198話 懐かしの抱擁……、なんてしてたまるか
シルフィが来た、これで勝つる!
……なんてわけでもなく。
なんでかって。
シルフィ、魔法の達人ではあるけども。
──肉弾戦、からっきし。
ガチ後衛なんだよね。
なので。
ずどん!
「おや? 真似されましたかね」
「バーチ○ファイターの○キラが確かこんな感じで!?」
「……アレは八極拳とは似ても似つかないばったもんです」
物凄く不快そうな先輩。
えええ、裡門頂肘って、こうでしょ?
→→P。
中腰で、折り曲げた肘を突き出して突進!
どうやって前に水平移動するかって。
謎エネルギーで!
「そんな単発技、食らうバカが居るわけもなく……」
軽く躱してオレの横に回った先輩。
あっ、おやめになって?
腕取っちゃダメん、関節技、痛いです!
《リル、なんとかしろ!》
《何とかってどうすんのよ!? えっと、障壁!!》
なんかL字っぽい変な形にされたオレの腕の。
周辺から、リルの液体金属が槍衾になって突き出る!
……自分で指示しといて、何だが。
気持ち悪いぞ、リル!
《じゃあアンタが何とかしてみなさいよ!?》
《オレが敵う相手じゃねえよ、アレ!》
《マスター? 加速魔法に使った魔力が、吸われています》
《ほんとにブラックホールなんだな先輩!?》
ハンデつけてくれてるのは、確かだけど。
権能として、周囲の魔力吸い込むのはそのままっぽい。
よく見れば。
先輩の立つ場所を中心に。
濃密な魔力が、渦を巻いている。
ええと。
八極拳って、近接打撃の技は豊富だけど。
距離を取ったら、急に技が少なくなるんだよね確か。
漫画の拳○で、そんなこと言ってた。
よし。
じゃあ、オレ、この距離を維持して。
……。
オレも近接打撃技以外、持ってねえよ!?
助けてシルえもーん!?
「ああもぅもぅ、何この力場? 精霊力が編みづらい!」
オレの背後に控えたシルフィ。
それでも、薄緑に光る風精の束が。
極大のビーム砲みたいな勢いで、オレの背後から。
ぶわぁぁぁぁん!!
「って、オレごと巻き添えかよぉ!?」
「めーめーめーちゃんなら大丈夫、精霊魔法だから!」
変なとこにアクセントつけるなよ。
オレ、なんか紙食べなきゃいけない気がして。
お。
黒魔法は全般的に、魔力吸われるっぽいけど。
さすがに?
精霊魔法は、対象外なのか。
先輩。
初めて、大きく飛び退って精霊魔法を回避。
お、これはイケるかも?
この隙を逃す、オレじゃありませんとも。
「リル、槍!」
《人使い荒いのよ、アンタ!》
《マスター、加速魔法、効力50%減です》
人間を遥かに超えるレベルの、ティーマの加速魔法。
効力半分でも?
今のオレの突進は、時速数百キロに迫る。
そして。
リルが変形した、ミスリルの槍。
距離を取ったまま、突進で仕留めるに最適っ。
と、思ったのに。
しゅるり、と槍を脇と腕の間を通した先輩。
そのまま?
オレの突進を、槍を握るだけで止めてしまった。
──。
「ず、ずるい! 人間並みの力のみって言ったのに!?」
「人間も鍛えればこれくらいは。──たぶん、きっと」
「百キロ超えるオレの突進、止められるわけないでしょ!」
「ずいぶん重い……、おっと、女性に失礼でした」
ぐいぃぃ。
槍を背中に回した先輩。
そのまま。
オレを、槍ごと持ち上げやがってんですけどぉ!?
「どわぁ!? リル、戻れ!?」
《言われなくても!》
《……槍を変形させるとか、やりようはあったのでは》
今言うなよ、ティーマ!?
ええい、攻守交代!
ティーマ、なんか適当に頑張れ!
……って。
あれ?
ここ、空中だよな。
魔力の床があるから、オレ、立ててるけど。
──地上から、切り離されてるのに。
なんでオレ、地の権能が使えるんだ?
「そろそろかな? 『大地の神力』、堪能しましたか?」
「へ?」
「めっ、めーちゃん!? 身体、おかしいよぅ!?」
オレの身体を作ったお前が、おかしいとか言うなし。
……って。
そういう意味ではなく。
ふと。
全身を見下ろす。
……なんじゃ、こりゃ?
体中が。
金色に、光ってる?
「やっとですか。苦労しましたよ、精霊力を浪費させるの」
「浪費? って。なんですかね」
「最初に言ったでしょう? 神と精霊が融合していると」
あの。
頭の悪いオレに、解るようにお願いします。
で。
先輩の、説明によれば。
空中に来たオレ。
普段と違って。
地上と切り離されてるので?
当然ながら。
使う地の精霊力は、体内に蓄積された分のみ。
そして。
オレ自身は、あんまり自覚がないんだけど。
地の権能を使うときに?
無意識的に、大地母神の神の力を使ってるんだとか。
「眼力や錬金術もそうですよ。これも回収しときましょう」
「ひゃっ? きゃぁん!?」
シルフィの方に片手の手のひらを伸ばした先輩。
と。
シルフィの身体から?
青みがかった、粉のような粒々が引き出される。
それはさらりと空中を飛んで、先輩の身体へ。
「何故女性の身体に成形したかって。私の指図ですよ」
「アンタのせいかー!? オレの息子ー!?!?」
女性の方がいろいろ便利でいいでしょう?
って。
軽く身体の前で腕を振った先輩。
瞬時に、女性の姿に。
アンタ、自分の性別も自由自在かい!?
ほんとにほんとに、ほんとのほんとで。
……神様なんだな、この魔王。
「さて、大詰めですね。起きて下さいよ……、我が妻よ」
どくんっ!
え、何、何なの?
オレの身体の……。
動いてないはずの、心臓が。
どくんっ、どく、どく、どくどくどく……。
脈動が、感じられる。
それと、同時に。
「きゃんっ!? なんで急に外に出すのよアンタ!?」
「ぼ、ボクじゃない……。ぼく? おれ?」
ボクの身体から、弾き出されたリルが。
全裸で、傍らに尻もちをついている。
《マスター……、マスター? 誰ですか、貴方は?》
誰って。
ボクは。
ぼく?
オレ?
……自分は、誰なんだ?
「おかえりなさい、我が妻、大地母神デメテル」
会いたかった声が響く。
手を広げて、軽く微笑むあの人。
懐かしさが、全身に満ちる。
ああ。
ボク、帰って来ました。
その愛しい腕の中へ。
さあ、今……。
《って、ちょっと待てやごるぁ!?》
数千万年ぶりの、抱擁。
しようとした、ボクの両腕が。
なぜか?
『彼』の両肩に手を伸ばして、突っ張って。
全力で。
抱擁を、拒んでいた。
《オレの身体、乗っ取られましたのことー!?》
そうなのだ。
ボクの、身体の中には。
まだ、ちゃんと居るんだよね。
ノーム。
地の大精霊が。




