191話 音速を超えたオレ
2020/05/31 エレナさんの名前を間違えてたので修正しました。
「たのもーぅ……」
……。
あるぇ?
女王城の。
門が。
開かないんですが。
──普段だと?
三人の侍女さんのうち、誰かが。
門の操作して、開けてくれるんだけどなあ?
うろうろ。
ちらり?
うろうろ、うろうろ。
ううむ。
このお城。
深いお堀と、高い城壁のワンセットなので。
正門か裏門が、開かないと。
ほんとに、中に入れないんだよなあ。
おまけに。
絶対魔法防御陣って言うんだっけ?
城全体が、魔法無効化の結界にすっぽり入ってるので。
魔法で、中に入る橋とかも掛けられないという。
いやまあ。
島を統べる女王様の、居城ですから。
これくらいの防御は、して然るべき。
ですよねえ……。
いや、しかしっ。
中に入る、用事はあるのだ。
師匠に取られっぱなしの、リルもそろそろ愛でたいし。
ふっ。
魔法がダメなのは、想定内っ。
だが。
オレの熱きリビドーは、この程度の障害でわっ。
《マスター? あの下等精霊のためですか?》
《これこれ、そう毛嫌いするでない。仲良くー》
肩のティーマが、めっちゃ拗ねてんの。
お前、割と分かりやすい奴だね?
軽く親指で、ティーマをつんつんしながら。
ええと。
たったか、たったか。
軽く門の周囲を、走り回り。
観察、観察ぅ。
目算で。
城壁。
だいたい、高さ六メートルってとこかしら。
で。
お堀の幅が。
四メートルくらい、かなあ?
よし。
でわ。
街道に、出て。
めいっぱい、距離を取って。
《マスター? あの、何を?》
《あ。置いてかれるかもだから、指輪に戻っとけ?》
うむ。
風もなし。
目標、選定。
よし。
いくぞう?
位置について。
よーい。
どんっ!!!!
そのとき。
オレは、音を置き去りにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふえぇ。ひたひ……」
《回復呪文は、マスターに効きませんので……》
いや、申し訳なさそうなティーマは悪くないよ?
お鼻が潰れて、顔面直撃で。
ごしごし擦るけど、どうも違和感。
血が通ってるわけじゃないので、顔真っ赤ではないけど。
痛覚は、普通にあるので。
顔面というか。
身体の前面が、ひりひりしております。
なんでかって。
ちょっと、オレが目測を誤っちゃって。
街道から、門の跳ね上げ橋まで、一直線。
音速を超えて疾走した、オレ。
その勢いで。
上がりっぱなしの橋を超え。
──オレは今、鳥になった……!
的な。
爽快感、凄かったなあ。
あれが、シルフィの体感かあ。
……で。
そのまま。
お堀を超えて。
城壁を、超えられれば完璧だったのだが。
──何度も言うが。
オレ、自重めちゃくちゃ重いのよね。
なので。
エネルギー保存の、法則っ!
……ばか高い城壁に。
音速で、直撃。
カエルのように、張り付いたオレが居た。
いや。
城壁自体は、石材なので。
接触さえすれば、地の権能が通るのでっ。
いま現在のように。
無人の城内まで、侵入成功なわけだけど。
……爽快感に浸りすぎて。
権能を発動するのが、遅れました。
はい。
くそぅ、ウンディが居れば。
お堀を凍らせるくらい、訳無かったんだけどなっ。
……ロックさんと、巧いこと進んでるかな?
しかし。
確かロックさん、部下に美少女が居たような気が。
ラグさんも、警戒心ばりばりだったし。
ウンディ?
前途多難だぞ、お前。
ライバル、多しっ。
《城内、生体反応ありません。心音も察知出来ず》
「不思議だねえ? ああでも、全員人外なのか」
ティーマが周囲を探ってるんだけども。
元々、たった五人しか居ないお城。
んで。
師匠も含めて、侍女さんたち、吸血鬼なので。
心臓動いてなくても、不思議ではないけども。
──しぃぃぃぃ………………んんん………………。
こんな静かだったかな、この城?
割と元気いいエレナさんたちが。
日々忙しく、城内駆け巡ってた気がするんだけども。
空気まで停滞したみたいに?
風ひとつない、廊下。
物音すら、聞こえやしない。
……ものすごーく、変だよなあ。
これで夜なら。
こ、こんなところに居られるかっ、オレは帰るぞ!
的な。
フラグを、立て放題なんだけど。
うーん?
まあ、でも。
ちょっとした、お城探検と思えば。
どうせ、最終目的地は。
最下層。
アッシュ先輩の、神域だからして。
でわでわ。
ティーマ、共に征くとするか!




