20話 長女の立つ瀬はどこでせう
「ったく、見てられねえったらよ」
「お、お世話になりますー」
苦笑を浮かべる男の子に、全力で頭を下げる。
先客の冒険者さんに、武器の扱い教授を頼み込んだのだ。
……教えてくれるはずだったセラさんは、というと。
「わたくしが連れて来て廃棄品修繕の目処立ったんだから」
「そうは言うが、相手は斜向かいのご近所じゃぞ?」
「冒険者の収入を冒険者ギルドが仲介料取る、普通でしょ」
「冒険とは関係ない収入じゃろうが」
──何やら、激しくムギリさんと交渉中の模様。
というか。
目的として、そっちがメインだったのでは?
そして、オレの意志って。
ムギリさん相手ならご近所さんだから無償でいいんだが。
「ハハ、セラががめついのはいつものことだ、気にすんな」
「そ、そうなんですか。……冒険者ギルドって経営が?」
素朴な疑問に、冒険者さんが軽くため息をついた。
「そういうわけじゃねえが、出来高制だからなあ」
「ええと。仕事が少ない?」
「周辺地域の安全が確立されてるからな。あ、俺はマーク」
「オレはメテルです。よろしくお願いしますっ!」
全力で頭下げたら。
なんか、困ったときはお互い様だ、と笑顔返してくれた。
マークさん、超優しい!
で。
ふむふむ。
マークさんのお話によると。
ここ、辺境都市、なのはそうなんだけど。
周辺の魔物は、国境軍が定期訓練で駆逐してる。
だから、街に壁がないのは、作る必要がないから。
ので。
他所の都市なら魔物対策で冒険者が常在してる、けども。
この街の場合。
魔物が少なくて素材が獲れないから、冒険者数が少ない。
確かに。
ギルドにあった依頼票、同じ素材依頼ばかりだった。
あれは、同じ種類の……、危険度が低い魔物が対象かな?
一応、無限に魔物が湧く迷宮も近在する、けども。
迷宮の魔物もそこまで強くないし、売っても安いから。
街在住の冒険者で固まってて、他所から来ない、って。
と、いうか。
他所から移住して来ても、儲からないからすぐ出ていく。
そんな感じで、街の業務で冒険者が固定されてるそうな。
「セラもギルド受付嬢だが、現役冒険者でもあるしな」
「え。せ、世知辛いですねえ?」
「そりゃ、俺らも生活賭かってるから」
「もしかして、オレが会った冒険者さんって副業が?」
「セラに話したんなら、案内されたのは俺のパーティだな」
へええ。
驚きの、情報。
ええと。
既に会ってる冒険者の人って。
レイドさん。前衛、盾職。Cランク。副業は下水掃除。
セラさん。後衛、魔道士。Aランク。副業はギルド受付嬢。
コルトさん。中衛、武闘家。Bランク。副業は服飾屋。
マークさん。前衛、戦士。副業で今、新武器の試験中。
全員、パーティ結成して五年超のベテラン冒険者。
なので。
「だからな? この街で冒険者になる、ってことは」
「つまり、マークさんたちと一緒に行く、とか?」
「単独で初心冒険者を放り出せるわけないだろ」
うひゃあ。
知らなかった。
て、ことは。
朝から冒険依頼で不在のウチの次女、シルフィの場合。
「後衛だろ? うちのレイドとコルトがついてったってよ」
なるほどなるほどっ。
うわあ、知らないうちに超お世話になってた。
「大先輩……、だったんですね! 尊敬します!」
「嫌味言うなよ。見てただろ、俺が失敗するところ」
「えええ、いや、とんでもないです、ベテランでしょ」
「そう言ってくれると、少しは慰みになるがな」
きらりと歯を見せて笑うマークさん、かっこいい。
オレより年下っぽいのに、いろいろ出来て凄い。
とか思ってさり気なく年齢訊いたら、24歳だって。
……やべえ、年上だった。
童顔にも程があるですよマークさんっ。
声も妙にかん高いし、細身で筋肉量少なそうだし。
どこからどう見ても少年……、げふんげふん。
絶対に本人には直言できないな、これ。
そして。
「まあ、あのおちびちゃんと比較したら、誰でも霞むさ」
すいっ。
マークさんがあごで示した、先。
そこには、短槍を縦横無尽に振るう、ウチの天使が居た。
超速の振りから繰り出される、凄まじい攻撃力。
まさに、熟達の練度。
……短槍受け取ってから、三十分経ってないよね?
そろそろ、やめたげて?
的になってる木人のHPは、もうゼロよっ!?
「コツを教えると、吸収応用が速い天才っているんだが」
「……」
「いや、まさかあんな子供がなあ? 対抗心も失せたよ」
「…………」
「槍の持ち方と、基本攻撃を教えただけなんだぜ、あれ」
苦笑するしかない、みたいなマークさんの目が優しい。
ううっ。
いい人だなあ、ほんとに。
そして。
「なんでそんなに何でも達人級なんだ、我が妹らよ……」
オレの出来の悪さが際立つから。
そこら辺で勘弁してくれ、サラムよ。
オレ、未だに使用武器、決まってないのにっ。




