188話 押し倒したくなる、可愛さ
ばちばち、ぱちっ。
薪がいい勢いで、燃えている。
その周囲には。
枝を突き刺した、魔物の肉。
炙られた肉が、ちょっと香ばしい匂いを拡散ちぅ。
……。
魔物って。
喰えるんだなあ……。
迷宮でよく、ミンチにしてるけど。
あれを食うとか、考えたこともなかった。
「お口に合わないかもしれませんが……」
「いやいや、そんなことない。ていうか、体調は大丈夫?」
問題ないらしい。
でも。
メルちゃん。
森の中で狩りの最中でも?
ちょっと、足元ふらついてたし。
弓で、鳥を撃つときも。
何射か、外してましたよね。
──不調なのを、隠しても。
いいこと、ありませんよっ。
「むしろ、オレが生活感なさすぎてごめんよ、的な」
「そんなことはありませんとも!」
顔真っ赤で力説してくれるのが、ちょっと可愛い。
メルちゃん。
一応、原住民の方で、単に案内人の予定だったので。
あまり深くは、説明してないんだけども。
メルちゃんの、理解では。
オレとウンディを。
王国から来た精霊術士、と思ってるようで。
この島の島民、殆ど全員精霊崇拝してるんだっけ。
そりゃ、敬語使うようにもなるわな。
精霊術士の、立ち位置というのが。
島民的には、精霊の友人、みたいな感覚らしいので。
あと。
女王陛下から、直接に案内を頼まれた、って意味で。
女王に忠誠を誓ってる、関係で。
オレらを、女王直属の騎士、みたいに思ってるぽい。
うーん?
現実には、ちょっと違うんだけどなー。
オレは、女王な師匠の弟子、って立場で動いてて。
ロックさんの主君は御母君だし。
ウンディは、オレの妹だからロックさんに付き合ってて。
マークさんとユリちゃんは、隠れ家提供して貰ってる恩。
ううむ。
ものの見事に、全員動機がバラバラだな。
せ、説明しづらい。
ただまあ、目的はひとつ。
島に潜入したっぽい、セラさんを見つけ出すこと。
いや。
捕まえること、だな。
こうしてる間も?
被害が広まってる可能性、大なので。
もしかしたら。
王国と島の間で。
外交問題で、戦争にもなりかねない火種。
なんだよなあ。
……セラさん。
いくらなんでも、もう庇えないよー?
「あっ。そろそろ、これとこれは大丈夫ですよ」
「お? ありがと、あむあむ」
おや。
意外と、イケますね?
鳥肉、なのに。
脂が乗ってるというか。
独特の、風味が。
ラム肉に、似てる感じかなあ?
癖になる、肉の味。
鳥の魔物の、首を落として逆さ吊りは驚いたけど。
血抜き、の技法ですよね。
血が体内に残ると不味くなるのは、魔物も同じらしい。
羽根をもぐのは、手伝ったけど。
内臓を出して、代わりに薬草を詰めるのはお任せした。
いや。
戦闘中は、割と高揚してるので?
血や臓物とか、見るも触るも全然平気なんだけど。
なぜか?
獲物の解体とかは、苦手というか。
もしかしたら。
手が血脂に塗れるのが、苦手なのかも。
つっても。
先日、全身血まみれになったばかりだけどな。
ううむ。
我が事ながら。
謎である。
「これも大丈夫ですね。野菜もお取りになって下さい」
「ほおぉ。ウマー!」
なんだか、メルちゃん。
甲斐甲斐しいというか。
鍋奉行……。
いや、焼き肉奉行か。
手慣れた様子で。
オレに、にこにこ焼けた肉を差し出して。
食餌して下さっておられる。
うん。
メルちゃん?
いい奥さんに、なれますね。
「ひえっ?! い、いえ、これくらい、普通です」
あれ。
照れちゃった。
なんで?
普通に、褒めただけなのに。
部族に弟妹が多いから、とか。
兎人は多産だから、とか。
……多産、って言った途端に、更に照れてますが。
なんというか。
押し倒したくなる、反則級の可愛さを持ってますね。
「!? え、ええと、ここでは背中が痛そうです……」
別の場所ならいいんかい。
ていうか。
メルちゃん?
オレ、一応ながら。
どう見ても、女性ですからね、身体?
なんで。
きょとーんと、目を丸くするんでせうか。
「メテル様は女性を愛する性癖だとか……」
「だから誰が言ってんだよ、それ!?」
師匠だそうです。
くそぅ。
帰ったら、覚えてろよ?
先輩に頼んで。
くたくたに、してやるぅ。
──。
師匠、喜ぶだけなんじゃねえのかそれ。
とか、思ったけど。
……対抗手段が、見つからないような気が。
ま、まあ、いいさっ。
じゃあ。
腹も、膨れましたし。
そろそろ、移動しませうか。
「はい。予定は、お有りで?」
「みんな北東の方、行っちゃったから。オレらは近場かな」
「えっと。では、直近に鳥人族の集落がありますので」
手慣れた様子で、焚き火に土を掛けて消火してる。
ほっとくと?
再燃したり火の粉が飛んで、山火事になったりするって。
わ、そりゃ大変だ。
消し消し。
えーと。
土を掛けりゃ、いいんだろ?
《マスター? お手伝いしますが》
《おお。じゃ、焚き火の地面ごと反転させたら楽じゃね?》
オレの意を受けて。
ティーマが、地面に精霊力を動かす。
ずごごごご……。
唐突に、盛り上がった地面。
腕の形の、土。
掌の上には、まだ燃えてる焚き火。
目を丸くしたメルちゃんが。
慌てて、飛び退く。
あ、ごめんよ。
範囲、大きすぎたかしら。
まあ。
やることは、一瞬だから。
ぐおぉぉぉ……、どどぉん!!
勢いをつけた、土の腕。
掌を、ひっくり返して。
地面に、焚き火を叩きつける。
衝撃で砕けた土の腕は。
そのまま、その場に山盛りに。
はい。
一瞬で、鎮火でございます。
わーい。
「め、メテル様? 今のは……」
「あ、メルちゃんが大変そうだったので。手伝ってみた!」
どやぁ。
……。
なんで、呆れたような目線が。
軽く頭を振って、持ち直した風に。
「今、数千の地精が動いた気配がしました……」
「ああ、そりゃオレ、地の……」
おっと。
今度はオレが慌てて、お口にチャック。
精霊崇拝、してるんだよなメルちゃん。
ここで、オレが大精霊だとバラしたら。
……間違いなく。
オレを神格化して崇拝しまくってる?
大地母神の神殿大司祭、ラスティと同じになってしまふ。
「あ、ええと。そう、この指輪に宿る精霊がね!」
《マスター? 私は精霊ではなく、ダンジョンマスターで》
妖精なのは、分かってんだよティーマ!
嘘も方便だ、ここは精霊になっとけ!!
納得したような、不可思議な顔してるメルちゃんの。
腕を引いて、促して。
さ、さあ。
鳥人族? の集落へ。
案内、よろしくお願いしまーっす!




