186話 準備万端、出発進行
「単なる、魔力酔いなんだよ」
「はぁ」
「マーク様ぁ、私、めまいがぁ」
「だから、大人しく寝てろって!」
女王城に用意された、マークさんとユリちゃんの巣。
ここはグレタさんの担当らしい。
快適を約束された、広い二人部屋で。
呆れ返りまくりの、マークさん。
寝間着姿の、ベッドのユリちゃんを。
甲斐甲斐しく、お世話しまくり。
あの。
そんな風に、よく構ってるから。
ユリちゃん、増長しまくってるのでわ?
「分かっちゃいるんだけどよ、こんなに華奢なんだぜ?」
まあ、そりゃ。
ガチ目に冒険者で前衛やってるマークさん。
白魔道士で後衛なユリちゃんと、比較したら?
華奢で繊細に、思えるんでしょうねー。
て、いうか。
マークさん?
ついでだし。
獣人の、他集落巡り。
お付き合い、しませんこと?
「ん? ああ。まあ、ユリは城で静養してればいいし……」
「マーク様の往くところ、ユリシーズ有り、ですわ!?」
……すったもんだで。
ユリちゃんマークさんコンビ。
次の旅に、同行決定しましたとさ。
ユリちゃん、具合悪いって何だったんだよ。
城の地下に、先輩が居る関係で?
王都よりも魔力濃度高めなのは、解るけど。
寝込むほどじゃ、ないよね?
「え、その……、あの、私、月の物が結構重い方で」
「疑って済まんかった」
めっちゃ恥ずかしそうに、口籠るユリちゃん。
悪いことを聞いてしまった。
マークさんも、オレに同行してるメルちゃんも。
めっちゃ、微妙な顔してるし。
女性陣には、割とタブーな話題なんですよね。
──オレと、部屋の隅っこで佇んでるグレタさん。
オレら、人外なので。
……来ないんだよね、それ。
分かってあげられなくて、スマンな。
いや。
辛いのは、解るんですよ?
女の子って。
ほんとに、大変だなあ。
「じゃ、準備するか。移動は馬車か?」
「あー。徒歩予定だったけど。マークさんたちも来るなら」
地理を知ってるメルちゃんに、確認っ。
城を中心に、ぐるりと島内を回る予定だけど。
ぶっちゃけ、馬車が通る道って整備されてますのこと?
「部分的に未舗装路がありますが、恐らく大丈夫かと」
おけおけっ。
多少の悪路なら、ゴーレム馬さんが大馬力でイケイケだ。
それなら、移動時間は割と稼げますね。
「どうせなら、分担してもいいんじゃないか?」
「ほぇ?」
「数が多いんだろ? 二人ペアで、三組で分かれればいい」
マークさんの、ご提案。
ああ、そうか。
既に?
ロックさんウンディで、ペアで探索してる実績あるし。
つまり。
オレと、メルちゃん。
マークさん、ユリちゃん。
四人加わって、似たような探索すればいいと。
幸いにして。
メルちゃん以外、全員冒険者資格あるし。
探索の要領は、分かってるか。
「それでしたら……、女王陛下に、証を頂ければ」
ふんふん。
メルちゃんの、アイデア。
全員が、女王陛下直属を表す証を持ってれば。
住民に説明する手間が、省けると。
おおお。
みんな、いろいろアイデア持ってるんですねえ。
……オレ、全然思いつかなかったんですが。
がーっと行って、わーっと探せばどうにかなるかと。
「そんなだから脳筋って言われるんだぞ、メテルちゃん」
「こんな頭脳明晰な長女を掴まえて、な、何をっ!?」
なんか疲れた表情のマークさんに、頭ぽんぽんされた。
なにゆえ?
と、そういうわけで。
身分証明証を、頂くために。
最下層。
アッシュ先輩と、師匠の愛の巣へ。
れっつ、ごー。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
むちゅっ……。
ずぞぞぞ。
ずるずる。
ちゅるんっ、ぽんっ。
くちゅっ。
……あの。
アッシュ先輩?
貴方、だいたい先の出来事が、見えてるんですよね?
なんで。
背骨が折れそうな勢いで。
師匠を抱きすくめて。
全力で、深海一万メートル級のキスを。
女王城、最深部って。
めっちゃくちゃ、魔力濃度高すぎるので。
階段降りる以前に、他のメンツはギブアップ。
なので。
オレだけなのが、幸いなのかどうか。
……。
て、いうか。
いくらなんでも。
長すぎねえ?
オレが、到着してから。
軽く、五分は経ったぞ?
「……? !!? ──!!!!」
あ。
薄目を開けた、師匠が。
入り口に立ってるオレに、気づいた。
かなり、お慌てになられ。
自分の腰と肩を抱く、アッシュ先輩の胸の中で。
どんどんぱんぱん。
叩きまくって、おりますが。
……ドS畜生魔王陛下な、先輩。
師匠の両手首をがしり、と掴み。
お離しになられません。
やがて。
壁に背を、押し付けられた師匠。
顔真っ赤な、まま。
くたり。
ずるずる。
ぺたり。
……失神したんじゃないんですか、あれ?
「妻の食事中に入って来るとは、剛毅だね君」
「むしろ、オレが来るって分かってておっ始めたでそ?」
くすくす、くすくす。
軽く笑いながら。
唇の端の、血を。
軽く、片手の甲で拭う先輩。
そういえば。
ほぼ、忘れかけてたけど。
師匠、吸血鬼だったんだよね。
ディープキスでお食事とか。
なんか。
吸血鬼の、定番?
喉に噛み付くよりも。
──絵面が、えろかったです。
「数年に一回程度の食事で済むんだけどね、どうせなら」
「人に見せつけて愉しむとか、いい趣味じゃないですね」
悪趣味は褒め言葉だから。
とか。
本気でそう思ってそうだよな、先輩。
まあ。
目を回しちゃった、師匠を。
軽々と抱きかかえて、ソファに寝かせる優しい手際。
ほんとに、愛し合ってらっさるんですねー。
「君もそのうち、相手が見つかるよ」
「イヤな神託、やめて頂きませんくぁっ!?」
ほんっとろくでもねえな、暗黒神様!?
アンタが言ったら、ほぼ確定の未来でしょ?!
神託っていうか、破滅の予言だよ!?!?
なんでオレが、殿方とそんなことをっ。
「あはは。ずーっと先の話だけどね」
「今すぐここに呼んで下さい、討滅して見せますっ」
ダメらしい。
くそぅ、不吉すぎる。
それは、ともかくとして。
あの。
証明証というか。
身分証、みたいなもの。
頂けません、かね?
「ああ、用意してあるよ。ほら」
テーブルの上に並べられた、六本の短剣。
いかにも王族御用達な、かなり豪華な造り。
金属製の鞘に?
王家の名前が、彫られてるようだ。
「印籠にしようと思ったんだけど」
「スケさんカクさんが必要ですね」
葵の御紋の、御威光はここじゃ通じないか。
じゃ。
これ、お借りしても?
「妻には言っておくよ。じゃ、そういうことで」
ほら、行った行った。
って。
むー。
これから、更に仲良くするんですね?
おじゃま虫なのは、解るけど。
しっしっ、と追い払われるのは。
なんか。
冷たい感じが、してしまいますよぅ、先輩っ。
今度、また?
魔法とかも、含めて。
いろいろ、教えて下さいよー?
でわ。
目的のブツは、入手したので。
お城を、出発しませうかー。




