184話 血と臓物の祭典
ずどん!
べしゃぁっ!!
振り抜いた棍棒の、先で。
首から上が、粉々になって吹き飛ぶゴブリン。
……ゴブリンって、ほんとどこにでも居るんだな。
ええと。
壁の染みになったアタマのパーツから、目を逸らしつつ。
討伐証明部位ー。
……。
耳も木っ端微塵だっ!?
しまった。
次は、頑張って胴体を狙おう。
……そして。
超、くしゃい。
周囲一帯、血と臓物の匂い。
お鼻、つまみつまみっ。
──やりすぎたかな?
落とし穴から入り、下層へ放り出された直後。
ゴブリンとホブゴブリンの群れと、鉢合わせしたので。
軽く棍棒振り回しの、全滅させたんだけど。
床には大量の血が溜まるわ。
壁はおろか天井まで真っ赤に染まるわ。
スプラッタ風味、全開。
しばらく、トマトは食べられませんね。
いやまあ?
全部の頭を吹き飛ばしたわけでは、ないので。
ポッケには、何匹かのゴブリンの耳が、ぎゅうぎゅう。
……血が染み通って、内股に垂れて気持ち悪い。
早く合流して、探索終えて外に出たいところ。
そして今回こそっ、冒険者ランクを上げるんだ!
と、いうわけで。
何階層かも解らんし、マップも不明で。
とりあえず?
迷宮踏破の鉄則。
右壁沿いに、進んでるところだけども。
……上に上がる階段が、見つからないー。
ちょっと嫌なことに、思い当たったんだけども。
迷宮の通路が、全部外壁に繋がってると仮定したとき。
左右壁沿いのどちらかで、入口出口に到達できる。
けども。
通路が外壁に接続してない場合?
壁沿いに歩いても、出口に到達できず。
内側を、ぐるぐる回ることに。
そして。
迷宮って。
出現する魔物の死体って、一定時間が経過すると。
迷宮に吸収されて、消滅してしまうので。
目印にも、ならないんだよねえ。
壁につけた傷や印も、同様。
つーか。
いま倒したばかりの、ゴブリンたちも。
既に、血の量が減りつつあるし。
むー。
これは、やっぱり。
……全力全開で、討伐速度を上げれば。
吸収前に、元の位置に戻れるかもしれませんね?
そうと、決まればっ。
さあ。
カドから覗いている、そこのスライムさんっ。
ほら、怖がらずに。
こっちへ、おいでなさいっ。
さあ。
殺戮の、時間だー!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「正直、嬢ちゃんだとは思わなかったぜ」
「誠に、申し訳なく」
ざばざば、ざあざあ。
オレ、通路に座ってひたすら水を、掛けられ中。
水の権能持ちな、ウンディが居るので。
水関係は、ほぼ無尽蔵。
ただ。
「めーねぇ? これ、落ちる気配がない。諦めて」
「もうちっと頑張れよぅ……」
「洗剤にするための触媒が足りない。植物系の魔物が必要」
しくしく。
最速の魔物退治あんど踏破、をやってたら。
なんか。
倒すの自体が、妙に楽しくなってしまい。
当初の目的、そっちのけで。
同じ通路を、ぐるぐると。
殺戮破壊で、周回してたら。
……全身血まみれの、魔物だとロックさんは思ったとか。
そ、そんなっ。
こんな可憐で清楚なメテルちゃんを、魔物だなんてっ。
「赤黒い血と臓物が衣服に染み通って、多層になってる」
「むー。この衣装、気に入ってたんだけどなあ」
廃棄確定らしい。
取れないんだって。
そして。
凄まじい血の匂いで?
確実に、魔物を引き寄せるので。
離れて歩け、って言われました。
ふえぇん。
でもでもっ。
一応、最初の討伐証明部位は。
ちゃーんと、ポケットに入ったままなんだぞっ。
「ん? この島には冒険者ギルドがないから、無駄だぞ?」
「!? な、なんですと!?」
「そもそも冒険者クエストじゃないから達成報酬もないし」
がぁん!?
じゃ、じゃあっ。
討伐自体、無意味じゃないですくぁっ!?
と。
ロックさん、めっちゃ呆れ顔で。
「探索任務で潜ってるんだから、宝箱も素通りだって」
言っただろう、って。
ふ、ふえぇぇ。
しかし。
泣きべそかいてたら。
ロックさん、A級冒険者のツテで。
王都に戻ったら、なんか一筆書いてくれるって。
わぁい!
ロックさん、大好きですよぅ!!
「めーねぇ? ロックと結婚したり?」
「全力でご遠慮させて頂きますっ!」
ロックさんも、更に呆れて。
そもそも身分違いだから、無理だそうです。
ロックさん、最下層の騎士爵だったっけ。
そういえば。
オレら、一応とはいえ身分は公爵令嬢なんだよな。
既に婚姻っぽいことになってる、次女のシルフィ。
あれは、どういうからくりなんだろうか。
ふーむ?
帰ったら、聞いてみよう。
忘れてなければ。
……忘れそう。
「さて、目的の一部は達成出来たぞ」
「ふぇ? オレを見つけるまでに、なんか発見が?」
むしろ。
オレを見つけるため、だけに?
調査対象を、通過して。
最下層に近いとこまで、下って来てくれたそうで。
……重ね重ね、面倒をお掛けしました。
ぺこり。
「帰りにもう一度通るんだが……」
つまり。
セラさんたちは、発見出来ませんでしたと。
ただし。
迷宮内で、捕まえた獣人たちを、尋問して?
行き先と、内部で何を作ってたかは。
判明しました、と。
「迷宮内で植物系の魔物を倒してだな」
「我の調査によれば、魔物を原材料とする麻薬の生成」
はあ。
そんなもん、作れちゃうんですね。
て、いうか。
獣人の、しかも成人にしか効かないそうで。
……んー?
マタタビみたいなもの、なのかしら。
「近い。獣人で恍惚を齎すが、人間には反応しない香料」
「へえ? それで何をしてたんだろう」
「興奮状態中に暗示を掛けると、これに逆らえなくなる」
……うわ。
催眠系の香料、っていうか。
そこまで危ないと?
それ、もう毒だよね。
「王国で知られてない、未知の麻薬だな」
「恐らく、この島の獣人に伝わる興奮剤と推測する」
シャーマンとか巫女さんが、祈祷中に焚くみたいな。
元々は、そんな使われ方だったんじゃないか、と。
ああ。
コーヒーっていうか、カカオ豆も?
元々は南米の部族がそういう使い方してた、って言うし。
そういうものがあっても、おかしくはないよね。
……え。
じゃ、じゃあ。
発見できなかった、セラさん。
そういう危ないヤクを抱えて?
島中の獣人族の間を、巡って広めてるのでわ?
「既に相当量の麻薬を生成して、携行してるらしいんだよ」
「精製した粉末は、薬効は同じにごく微量に濃縮される」
携行性、抜群じゃないですか。
ぐえー。
急いで、女王城に戻って報告しないと。
「嬢ちゃんが落下しなきゃ、早く戻れたんだぜ……」
「誠に申し訳、ございませんでしたぁ!」
その後。
迷宮内部から裏口を地上にぶち開けるのと。
ふん縛った捕虜の獣人を、担いで移動するの。
文字通り、馬車馬のようにこき使われました。
あのぉ。
女の子にやらせる所業じゃ、ありませんよねこれ。
「嬢ちゃんたちのことは、人間と見ないことにしたんだ」
「酷いっ、酷すぎますよロックさんっ!?」
ブラックロックさんだー!?
これが弓使ってたら、シューターでしたね。
ちくせぅ。
とりあえず。
お城に、戻ったら。
師匠の、指示判断待ちフェーズですなー。
その前に。
オレ、お風呂に入りたいでっす。




