24話 正体バレしちゃったよ
「あ、そこの精霊様?」
「え、オレ?」
……。
…………!?
やっ、やっちまった!
思わず空気が凍る、朝の往来。
迷宮の入り口から離れて、川沿いに少し離れた小道。
この先をずっと西に歩けば、橋を渡って街に戻れる。
そんな、辺鄙で人通りの少ない町外れ、だった。
行き合った僧侶風の女の子が、声掛けて来るもんだから。
普通に答えてしまったけども。
──自分で正体バラしてどうするオレ!?
「やはり精霊様でしたのね。漸く拝謁出来ましたわ」
「ちょっ、待っ、オレごく普通の一般人だから!」
頼むから拝むな!
跪くな!
ていうか、なんで精霊だと思ったんだよ!?
「精霊殿に仕える司祭ですのよ? 間違えませんわ」
「精霊殿?」
「はい。地水火風の霊を祀る四大霊殿、私は地の者です」
……。
ええと、そういえば。
確かに、シルフィもオレも、ときどき声掛けとかしてた。
猿っぽいのと人間っぽいのが大戦争してたときとか。
あのときは猿優勢だったんで結構全力で人間に加勢した。
その後。
その後って、どうしたっけ?
シルフィに任せてオレは妹たちと遊びまくってた気が。
「精霊の島から去られたと聞き及び、探しましたのよ?」
……。
ああ、確かに。
親父殿に身体を貰ってすぐ、街に来たわけじゃない。
主にシルフィとウンディが、人間の情報集めてた。
それに。
妹たちにどれくらいオレの精霊核分けるか、って話。
身長と体型に関係あるからって、結構揉めたんだよな。
なんか、シルフィが自分とオレの造形を天秤に掛けてた。
そうか、島の外から見たら。
大精霊が、全員消えたみたいに見えてたんだな。
「精霊様で、間違いございませんわよね?」
「……なんで分かった?」
「それはもう、魔力の波動が。濃縮されすぎておられます」
「シルフィも、隠すだけ無駄、って言ってたっけ……」
魔力の扱いに不得手なオレだ。
それは精霊の力、つまり超絶の濃縮魔力も同じ。
だから、日頃からそれを隠しておけるはずがない。
つまり。
オレの魔力は、普段から放出されまくり。
主に、地脈を活性化する用にしか使ってないけどさ。
いや。
どばどば放出すると、あらゆる植物が全部生育するので。
ほっとくと、この街も森に沈むことになっちゃうから。
地脈をちょいと操作して、農家の畑の下に這わせてある。
──オレが街に来て以来、周辺の農家はきっと大助かり。
というか。
オレ、ぶっちゃけそれ以外の使い道、ほぼ知らないし。
「差し支えなければ、属性をお伺いしても?」
「大地だよ。いいか、内緒だからな?」
しぶしぶ、オレは正体を晒すことにする。
満面の笑顔でこっくり頷く女の子の司祭ちゃん。
ほんとに分かってんだろうな?
「徒に騒ぎ立てを好まぬ奥ゆかしき地霊様、尊敬致します」
「……あー、そういうのいいんで。間に合ってます」
想定外の信者遭遇だったけど。
別に信仰の強さを試すとか試練与えるとか。
そういうネタは、特にやる気がないので。
オレは、そのまま片手を上げて、踵を返す。
と。
「……なんでついて来るし?」
「地霊様の往かれるところ、地霊司祭の影ありですわ?」
「地霊様ってやめてくんない? オレはメテル」
「地霊様の御尊名を、私、司祭ラスティがお呼びしても?」
いいに決まってるっていうか。
地霊とか呼ばれたら、バレるでしょーがっ。
オレは静かに暮らしたいのっ。
「メテル様の御心のままに」
「……普通に喋ってくれないかなあ……」
司祭的に、それは無理らしい。
ちょっと困ってたので、それはオレも諦めた。
って、そうじゃなく。
オレはこれから、大事な用事があってですね?
「差し支えなければ、どのようなご用事で?」
「ん? いや、『裏口』を掘ろうかと」
「──う、裏口? でございますか?」
割とぐいぐい来るラスティ司祭だったけど。
オレがやろうとしてることは、それなりに非常識っぽい。
まあ。
オレも、そうなんじゃないかなあ、とは思ってた。
でも。
「オレが、何を司る精霊か知ってんだろ?」
「……豊穣と大地、母性と美の大精霊様!」
「誰だそんな教義考えた奴。責任者呼んで来い」
誰が母性愛だコラ。
オレは前世は男だったんだっての。
でも。
大地を司るオレだから。
──『地中に埋まってる迷宮の裏口』掘るなんざ。
ちょちょいのちょいっ、あらさっさ、であるっ!!
……。
…………。
「掘れましたわね?」
「まさか三十分も掛かるとわ。どんだけ硬いんだこの迷宮」
ちょっと泥まみれになったが。
と、とにかく。
掘れた。
破砕工法とかではない、ので。
逆側の入口の門番さんには、気づかれてないはず。
では、往くぜっ!
「お供致しますわ!」
頼んでないんだけど、おまけつきで!