表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/200

198話 懐かしの抱擁……、なんてしてたまるか

 シルフィが来た、これで勝つる!

 ……なんてわけでもなく。


 なんでかって。

 シルフィ、魔法の達人ではあるけども。

 ──肉弾戦、からっきし。

 ガチ後衛なんだよね。

 なので。


 ずどん!


「おや? 真似されましたかね」

「バーチ○ファイターの○キラが確かこんな感じで!?」

「……アレは八極拳とは似ても似つかないばったもんです」


 物凄く不快そうな先輩。

 えええ、裡門頂肘って、こうでしょ?

 →→P。


 中腰で、折り曲げた肘を突き出して突進!

 どうやって前に水平移動するかって。

 謎エネルギーで!


「そんな単発技、食らうバカが居るわけもなく……」


 軽く躱してオレの横に回った先輩。

 あっ、おやめになって?

 腕取っちゃダメん、関節技、痛いです!


《リル、なんとかしろ!》

《何とかってどうすんのよ!? えっと、障壁!!》


 なんかL字っぽい変な形にされたオレの腕の。

 周辺から、リルの液体金属が槍衾になって突き出る!

 ……自分で指示しといて、何だが。

 気持ち悪いぞ、リル!


《じゃあアンタが何とかしてみなさいよ!?》

《オレが敵う相手じゃねえよ、アレ!》

《マスター? 加速魔法に使った魔力が、吸われています》

《ほんとにブラックホールなんだな先輩!?》


 ハンデつけてくれてるのは、確かだけど。

 権能として、周囲の魔力吸い込むのはそのままっぽい。


 よく見れば。

 先輩の立つ場所を中心に。

 濃密な魔力が、渦を巻いている。


 ええと。

 八極拳って、近接打撃の技は豊富だけど。

 距離を取ったら、急に技が少なくなるんだよね確か。

 漫画の拳○で、そんなこと言ってた。


 よし。

 じゃあ、オレ、この距離を維持して。


 ……。

 オレも近接打撃技以外、持ってねえよ!?

 助けてシルえもーん!?


「ああもぅもぅ、何この力場? 精霊力が編みづらい!」


 オレの背後に控えたシルフィ。

 それでも、薄緑に光る風精の束が。

 極大のビーム砲みたいな勢いで、オレの背後から。


 ぶわぁぁぁぁん!!


「って、オレごと巻き添えかよぉ!?」

「めーめーめーちゃんなら大丈夫、精霊魔法だから!」


 変なとこにアクセントつけるなよ。

 オレ、なんか紙食べなきゃいけない気がして。


 お。

 黒魔法は全般的に、魔力吸われるっぽいけど。

 さすがに?

 精霊魔法は、対象外なのか。


 先輩。

 初めて、大きく飛び退って精霊魔法を回避。

 お、これはイケるかも?

 この隙を逃す、オレじゃありませんとも。


「リル、槍!」

《人使い荒いのよ、アンタ!》

《マスター、加速魔法、効力50%減です》


 人間を遥かに超えるレベルの、ティーマの加速魔法。

 効力半分でも?

 今のオレの突進は、時速数百キロに迫る。


 そして。

 リルが変形した、ミスリルの槍。

 距離を取ったまま、突進で仕留めるに最適っ。


 と、思ったのに。

 しゅるり、と槍を脇と腕の間を通した先輩。

 そのまま?

 オレの突進を、槍を握るだけで止めてしまった。


 ──。


「ず、ずるい! 人間並みの力のみって言ったのに!?」

「人間も鍛えればこれくらいは。──たぶん、きっと」

「百キロ超えるオレの突進、止められるわけないでしょ!」

「ずいぶん重い……、おっと、女性に失礼でした」


 ぐいぃぃ。

 槍を背中に回した先輩。

 そのまま。

 オレを、槍ごと持ち上げやがってんですけどぉ!?


「どわぁ!? リル、戻れ!?」

《言われなくても!》

《……槍を変形させるとか、やりようはあったのでは》


 今言うなよ、ティーマ!?

 ええい、攻守交代!

 ティーマ、なんか適当に頑張れ!


 ……って。

 あれ?


 ここ、空中だよな。

 魔力の床があるから、オレ、立ててるけど。

 ──地上から、切り離されてるのに。

 なんでオレ、地の権能が使えるんだ?


「そろそろかな? 『大地の神力』、堪能しましたか?」

「へ?」

「めっ、めーちゃん!? 身体、おかしいよぅ!?」


 オレの身体を作ったお前が、おかしいとか言うなし。

 ……って。

 そういう意味ではなく。


 ふと。

 全身を見下ろす。

 ……なんじゃ、こりゃ?

 体中が。

 金色に、光ってる?


「やっとですか。苦労しましたよ、精霊力を浪費させるの」

「浪費? って。なんですかね」

「最初に言ったでしょう? 神と精霊が融合していると」


 あの。

 頭の悪いオレに、解るようにお願いします。


 で。

 先輩の、説明によれば。


 空中に来たオレ。

 普段と違って。

 地上と切り離されてるので?

 当然ながら。

 使う地の精霊力は、体内に蓄積された分のみ。


 そして。

 オレ自身は、あんまり自覚がないんだけど。

 地の権能を使うときに?

 無意識的に、大地母神の神の力を使ってるんだとか。


「眼力や錬金術もそうですよ。これも回収しときましょう」

「ひゃっ? きゃぁん!?」


 シルフィの方に片手の手のひらを伸ばした先輩。

 と。

 シルフィの身体から?

 青みがかった、粉のような粒々が引き出される。

 それはさらりと空中を飛んで、先輩の身体へ。


「何故女性の身体に成形したかって。私の指図ですよ」

「アンタのせいかー!? オレの息子ー!?!?」


 女性の方がいろいろ便利でいいでしょう?

 って。

 軽く身体の前で腕を振った先輩。

 瞬時に、女性の姿に。


 アンタ、自分の性別も自由自在かい!?

 ほんとにほんとに、ほんとのほんとで。

 ……神様なんだな、この魔王。


「さて、大詰めですね。起きて下さいよ……、我が妻よ」


 どくんっ!

 え、何、何なの?

 オレの身体の……。


 動いてないはずの、心臓が。

 どくんっ、どく、どく、どくどくどく……。

 脈動が、感じられる。

 それと、同時に。


「きゃんっ!? なんで急に外に出すのよアンタ!?」

「ぼ、ボクじゃない……。ぼく? おれ?」


 ボク(オレ)の身体から、弾き出されたリルが。

 全裸で、傍らに尻もちをついている。

《マスター……、マスター? 誰ですか、貴方は?》


 誰って。

 ボクは。

 ぼく?

 オレ?

 ……自分は、誰なんだ?


「おかえりなさい、我が妻、大地母神デメテル」


 会いたかった声が響く。

 手を広げて、軽く微笑むあの人。

 懐かしさが、全身に満ちる。

 ああ。

 ボク、帰って来ました。


 その愛しい腕の中へ。

 さあ、今……。


《って、ちょっと待てやごるぁ!?》


 数千万年ぶりの、抱擁。

 しようとした、ボクの両腕が。

 なぜか?

『彼』の両肩に手を伸ばして、突っ張って。

 全力で。

 抱擁を、拒んでいた。


《オレの身体、乗っ取られましたのことー!?》


 そうなのだ。

 ボクの、身体の中には。

 まだ、ちゃんと居るんだよね。


 ノーム。

 地の大精霊が。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

──少しでも面白いと思ったらっ。評価ボタンを押して頂けますと、感謝感激でございますっ。──


小説家になろう 勝手にランキング

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ