32話 灰色の尖塔城
500ポイント超えましたぁ!
うわぁ、うわぁ……、マジかよっ!? 的な。
今後もひたすらほのぼの感全力で続きまーっす、よろしくです。
「うっわ。黒くておっきぃよ、めーちゃん」
「別のもんを連想させる、変な喩えはよせ」
と、たしなめたものの。
確かに次女の言う通り。
殆ど揺れない上質な馬車の窓から、見えて来た光景は。
さほど高さはない。
けども、見るからに怪しげな。
白、黒、灰色に塗られた、三本の尖塔を備えた、平城?
特に、最も直径のある中央の尖塔は、城を貫いている。
というか。
中央の灰尖塔を中心に、三角形に配置されているのか。
周囲を囲む城壁も、三角形配置。
左右の尖塔は、白と黒。
白と黒を足したから、中央が灰色、って意味なのか?
それにしても。
門塀から建物から、ある意味、統一はされている。
でも。
黒、白、灰色の三色で固められた色彩は、なんか。
「うわわわわ、地味ぃ……」
「ほっほっほ。奥方様のご意向ですので、中ではよろしく」
はーい。
全員お口にチャック。
……チャックってこの世界、実用化してるんだろうか。
それはともかく。
……。
いま、なんか?
聞き捨てならないこと言いましたね、セバスさん?
「えっ、えっえっと? お父様の、奥方様?」
良い質問だ、シルフィ。
それはオレも聞きたかった。
「はい。つまり、皆様のお母上と成られる御方ですな」
にっこにこ。
広い馬車の、御者台に背を向けた椅子に座るセバスさん。
両膝には、ウチの可愛い天使たち。
──君ら、懐き過ぎじゃないのかね?
満更でもない様子で、妹たちが抱きつくに任せてる余裕。
うむ。
紛うことなき、好々爺だこの人。
って。
「んー? その場合、オレらの立場って、どういうことに」
「当初は奥方様も『他所の女性の存在』を疑われまして」
「昼ドラどろどろ全開やん!」
おっと。
昼ドラがセバスさんに通じなかった。
というか、オレ以外みんなきょとんと。
こほんっ。
「ということは。これから、修羅場でしょうか?」
言い直したら、なんか物凄い敬語になってしまった。
いや。
もしも、そういう昼ドラ話展開になったとしてだよ?
オレら四姉妹と、奥方様とやらが戦闘になったら。
──この大陸、焦土化した上に海中に没するかも?
これは冗談でも何でもなく、だな。
ほんとの本気で手加減出来ないんだよ、オレたち。
「いえいえ、まさか」
苦笑するセバスさん、額に流れた汗を、拭いながら。
「お館様の半年に渡る説得が、功を奏しましてな」
「っていうか。親父殿って、貴族なのになんで魔法屋を?」
「あ。それは、長い話なのですが」
済みませんね、別の話題の最中なのに。
浮かんだ疑問は即座に訊かずには居られないタチでして。
「書類仕事がイヤで逃げ出し街に潜伏しておられまして」
「長くないよ!?」
一文の一言で説明が終わってますよ!?
「街の民衆がとてつもなくお館様に協力的でして」
「そういえば。街の人達、全員親父殿知ってる風だった」
「本人、魔法の研究以外何もしたくないと常々」
「ダメ親父なんじゃないでしょうか、それ」
「しかし魔法知識と魔術技量に於いては並ぶ者なく」
なんか、だんだん愚痴っぽくなってますよセバスさん。
……このパターンは。
親父殿と奥方様? の無理無茶難題を聞き続けてきた?
なんというか。
雇い主の意向に逆らえない、苦労を一身に背負う執事。
あ。
セバスさんの背中が、煤けている。
ううむ。
では仕方がない。
ほら、ウチの可愛い妹たちっ。
おじーちゃんに、目いっぱい甘えておあげなさいっ。
と。
そんな小芝居をしながら、馬車は正門をくぐって中庭へ。
そこから更に、複雑な経路の森を抜けていく。
森というか、これは庭園なのか?
多種大量の薬草や木が、種類ごとに分けて植えられてる。
よく見たら、配置が魔法陣になってるっぽい。
「あっあっあっ。これ結界だよ、めーちゃん」
「そうなのか? オレには分からないな」
「めーちゃん、出力ありすぎるから粉砕しちゃうもんね」
「……? なんか、直した方がいいのか?」
余計カオスになるから、何もするな。
苦笑した次女が、無言でそのような表情を。
……しくしく。
どうせ、オレは脳筋だよっ。
「お。見えて参りましたな。あちらが本館となります」
片手で示された先。
そこには、灰色屋根の少し小ぢんまりとした洋館がある。
その入口は真っ赤な扉があり。
そこに。
女性がひとり、こちらに笑顔を向けて、待っていた。
「やぁっと来たわねぇっ、わたくしの可愛い娘たちっ!」
……。
ううむ。
察するに、これが奥方様。
親父殿の、嫁さん。
つまり、ええと。
──オレらの、母上様? って御方か。
……。
…………。
若すぎねぇ!?
「いやぁね、まだ当年取って57歳よ?」
「みみみみっ、見えなぁい!?」
シルフィの驚きは、ごもっとも。
純白のローブに身を包んだ、その痩身の女性。
オレどころか、16歳のシルフィと同い年にすら見える。
「奥方様は、白の賢者。ご自身の時間を止めておいでです」
「白の?」
「生命魔術に特化されておられまして」
「あれ。じゃ、黒の賢者って、もしかして」
「はい。お館様でございますな」
「そうよ。だから、この城は黒白尖塔城なの」
どうだっ。
そんな感じの台詞をバックに背負った奥方様。
満面の、笑顔。
なんだか。
見るからに、『ぱわふる』を絵に書いた女性だった。