194話 精霊吸血鬼
「「「「メテル様に、忠誠を!」」」」
……いいのかなあ?
オレの後ろに、ずらりと並ぶ吸血鬼メイドの皆様。
元々は、師匠の眷属だったんですけどね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──最下層から。
てきとーに縦穴掘って、地上を目指してたら。
どうやら?
眷属の皆さんが眠ってた、地下墓所にぶち当たりまして。
ティーマとリルの見立てでは、休眠状態の吸血鬼さん達。
日も差さない地下墓所の中で?
ロウソクの薄明かりに照らされて、奥までみっちり。
石の寝台に横たわっているその数、ざっと50人弱。
よく見ると、三人分だけ空のベッドがある。
たぶん?
そこが、エレナさんたち侍女三人の寝台なんだろう。
そういえば?
三人交代で侍女業務やってる、って言ってたっけ。
しかし。
ううむ。
状況は、よく解らんものの。
師匠が身柄、攫われたみたいになってるし。
吸血鬼の眷属って、師匠の配下なんだよな?
起こした方が、いいのかやっぱり?
《ほら、戦力は多いほどいいから! 起こすのよ!!》
「ってリル、どうやって起こすんだよ」
《マスターの口づけが、ベターではないでしょうか》
「うぇ? き、キスするんですか。……この人数に??」
もう一度。
眺める眺める。
……ずらりっ!
や、やるしかないのか?
吸血鬼だけに?
ほんとは、血を与えた方がいいんだろうけど。
この場の、オレ、リル、ティーマ。
全員、血肉がなかったり……。
ええぃっ。
眠れる美女には、口づけが定番かっ。
ここでやらねば、男がすたるっ。
《アンタ、女でしょ?》
《マスターのキスには、精霊力を吹き込む効果があります》
せ、精神的には男なのっ!
なんか最近。
容姿に引っ張られてんのか、性自認が怪しいけどっ!?
オレは、一応、前世は男だったんだからして!
──見目麗しき眠れる美女軍団に、キス。
あるぇ?
夢のシチュエーションなんじゃね?
と、いうわけで。
手前の列から。
さぁっ。
たっぷりと、ディープキスで。
地の精霊力、注ぎ込みますよーぅ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いや、そんな効果があるとはつゆ知らず」
「なんということでしょう! 日の光の下を、歩けます!」
そうなのだ。
眠れる美女吸血鬼の、筆頭。
アルメリアさん。
が、仰るには。
吸血鬼に、地の精霊力を注いだせいで?
種族的に?
精霊吸血鬼、みたいなことになって。
陽の光とかの弱点が、殆どなくなったそうです。
そして。
重要なポイント。
……血の契約で?
師匠との間にあった、眷属的な従属が。
地の精霊力で、上書きされてしまい。
位置的に、オレの眷属になってるそうで。
──なんでやねんっ!?
《そりゃ、吸血鬼よりアンタの方が地力が上だからよ》
《上位変換と言いますか、マスターの方が格上ですから》
おーけー、皆まで言うな。
つまり。
オレ、また誰かに怒られるフラグっ!?
「メテル様、ご命令を! 魔王を、討伐せしめましょう!」
「「「「おおぉぉぉ!!」」」」
みんな手に槍やら剣やら持っちゃって。
気合充分というか。
一応、あなた方の雇用主じゃないんですか?
……交代で眠らされてるので、ブラック雇用主?
いやそれはそうなんだろうけど。
そんなあっさり、鞍替えしていいの?
……オレの眷属の方が、幸せいっぱい?
ちょっと、やめて下さいよ?
オレ、崇拝されてもいいことないよ、たぶん?
ていうか、なんで墓所に武装が揃ってんですか。
え?
元々は戦闘メイド?
なにそれ、かっこいい。
元は師匠の家に仕えるメイドさんたちだったのが。
戦乱の世で、師匠の眷属になって戦うのを選んだ50人。
が。
今この場にいる、戦闘メイドさんたちらしい。
「それにしても、エレナたちはだらしのない!」
「え、エレナさんたち、お仕事頑張ってましたよ?」
「戦闘メイドたるもの、メイド業は完璧で当然です!」
……なんか、アルメリアさん。
気構えだとか、根性だとか、延々きーきーと。
あ、これ、アレだ。
──お局様。
「わたくし最年長ですが、そんな歳ではありません!」
「あ、はい。ところで、そのエレナさんたちの行方は?」
「心当たりがありますとも! そこの二人、メイド部屋へ」
アルメリアさんの命令で、ぱたぱた走ってく年少メイド。
なんでも。
起きてる間に使う部屋って、決まってるそうで。
そこに閉じ込められているに、違いないと。
……十分後。
よろよろふらふらなエレナさんたち。
オレらに、合流。
なんか、凄い衰弱してませんこと?
「不覚でございました。血を抜かれまして……」
「まさかぁー、魔王陛下が出てくるとわぁー」
「ん。想像せず。対処、遅れた」
三者三様。
休眠状態寸前まで、無理やり血を抜かれたので。
部屋から動けずにいたと。
しかし。
その、吸血鬼の活動の源な、血液ですが。
ないんですよ。
オレら、血も涙もないので(物理)。
《ほらほら。アンタ、出番よ?》
《マスターの唇を堪能出来るなんて、羨ましい》
ん?
ティーマ、羨ましかったの?
んじゃ、ほれ。
ちぅぅー。
……ちゃんと鼻血吹くのね、お前。
芸が細かいというか。
血は通ってないので、即座に霧散してるけども。
ええい。
既に四十七人も、やってるんだから。
あと三人増えて、コンプリートしたって。
別に、いいだろう。
「「「え、メテル様? な、何を??」」」
「問答無用っ!」
……物凄く、取り返しのつかない過ちを重ねてる気が。
まあいい。
全部終わってから、……逃げよう。
そういう、わけで。
いざっ。
魔王討伐に、出発ですよ皆さんっ。
《って。アンタ、魔王がどこに向かったか分かってんの?》
「夕日に向かって走れば、いつかぶつかるかなと……」
脳筋言われた。
いや、自覚してるから。
えー?
じゃ、リルだったらどうすんだよぅ?
《じゃ、城から出ましょ? 外の面子とも合流しなきゃ》
あ、そうか。
オレは脳筋でも。
頭脳派のウンディやマークさんたちと、合流すれば。
きっと?
オレが行くべき場所を、示してくれるはずっ。
《アンタの妹でしょ? 今、綺麗に存在忘れてたわね?》
「はっはっは。過去のことは忘れよう」
と、いうわけで。
オレと精霊吸血鬼の皆さん。
いざ、出陣ー。




