確かに。

 そういうわけで、この城は城塞というよりも。


「めーちゃんめーちゃん、アタシ、魔法実験したい!」

「ああそうだよなそう言うよなオマエは」

「後で実験を手伝ってねシルフィちゃん!」

「はいはいはーい、お母様!」


 魔法実験施設、的な性格が強いらしい。

 なるほど重厚な壁や分厚い扉も、外敵を防ぐってよりも。

 内部の爆発なんかを、外に漏らさないため、なのか。


 そんな、城内案内も、終盤。

 尖塔のみっつめ、黒の塔に入ると、少し意味が変わった。


「ああ。来てしまいましたか」


 ぐんにょり。

 なんか、そんな擬音が似合いそうな感じで。

 親父殿は、とても憔悴していた。


 ──執務室。

 そう書かれた扉の向こうに、ひとり、親父殿が作業中。


 ぺらぺらっ。

 ちらり。

 さらさらさらっ。

 そんな、書類整理の仕事。


 親父殿が「真面目に」仕事してるの、初めて見た。

 この光景は、前世でよく見た気がしなくもない。

 中間管理職系の疲れ方をしてらっしゃる。


 そして。

 黒壇の机に載せられた書類束が、天井に届きそうだ。

 紙をここまで正確に高く積むって、一種の芸では。

 そんな、どうでもいい感想が脳裏に浮かぶ。


「半年も城を空けて執務ほっぽった罰よ」


 そう言い放つ、ホリィさん。

 言い返しもせず、曖昧に笑う親父殿。

 なんか、場違いな気もするけど。


『おしどり夫婦』


 って単語が、脳内を駆け抜けてった。


「済みません。貴方にも教えなくては、と思ってましたが」

「誤魔化されないわよっ。楽しかったんでしょお!」

「……否定できませんね」


 ああ、もう。

 そんな顔を、向けないで欲しい。

 苦笑でもなく、爆笑でもなく。

 慈愛の籠もった眼差しと、親愛の笑顔。


 ああ、そうさ。

 オレも、ほんとの父娘みたいで、楽しく思ってたさっ。

 その上、母親まで出来ちゃって。

 これが嬉しくないわけが、あるかっ。


 ──ただ。

 問題は。

 ……とてつもなく頭脳明晰な、親父殿が。

 なんで、奥方様なホリィさんに。

 ──オレたちの存在を、隠蔽してたのか?


 その、理由は。

 わりと、すぐに理解した。


「あのですね、ホリィさん? メテルさんたちは本当に」

「解るわよ、才能を過信して超存在と思い込んだのよねえ」


 ……ああ。なるほどなー。

 ホリィさん、すっごくいい人、なんだけど。


「ですから、何度も説明した通り、人間ではなく」

「ホムンクルスなんて、夢物語をまだ言ってるの?」


 人の話を、全然聞いてくれない人なのかー。

 善意全開なだけに、どうにも噛み合わない。


 親父殿が本気で困り果ててるの、久しぶりに見た。

 サラムがお気に入りのおもちゃ壊れて泣いたとき以来だ。


 ……あれはマジで大変だったんだよなあ(遠い目。


「とにかく! 現実を知るべきだわ」

「いえ、ほんとに危険なんですよ。……ホリィ?」

「うっ!? そ、そんな真剣な眼差しで見てもだめよっ」


 親父殿の真剣な顔に弱いのか、ホリィさん。

 めっちゃ、めろめろですやん。

 なんて微笑ましくシルフィと、イチャつきを眺めてたら。


「では! メテルさん、白の賢者と呼ばれたわたくしと」

「……え、オレ?」


 矛先が、急にこっちに来て慌てる。

 な、何ですかね?


「魔法で勝負して下さいな!」


 ……えー?

 えええー?

 ですから。

 何度も言いますけど。


 ──オレ、魔法、ほぼ使えないんですけどー?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

──少しでも面白いと思ったらっ。評価ボタンを押して頂けますと、感謝感激でございますっ。──


小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ