03話 出会い
《ちょっとちょっと、ねえねえ! 聞こえてるんでしょ?》
『……は?』
唐突に、脳裏に声が響いた。
姿形も、見えはしない。
幽霊? と考えたが、自分だって幽霊みたいなもの。
……では?
『え? 何、オレと同じようなもんが、居るの?』
《ほら、やっぱり居たぁ!! ねえねえ、お話しよ!?》
興奮しきった、声。
生まれて初めて、明確に、自身に向けられた声。
高揚感を覚えたのは、岩も同じ。
その申し出は、願ってもない。
やがて、岩は。
──自身の周囲を渦巻く風威が、声の主と気づいた。
これが、風の大精霊との初めての接触、出会いだった。
風は、自称通り、風威に宿った精霊だった。
精霊、という呼称も自称だ。
だが。
自分も含め意識体を表す言葉として、最適だと思う。
風は、更に話を続けた。
風はその自称の通り、全世界を巡って旅をしていた。
そうして、岩は風の見聞録を聞き、楽しんだ。
その中に、興味深い話があった。
『四大精霊?』
《そうっ。アタシ、世界を巡って、見つけたんだぁ!》
くるくる、くるくる。
周囲の砂塵や千切れた草を巻き上げて、忙しなく動く風。
間違いなく女の子人格だろう、これは。
大人の男性としての人格を持つ岩は、苦笑するしかない。
『オレらと似たような性質の意識が、他にも居るって?』
《そうなのよー。でっかい火山島に、あと二柱いるのー》
『へー? それで四大精霊か。なるほどなあ』
《なるほどなー、って。貴方も当事者よ?》
『……は?』
風の話をまとめると、こうだった。
「強烈無比な力場を形成した意識体」を世界中、探した。
結果、風自身の他に、三体が見つかった。
ひとつは、北の大地に存在する大岩、つまり自分。
大陸の東端にある火山島に、更にふたつ。
火山と、島と隣接するカルデラ湖にひとつずつ。
それぞれ、宿った属性が異なるようなのだ。
《アタシは風でしょ? 貴方は大地で、あと火と水!》
『んー? オレはそんな自覚ねえけど……?』
《そんなこと、どうでもいいのよ! 呼びやすいじゃない》
言われてみれば、確かに。
これまでは自分ひとりで周囲を観察するだけだった。
だが。
他人と話をするなら、それぞれの呼称は必要だろう。
四大精霊だとか大精霊だとか、盛りすぎな気はするが。
『はあ。……まあ、誰か困るわけでもねえし。いいか?』
《決まりね! 他の二柱にも、伝えてくるねー!!》
ごぉうっ!
岩の全身を暴風が吹き抜ける。
どうやら、風の精霊が、移動したようだ。
岩……、いや、今や地の大精霊は、その場に残された。
そして。
ひとつ、疑問が浮かぶ。
『……いや、おい。オレはどうやって他と連絡するんだよ』
答える者は、既になく。
深々と、ため息。
しかし。
他者と話が出来る。
それだけで、これまでの日常と違う世界が拓ける。
そう思うだけで、《地の大精霊》は興奮が満ちていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
《ごごご、ごめんっ。アタシ以外、楽しくないよね……》
『いや、こうして話出来るだけでオレは満足だぜ?』
風が舞い戻って来たのは、人間の尺度で約二百年後。
火山地帯にいる二柱は年下で、可愛かったらしい。
話が弾みすぎて、気がついたらそれくらい経っていたと。
──お互い、数千年だか数万年だか過ごした身である。
時間経過の感覚にとてつもなく鈍いのは、お互い様。
むしろそれくらいの年月経過で済んだのが、奇跡では。
そう、思わなくもなかった。
《あっ、でもねでもね、あっちも話したいって!》
『──へえ? でも、風と違ってオレ動けねえし』
《うんー。水ちゃんも火ちゃんも動けないのよねー》
くねくねと、風が器用に身を捩らせる。
最近は砂を巻き上げて、感情表現するようになっていた。
見た目で分かりやすいが、周囲の動植物は迷惑だろう。
『んー。地脈を通じて、近くまでは観れたんだけどな』
《あっ、それ! そうよ、『導線』はあるんだから》
『なんか、思いついたか?』
世界を見聞している風だ。
四大精霊の中で、最も知識と知恵があるのも風だろう。
精霊の力を最も上手く使うのも、風だ。
風は、元々はどこか別世界を生きた亜人だったらしい。
それは、他の水、火も同様。
どうやら、元が人間なのは自分だけか、と大地は思う。
異世界転生したために、そうなったのかもしれない。
……何故、全員が別々の異世界から集まったのか。
それ自体が謎だが、今現在は、関係のないことだ。
それはともかく。
《すっっっっ……ごい力技だけど!》
『……なんだそれ(笑)』
風の思いつきは、とてつもなく奇妙で、突拍子もない。
故に、大地は笑うしか出来なかった。
……だが。
実現性は、確実だと思った。