183話 ドリ○もびっくり
「ロック。いい加減、離す」
「おっと、忘れてた。悪かったな、ディーネちゃん」
一直線の急坂を下って、部屋の壁に背をつき、一息。
どうやら?
心配してた獣人の見張りは、内部には居ないぽい。
代わりに魔物が出現してる想定もしてたけど。
しん、として静かな、小部屋になっている。
坂を下って、最初の部屋。
ここは石造りの迷宮みたいだ。
辺境の迷宮と同じで、材質不明の石材が周囲に。
不思議なのは。
あれだけの大災害を、表の神殿に加えたのに。
入り口の坂を下った途端に?
喧騒も雨水も、ぴたりとシャットアウトされてる。
外から、地脈が入れないのと同じ理由?
あらゆる外部要因から、独立してるぽい。
なんか、そのせいで。
どうも、入り口が土砂に埋もれたっぽいのだが。
まあ?
出るときは、普通に穴を開ければいいし。
何なら。
辺境の迷宮でやったみたいに?
裏口を、ぶち抜いてもいいんだから。
帰りの心配は、帰りにしませう。
──オレを注目しないで下さいっ、不可抗力です!
わざとじゃないんですよっ、土砂崩れは!
そして。
内部ですけども。
相変わらず、どういう原理だか分からないけど?
天井や壁、床付近がぼんやりと光っていて。
人間のロックさんでも、視界を失うことはなさそう。
ひとつ、失敗したなと思ったのは。
ティーマを、女王城に置いて来ちゃったこと。
ダンジョンマスターな、ティーマが居れば。
真面目に探索なんてこと、せずに。
全域のマップが、分かったんだろうけどなー。
で。
ロックさんの説明によれば。
恐らく、内部のどこかにセラさんたちが、隠れてるか。
または、何か秘密があるんだろう、ということらしい。
ティーマに任せっぱなしにしてたけど。
麻薬関係を造ってる、疑いもありましたね。
どちらにせよ。
セラさんたちの現在地の、手掛かりを発見せねば。
そんな感じで。
迷宮探索、開始しませうー!
…………。
おい。
ウンディ?
照れまくってんじゃ、ねえよ。
男性と手を繋いだの、そういえば初めてか、お前。
だからって。
ロックさんと目が合うと、即座に目を逸らすとか。
──可愛すぎだろっ。
そんなキャラだったっけ、お前?
「わ、我はめーねぇ一筋。浮気ではない」
「いやなんで姉妹でそういう話になるんだよ」
「嬢ちゃんたち、そろそろ進むぞ?」
「あ、はぁい!」
おっとっと。
のんびりしすぎたか。
一応、未探索迷宮だからな。
オレらは不死身だけど、人間のロックさん居るんだし。
目的も、普通と違って調査探索。
慎重に、進まないと。
でも。
今回は、斥候で盗賊なロックさん居るし?
罠があっても、宝箱があっても。
ぜーんぶ、ロックさんが発見、解除してくれるはずっ!
「いや宝箱は素通りだぞ? 目的が違うからな」
「えええ。迷宮の醍醐味……」
嬢ちゃん、遊びじゃないんだから、と。
怒られてしまいました、しくしく。
だってだってー。
聞くところによれば。
ロックさん、盗賊でAランク、金級冒険者。
いつの間にかBランク銀級になってたウンディより、上。
そんなに稼いでるんなら。
……永久Eランク銅級なオレに?
おこぼれくれても、いいじゃないですかぁ!
「つか、なんで嬢ちゃんほどの冒険者がEランクなんだよ」
「語るも涙の事情が」
「めーねぇは破壊の権化だから。目的と手段が逆転する」
このやろう。
そういうこと言う妹は……。
「め、めーねぇ? 指わきわきする、余裕はない」
「そうだよ、漫才やってる時間はねえぞ嬢ちゃん」
くそぅ。
覚えてろよ、ウンディ。
と、いうわけで。
一応前衛のオレを先頭に。
ロックさん前衛兼中衛、ウンディ後衛。
おっと。
リルも居ないから、精霊刀は使えないか。
懐かしの、双腕棍棒、顕現っ。
さあ、頑張るぞっと。
「相変わらず、デタラメな能力だな嬢ちゃん……」
「めーねぇの出力は、姉妹随一。そしてここは地下」
周囲は、オレの権能に反応する材質で満ちている、と。
他の姉妹だと、地霊に囲まれて出力が落ちるんだよな。
なので。
これだけは、オレの特権。
うむ、うむうむうむっ。
もっと、全力で褒めたまい。
そして。
いい気になって、迷宮を進んでたらですね。
「あ、こら嬢ちゃん! 俺より先に進むな!!」
「はえ? ……どぅわぁっ!?」
がたん。
ぱたん。
ぱたぱたぱたっ。
落とし穴!
ドリ○もびっくりの、瞬間床板消失。
そうして。
「前衛が真っ先に罠喰らってどうすんだよ嬢ちゃん……!」
ご、ごめんなさい。
オレ。
真っ暗でぬらぬらな、滑り坂を。
どこに繋がってんだか、把握出来ないまま。
下層へ、落下してしまいました。
……。
後で合流したら。
めっちゃくちゃ、怒られるなこれ。




