189話 鳥人さんの筋肉は、すぎょい
「おお、兎人族の! 久しいな! 用向きは?」
「ライナス族長、久しぶり。今日は、陛下の要望で」
鳥人族の、集落。
族長のライナスさんが、出迎えてくれた。
さすがの、女王陛下の短剣の御威光。
見せるだけで。
周囲に降りて来た鳥人さんたち、みんな平伏。
うーん。
やっぱ、三つ葉葵の印籠でやりたかったな。
控えおろうー、みたいな。
鬱蒼とした森の中。
どこが入り口なんだか、集落なんだか。
最初は、さっぱり解らんかったけども。
メルちゃんに促されて、見上げると。
──背の高い木々のあちらこちらに、鳥の巣がっ。
な、なるほど。
鳥人も、樹上で暮らすんですねえ?
……正直、鳥人って言うから。
人間の背中に翼が生えてる系を、想像してたんだけど。
「ほう、こちらが陛下の?」
「ええ、賓客のメテル様。メテル様は王国の貴族様で……」
おっと。
ご挨拶、ご挨拶。
いちおー、カーテシーも出来るんですよオレっ。
ライナスさんも、堂に入った儀礼を返してくれる。
うんうん。
ファーストコンタクトは、穏やかでしたねっ。
……ただ。
ライナスさん。
ごっつい筋肉質な男性の体つきで。
背中に真っ白い翼を、折り畳んでいらっしゃる。
そこまでは、まあ想像通りだったんだけど。
「ふむ? メテル様は、鳥人を見るのは初めてですかな?」
「え、あ。じろじろ見て、ごめんなさい」
「いえいえ、我らも人間を見るのは初ですからな」
お互い様でございます。
って。
目を細めて、豪快に笑って下さった。
いやあ。
だって。
思わず、注目しちゃいますよぅ。
ライナスさん。
首から上が。
思いっきり、鷲なんだもん。
どうやってクチバシで喋ってるんだろう。
じ、じいぃ。
「見目麗しき女性に注目されると、些か照れますな」
「ライナス? 奥方様が、上から見てますよ」
「おっと。このことは、ご内密に?」
再び、大きな笑い声。
内密に、つっても。
よく見たら。
樹上のそこかしこに、黒羽根の鳥人たちが。
オレらのやり取りを、ガン見してました。
バレバレですよ、ライナスさんっ。
「では、暫しお待ち下され。歓待の宴を催しますので」
「わ。ありがとーございますぅ!」
優雅に腕を折り曲げて一礼したライナスさん。
大きな翼を広げると。
軽くジャンプして、樹上に飛んでった。
こんな狭い空間を、よく自在に飛び回れるもんだ。
鳥人って、すげえ能力持ってんだなあ。
ふむ。
メルちゃんも、ちゃんとしたとこでゆっくり休めるし。
どうも?
ここには、セラさんの影響がないぽいし。
ひとまず。
休憩がてら、情報収集しませうー。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんと。人間の女が?」
「なんか情報あったら、教えて欲しいんですが」
「ふむ……」
世界樹並みとまではいかないけど。
大人が数人並んで入れるくらいに大きな、大樹の虚。
そこで、オレらは歓待されていた。
……オレの後ろに。
肩でぜいぜい息してる、黒翼の鳥人さんたち数人。
ご、ごめんよ?
メルちゃんとオレ、鳥人さんに持ち上げて貰ったんだが。
メルちゃんは、ライナスさんが軽々と抱えてったけど。
……オレ。
実は自重、結構重いんだよね。
全身に。
武装用のチタンその他、地属性の金属仕込んでる関係で。
自分で歩く分には、全く重さ感じないんだけども。
他人に抱えられるとなると?
地の権能を、分けられないからなあ。
「に、人間というのは、こんなにも凄まじいのですか……」
「いや、そうじゃないんだけど」
「次こそはもっと軽々と、運んでみせますので!」
たぶん今のオレ、軽く百キロ超えてますからね?
無理しないで下さい、お兄さん。
しかし。
ほんっと、みんないい筋肉してるよなあ?
これで剣とか持ったら、すんげえ強そうだけど。
「鳥人族は、島でも有数の武闘派ですよメテル様」
「そうなんだ? 鳥人さん、かっこいいよねみんな」
……って。
いや、褒められたからって唐突にポージングしない。
意外と鳥人さんたち、ノリノリですね。
筋肉、ほんっとに凄いけども。
と。
メルちゃんが、こしょりと耳打ち。
──鳥頭で、光り物好きで、いたずら好きですと。
ああ。
黒翼のお兄さんたち、カラスっぽいもんな。
いかにも、その場のノリだけで騒ぎそうな。
あれ。
さっきオレら、鳥肉食べちゃったよね?
お仲間さんだったり、しない?
大丈夫?
「ははは。我ら鳥人族、そこらの鳥とは種族が違います故」
「大丈夫ですよ、メテル様」
ライナスさんとメルちゃん、双方に笑われてしまった。
ううむ。
獣人さんって、意外と仲がいいんですね?
「ああ、いえ。兎人と鳥人は同盟を結んでいるのです」
「かつては互いに、肩を並べて戦った仲ですぞ」
ほー。
なんか、魔王が封印される以前に。
島中の獣人が結束して、女王に率いられた戦があって?
そのときに、獣人の集落が統一されたそうです。
いつ頃?
数十年前?
おや。
アッシュ先輩。
意外と最近まで、現役だったんですね。
って。
数十年前だと、メルちゃんのお父さんの時代かしら?
「足技では右に出る者のない、強者だったのですが……」
「あれほどの豪傑が、人間の女に誑かされるとはな……」
むぅ。
そうなんですよねえ。
オレらも、困ってるんですよ。
あ、そうだ。
鳥人さんたちって。
目も、かなり良いんじゃありませんこと?
鷲や鳶って。
視力、20.0以上って聞きますし。
「ほう、分かりましたぞ? 我らの出番ですな?」
「出来たら、手伝ってくれると有り難いなと」
「無論ですとも。我ら、女王陛下の忠実なる下僕」
わぁい。
快諾して貰えたっ。
でわ。
上空からの探索、お任せしても?
「日中のみと成り申しますが。明日から、早速」
「お願いしまーっす!」
鳥人さん。
高度数千メートルから、地上の人間を確認可能だそうで。
この島、大陸ほどには大きな面積ないから。
これなら?
数日くらいで、全土探索終われるかなあ?
強い味方が、出来ましたねっ。
「しかし、今宵は歓待させて下され」
久方ぶりの客人ですからな、って。
もちのろんでございます。
よろこんでー!




