195話 対魔王戦、開始
2,600ポイント、達成でーっす。
ほんっとにありがとーございまするー。
「なんっ……じゃ、こりゃぁ?」
薄暗いお城から、出て。
お空を、仰ぎ見る。
だって。
そりゃ。
驚きの声くらい、出ますよ。
──天から押し潰されそうな。
満天の。
……漆黒の、魔力。
星すら見えないって、どゆこと?
ていうか。
普通なら、魔力も精霊力も。
見える人じゃないと、見えないんですけども。
御母君なんか、どちらも見えないからな。
あの人は、見えないのに感覚的にいじってるらしいけど。
いま、城の正門から外に出た、オレたちの頭上。
全天を、星の光すら通さないレベルで分厚い魔力が。
たぶん?
半球状に、島をすっぽり覆っている。
……ああ。
確かに、魔王ですねアッシュ先輩。
オレでも、ここまでの天変地異は起こせないわ。
《いいえ、マスターなら星を揺らせば人類滅亡可能です!》
「やらないから! 変なとこで張り合わないで!?」
なんで魔王討伐に出て、人類滅亡フラグ立てるねんっ。
そ、それはともかく。
他の面子と合流……、出来るかなこれ?
「わたくし共は赤外線能力がありますが……、獣人は」
ふんふん?
アルメリアさんの、お話によれば。
暗中で温度を見る能力がある吸血鬼は?
この真っ暗闇の中でも、進めるけども。
獣人の殆どは『暗視能力』で。
それってどういう違いがあるかっていうと。
暗闇の中でも温度を色覚化するのが、赤外線視力。
暗闇の中で僅かな光を増幅するのが、暗視能力。
なので。
完全な闇夜になってる、現在。
獣人はほぼ全部族、松明でも焚かないと動けないと。
むぅ。
それだと。
人間と、行動範囲変わらないですよね。
ライナスさんたち、鳥人も飛べるわけないし。
どうにか、合流したいんだけども。
オレら精霊は?
普通に、精霊力で周囲地形を把握出来るけど。
オレら三人が別々に、って訳には行かないしなあ。
戦力的に。
リルもティーマも?
単独で先輩に対面したら、一撃あぼんだろう。
「では、我々の側から伝令を出しましょう」
あいっ。
めんどくさいと思うけど。
よろしくお願いしまーっす。
ええと。
島の北東方面に、向かってたのと。
三隊に分かれたから。
伝令、三人ですね。
なんでエレナさんたち三人が行くことが決まってんのか。
「易々と城と主を奪われた不手際の、罰ですわっ!」
ふんっ、と鼻息も荒いアルメリアさん。
ううむ。
やっぱり。
お局様なんでしょ?
「違いますっ!!」
そういうことに、しときませうか。
そして。
この場を離れるエレナさんたち。
スカートを茶巾にして、走る準備ちぅですが。
……めっちゃ、嬉しそうですね?
そして。
羨ましそうに眺める、他のメイドさん。
──アルメリアさん?
うるさ型だと、思われていらっさるのでわ?
「わたくし、戦闘メイド筆頭たるもの、覚悟が違います!」
うーん。
あんまし、上がうるさいと。
下が、結束してクーデター起こしたりするんですよぅ?
もっと。
のんびり、まったり行きましょうよ。
と。
行く宛もないので?
てきとーに。
オレを先頭に、暗闇の街道をてくてくしてたら。
どぉぉぉん……。
……何の音でせう?
なんか。
空の方から。
見上げる見上げるー。
ちらり。
どおおぉぉぉぉん……。
極低音の。
それでいて、しつこくなく。
まったりとして。
そうではなく。
空の、魔力の膜が。
煌きと共に。
波紋のような、光の輪が。
全周から。
冲天に向かって。
ざわわわわ……、と。
天頂に、集合してく。
これさぁ?
空の上で起きてるから、平然と眺めて見てるけど。
兵器とかに、換算したら。
軽く、水爆級の威力出るよね?
半径数十キロ?
高さおよそ数千メートルの、魔力の檻なんだもん。
そして。
「アルメリアさん? 伝令に出た三人と、繋がります?」
「ええ、血の契約は生きてますから。どうされました?」
「いっこ、伝言追加で」
ぶるり。
全身に、震え。
怖くなんか、ないやい。
武者震い、ですぅー。
相変わらずの、天頂の脈動。
金色の輪が幾重にも、天頂に集まっていく。
その、集まった光が。
強烈に輝きを増していく、ど真ん中。
オレの視力でも、確認出来る。
軽く両手を広げて、オレらを見下ろしてる人影。
「全員、全力で避難しろ、って伝えて下さいな」
「え? め、メテル様? 何をされるおつもりで」
返事を聞かずに。
大地を蹴って、走り出したオレ。
トリプルアクセルも、かくやっ。
鋭く、その場ジャンプで回転しながらっ。
「リル! 伸ばせ!! ティーマ、支えろ!!」
《もぉ! 人使い、荒すぎ!》
《マスターの御心のままに!》
単分子、ワイヤー!
リルを限界まで細く、それでいて硬度は維持したまま。
ティーマの魔法も手伝って。
全力で、冲天に向かって迸らせる。
狙いは。
天空に浮かぶ、魔王その人!
おらぁ、行くぜ魔王陛下っ。
覚悟、しやがれ!




