190話 何かがおかしい?
《マスター? お休みになられないのですか?》
不思議そうに尋ねるティーマの顔を、指先でうりうり。
きゃー、なんて声上げて、嬉しそうに指に抱きつく。
ふふふ、愛い奴め。
──深夜の、鳥人族の集落。
フクロウの鳥人さんなのかな?
ときどき、鳴き声が聞こえるけど。
殆どの鳥人が夜間は飛べない、ってライナスさんが。
その話通り。
集落は、静まり返っている。
メルちゃんも、貸して貰ってる大樹の虚で、お休みちゅ。
けども。
オレ。
ひとり、大樹の根本で思案ちぅ。
……うーん?
なんか、状況が。
ちぐはぐ、というか。
ライナスさんと、メルちゃんのおかげで。
鳥人族の、協力を得られたわけだけど。
──この集落、割と最後の方まで回らない予定で。
北東に向かったのも?
いちばん遠い集落だから、って程度で。
ロックさんとウンディが持ち帰った、色んな情報。
あんまし上手く、活用されてないというか。
ティーマが調べてた、麻薬関係の資料と。
ロックさんたちが迷宮で捕まえた、麻薬製造の獣人。
そこら辺も、全然調査進んでない気がしてる。
て、いうか。
曲がりなりにも島を統治してる、女王な師匠。
女王城最下層、アッシュ先輩の部屋に入り浸りで。
研究のため、つって連れてったリルも。
いつまでも、返してくんないし。
あんまし?
統治っていうか、状況を進めてなさそうな。
師匠の眷属って。
城の中で、殆どが眠ってるらしいけど。
不死で、身体能力が獣人に勝る吸血鬼。
全員起こしたら?
オレらが代わりに島中を、動かなくても。
さっくりと、セラさんを捕縛出来そうなもんだよな。
つか。
そもそも。
ロックさんは、御母君に命令受けてるけど。
実被害が拡大中なんだから?
本来的に。
オレらでなく、師匠たちが動くべき案件なのよなー。
オレら。
根本的に、よそ者ですからね?
《そこんとこどう思う、ティーマ?》
《マスターの指先、気持ちいいです……》
そうじゃないんだけど。
おい。
うっとりオレの人差し指を、抱き締めるんじゃない。
ていうか。
いつの間に、手指の間にすっぽり収まったんだ。
……。
うり。
うりうり、うりうりうり。
《ひゃぁん……》
ティーマがうっとりしてるから。
まあ、いいか。
しかし。
鳥人族に、偵察を頼むとは言え。
どうせなら?
『目』は、多い方が助かるよなー。
こら、ティーマ。
いつまでも、恍惚としてないで。
ちょっと、連絡頼むっ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝。
「で、その……、メテル様? これは?」
「ふはははは。本邦初公開っ。これが、世界樹の木だっ!」
ずでーん。
鳥人族の集落の、すぐ近く。
地面から、おっそろしい高さまで天を衝く木。
お借りした大樹の太さなんざ、メじゃねえ。
数倍の太さの、樹木が。
森を侵食する勢いで?
今も。
メリメリと、音を立てながら。
順調に、成長中でございます。
「ママの頼みだから、張り切っちゃった!」
と。
オレの腰に、がっしり抱きつくエル。
そうなのだ。
精霊大陸から、この島まで。
世界樹の精霊、エルデガルドに頼んで。
超速で、根っこを伸ばして貰ったのであるっ。
途中の海?
オレの権能補助で、地殻をぶっ貫きましたが何か。
「よしよし。んじゃエル? 鳥人族と協力してな!」
「任せて! 島中に、根を張り巡らせちゃうんだから!」
つまり。
世界樹を通して。
エルの認識範囲を、島中に広げれば?
精霊大陸と、同じく。
エルが、全土詳細を把握出来るので。
鳥人族の、上空偵察と併せて。
どっかに隠れてるぽい、セラさんを。
発見するのが、早まるって寸法でさあ!
「世界樹の精霊様……、話には聞いておりましたが」
あ。
しまった。
メルちゃん以下?
鳥人族の、皆さんが。
めっちゃ、平伏していらっさる。
オレら大精霊ほどじゃ、ないにせよ。
エルって、かなり高位の精霊だもんな。
精霊信仰してる、獣人たちからしたら?
女神降臨、みたいなレベルの大事か。
え、ええと。
あの?
とりあえず。
畏まらなくて、いいので。
調査、開始して頂けますか?
「「「「一命に代えましても!!」」」」
ぉぉぅ。
気合入ってんなあ。
……んじゃ、エル?
ここは、任せるからな?
「うん、任されたわ! ……でもママは、どこに行くの?」
「オレ? オレはちょっと、用事が出来たんでな」
ティーマを肩に乗せて。
向かう先は。
──女王城。
なんか、いろいろ変なので。
師匠に会って?
きっちり、そこんとこ聞いて来るわー。




