29話 妹がまたやらかしてんですけど
400ポイント超えてましたっ。
ご愛顧ありがとーございまーっす!
「あーん、めーちゃぁぁぁん! 怖かったよぉぅぉぅ!」
「……言うことは、それだけか?」
目を逸らすんじゃねえよ、コラ。
ようやく竜巻の中心部に到達した、オレたち。
次からミルク撹拌した料理食べるときは感謝を捧げよう。
そんな気持ちを持つくらいには、撹拌作業を堪能した。
──感謝を捧げる相手は、間違ってもコイツではない。
「えとえと、えーと。……お疲れ様?」
「全部、お前の、せいなんだよ、バカたれがぁ!」
「あっ、アイアンクローはらめぇ!? 白い汁が口にぃ!」
ぎりぎり、みしみしっ。
…小芝居をやってる間も、隣に寝かされた鎧は動かない。
さすがに、心配になって、同行者を振り返る。
「レイドさん……、具合、どうだ?」
「私の身体が必要って、そういう意味で。ふぅぅん……」
なんでスネてんだよ?
僧侶って治癒本職なんだろ?
本望だろ、この状況。
……なんか、殺気と羞恥が入り混じった鋭い視線が来た。
えええ?
な、なんか、ごめんね?
「魔力欠乏の末の気絶っ! 頭の傷は、今から癒やします」
「軽傷かー、良かったぜ、オレらじゃ診断出来ねえからな」
ほっ。
ひとまずは、安堵の息。
必死でアイアンクローから逃れたシルフィも安心してる。
……どうやって逃げたんだよお前。
ぬるぬるの体液で滑りを良くして?
くそぅ、全身隅々まで染み通ってるからな。
デリケートな部分まで濡れて、正直触感が気持ち悪い。
帰ったら洗濯物と風呂、ぜったい付き合わせてやるっ。
本革の汚れは、洗うのめちゃくちゃ大変なんだぞ。
これだけ滑りが良かったら、別の用途に使えるかも?
知るかそんなもん。
何故、顔を赤らめる?
持ち帰るなら自分でやれ、オレはもう触りたくねえ。
で。
鎧の上からの触診だから確定ではないっ、なんて。
ラスティが神妙に告げるけども。
ラスティの手慣れた手付きや態度が、安心させてくれる。
「《地霊の力》《愛の輝き》《癒やし》、【治癒】!」
おお。
さすが本職の治癒!
岩の上に無造作に寝かされたレイドさん。
ラスティのかざした掌から、魔法の光が体を照らす。
すると全身が薄緑色に光って、きらきらと輝いている。
すげえな、これが治癒魔法かー。
……ほんとに、オレから力を持ってって発動するんだな。
全体量からするとコンマゼロゼロ……パーセントだけど。
確かに、ラスティが魔法を使うたびに力が移動している。
原理? 知らんがな。
むしろ、人間が精霊魔法を使える事実にびっくりだよ。
と。
その術を行使したラスティが、なんか驚いてる?
「こ、これは……」
「いや、さすが本職。人間って、魔法をこう使うんだなあ」
「え、いえ、その、申し上げ難くありますが」
「……え? ま、まさか……、失敗?」
妙に口籠るラスティに告げると、違う、と首を振る。
じゃあ、なんだ?
「効きすぎ、と言いますか。通常の反応ではないのです」
「んん? なんでだ? レイドさん、別に普通の人間……」
視界の端で、さり気なく後ずさった元凶の頭を掴む。
「いたぁぁぁぁい! めーちゃん、痛いよぉぉぉ!!」
「コラ。なんかやらかしただろ、お前」
「してない! アタシ、めーちゃんに許可取ったし!!」
……?
オレに、許可?
最初に連絡したとき、なんて言ったっけ?
「忘れてるー! 魔力空っぽだから、分けていいかって!」
「……あ。言った。確かに」
「もぅっ! 頭の形、変わっちゃったらどうすんのっ!!」
多少変わっても、お前の可愛さは変わらんが。
それはともかく。
ううむ?
それが原因なのかな?
相変わらず。
顔面を布でぐるぐる巻きのまま、寝てるレイドさん。
精霊の魔力って、超絶に濃縮圧縮された魔力らしいが。
人間に分けて、いいものなんだろうか。
「って。今気づいたけど。レイドさん、体が」
「……はい。気のせいかと思っていたのですが」
そうだ。
オレとラスティは、困惑顔を見合わせる。
ごうごうと鳴り響く周囲の竜巻の音が、妙に耳に響く。
体を覆う金属鎧は、ギルドで会ったときそのまま。
でも。
布で巻かれた頭部や、剥き身の腕が。
なんか……、小さくなってない?
「お、シルフィちゃん、無事か!? ぷっ、なんだこりゃ」
「あ、まだ起きない方が!」
唐突に意識を取り戻したらしいレイドさん。
跳ね起きるようにして、同時に顔面を覆う布を取った。
……。
「おい」
「え、アタシのせいじゃないし」
「どう考えてもお前のせいだろ。どうすんだよこれ」
シルフィとお互いに、少し距離を取りつつ。
「なんだ、ラスティじゃねえか! セラやマークは?」
「出会えませんで、別の方と参りました。体に異常は?」
「いや、何もねえが。……そうだな、妙に体が軽いな?」
どうも、ラスティともお知り合いだったらしい。
そのラスティは、驚愕を顔に浮かべっぱなし。
そうだよなあ。
普通の人間なら、そうなるよな。
「なんだよ、俺の顔に、なんかついてんのか?」
「ついているというか……、貴方、自覚、ありませんの?」
じっと自分を見つめ続けるラスティに、レイドさんが。
ラスティも、説明が欲しいのはこっちだ、みたいな。
……そして。
二人して、オレたちに注目が移る。
「あの「何がどうなってるのか説明して」くれねえか?」
……。
端的に、事実のみを言おう。
「ええと。何でかオレは知らないんだけど。姿が変わって」
そう。
オレの目の前にいるのは。
どう見ても十五歳前後の容姿な、少年冒険者だった。
ただ。
レイドさんの特徴、頬や全身の傷は、そのままに。
「あのねあのね。レイドさん……、超、若返ってるの!」
驚いたレイドさんが、ぺたぺたと体中を触ってる。
どんな魔法なんだよ、これ。
奥さんやお子さんに、なんて説明したらいいんだ。




