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192話 キレーに騙されてた、オレ

「じゃ、ごゆっくりどうぞー」

「ごゆっくりじゃねぇ! こらぁ、出せぇ!!」


 ひらひらと軽く手を振る、アッシュ先輩。

 小脇には、ぐったりしてる幼女の師匠。

 傍らには、にこにこ全開なセラさん。


 ふたりでくすくす笑いながら、螺旋階段を上がってく。

 それを、オレは見守るしか出来ないとわっ。


 くっそー!

 だーまーさーれーたー!!


 暗黒神の神域、ってお墨付きな、最下層結界。

 そこに、オレは閉じ込められている。


 相変わらずの、謎空間すぎる部屋。

 アッシュ先輩の魔力による、今日の内装は……。


 ら、ラブホ?

 回転ベッドに、ガラス張りのお風呂。

 壁面に、四十インチクラスの液晶テレビ。

 テレビのリモコンまで完備してる、謎の細かさ。

 ……そもそも電波ないから、何も映らないだろう先輩。


 て、いうかー。

 せ、せんぱい?

 こういう部屋の細部まで再現できる、くらいに。

 ラブホ、通いまくってたんでせうか。


 ……。

 きゃー!

 えっちすけべへんたいさん、だぁ。


 それはともかく。

 入り口付近にぴったり張り付いてる、濃密な黒い結界。

 叩いても殴っても蹴っても、壊れやしねえ。


 つか、そもそも材質何なんだよ、これ。

 錬金術でも反応ないんですけど。


 はあぁ。

 そうだよ、暗黒神で魔王なんだよな。

 なんで。

 人間に味方してると、信じてしまったのかオレっ。


 最初から。

 先輩は、人間の味方だとは一言も言ってなかったのにな。


 つまり。

 セラさんの、いろいろな暗躍は。

 魔王陛下の、意のまま。

 行き先が掴めなくて、割と当然。


 神の力を持ってる、魔王がバックに居たら。

 そら、捕まるわけないわな。


 この島に向かった痕跡だって。

 故意に追わせた、ってことなのかしら。


 そもそも?

 最初に、師匠が王国に来たのだって。

 先輩の、何かの思惑があったのかもな。


 それがなきゃ?

 オレが、ここに来ることもなかったわけだし。


 むぅ。

 うろうろ。

 部屋の中を、行ったり来たり。


 しかし。

 ラブホらしく、窓もないしドアも入り口に一か所のみ。

 出られないー。


 することもないので。

 とりあえず。

 キングサイズの、円形ベッドに、ごろーん。

 ……知らない天井だ。


 あーあ。

 つまり。

 話は、数時間前に遡るのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「こんちゃー、三河屋でーっす」

「醤油も味噌も間に合ってるよ」


 この阿吽の呼吸。

 ノリツッコミの、見本。

 さ、さすがすぎます、先輩っ。


 そして。

 幼女姿で、ぐっすりおねむの師匠を。

 あぐらかいたまま、お腹で抱いて、しーっと指一本。

 はい。

 静かに、そーっとお部屋にお邪魔。


「今日はこういう部屋の気分でね」

「ここは突っ込むべきなんでせうかね?」


 キングサイズのベッドの、端。

 揺らさないように気をつけながら。

 ちょこん、と腰を下ろすオレ。


 ……うわぁ。

 ウォーターベッドだ。

 尻の下が、なんかちゃぷちゃぷしてる。


「妻が結構お気に入りでね?」

「とっ、ちょっ、回さないで!?」


 枕元のスイッチを操作した先輩。

 同時に、ベッドがゆっくり回転し始める。


 慌ててベッドの上に登ったオレ。

 下が、柔らかすぎるもんだから。

 先輩の隣に、ごろーん。


 あの。

 ライティングがピンクなのとか。

 凝りすぎでしょう?


「そろそろ来る頃かなと思って」

「へ? オレが?」

「そうそう。予定通りだったね」

「ふぇ? あ。ああ、未来視か」


 くすくす。

 せんぱーい?

 その黒い笑み、やめて下さいよぅ。


「じゃ、私はそろそろ、時間なので。ゆっくり楽しんでね」

「へ? いや、オレ先輩に訊きたいことが」

「うん、その質問内容は『YES』とだけ」

「……は? いやそうじゃなく……、うぉっとぉ!?」


 先輩が急にベッドを降りたので。

 オレ、波打つベッドに翻弄され、枕元に、ごんっ!


 くっそ、ベッドが回ってんのが悪いんだ。

 どこだスイッチ?

 たくさんありすぎだろう、いちいち何のスイッチだよ!


 えーと、えーと。

 こ、これだっ。

 ポチッとな!


 きゅーん。

 謎の電子音と共に。

 回転ベッド、停止。

 正解っ!


 って。

 先輩?

 入り口で、何してらっさるの?


「飲み物と食料は冷蔵庫に、シャワーも冷暖房も完備だよ」

「わぁ、豪華なお部屋ですねー! じゃなくて!!」

「ちょっと私は出て来るので、大人しくしててね?」

「はい? ……って、その、隣の女!!??」


 すぅっ、と。

 影から出てくるみたいに。

 先輩の隣に、姿を表した女性。


 見慣れたローブに、見たこともない豪華な、魔道杖。

 とんがり帽子に、黒縁メガネ。


 オレがよく知ってる、あの人。

 セラさんが、オレの方を見てニヤニヤ笑ってた。


「あっは、とうとう追いつかれちゃった。久しぶり!」

「ちょっ、セラさーん?! アンタ指名手配されまくり!」

「知ってるわよぉ、わざとだもーん?」

「わ、わざと!? 何でそんな」


 婉然と微笑むセラさん。

 その片腕を。

 師匠を抱く先輩の、反対の腕に絡ませて。


 あっ。

 あーっ!?

 まさかまさか、まさか!

 魔王の、手先!?


「うん、そういうこと。じゃ、私はこれから忙しいので」

「邪魔しちゃダメよー、メテルちゃん? じゃあねー!」


 慌ててベッドを降り、後を追ったけど。

 入り口の魔法結界ぽいものが、通れない。


 ……そういうわけで。

 オレ。

 ラブホと化した、女王城最下層に。

 閉じ込められて、現在に至るっ。


《マスター? これは何ですか?》

「これは冷蔵庫だな。有料なんで飲み物が小分けされてる」

《マスター、これは?》

「こっ、これは……、ご、ゴムだ。うん」

《ごむ、ですか。用途は?》

「しっ、知らん! 知ってても言わん!!」


 めっちゃ興味しんしんなティーマの相手。

 疲れるというか。

 お前には、こういう知識はまだ早いっ!


 とはいえ。

 部屋を探索しないと?

 脱出手段が、見つからないわけで。


 オレ。

 気恥ずかしさに、耐えつつ。

 お部屋の中を、ひたすらうろうろするのだった。


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