182話 ちょっと、やりすぎましたかね
2,500ポイント超えですぅー。
いつもいつも、いつもいつもいつもっ。
ありがとーございまーす!
ずどどどど。
ぴしゃっ、がらがらがーん。
一寸先も、ほんとに見づらい。
全開の、闇夜の雷雨ですねえ。
……。
ウンディが、水の権能で呼んだんですけど。
《しーねぇのように沈黙の呪文は持たぬ故、必然》
きりっ。
顔は、引き締まってるけども。
身体は、引き締まりすぎたな?
《成長姿は、まだ少し不具合有り》
ロックさんを先頭に、山道を後に続くオレとウンディ。
ウンディは、以前の少女姿に戻っている。
なんでも?
現状の器に、無理やり水分加圧して成長してるので。
時間制限で、元に戻っちゃうそうな。
──余った水分は、どうやって外に出したんだろね?
《めーねぇは、余計なところに気が付きすぎ》
いやまあ。
赤面してるウンディの表情で、ある程度察したけども。
両手で股間、押さえてるし。
全員濡れ鼠だから、バレないと思うぞウンディ。
ロックさんも、そういうシーンを目撃しちゃったかな。
と。
草木を掻き分けて進んでたロックさんが。
オレらの方に伸ばした手を、伏せ、伏せっ、の合図。
はいっ。
伏せー。
……。
おお。
目と鼻の先、丘の上の道を。
哨戒らしい、獣人さんが通り過ぎてく。
《獣人は視力と嗅覚、聴覚が鋭敏。全て潰せばこんなもの》
うん。
ウンディの、言う通り。
音と匂いは豪雨で。
姿は、ウンディの光学迷彩で。
そんな感じで、目眩ましして。
オレら、神殿のめっちゃ至近距離まで接近ちゅ。
あとは。
警備の巡回タイミングを、図って。
ロックさんの、来い来いの合図!
それっ、入り口付近、物陰までダッシュー!
「ん? なんか足音しなかったか?」
「この豪雨だぜ? 水音だろ」
「あー、セラ様、排水は指示して下さらなかったからなあ」
通りすがりに、小耳に挟む警備兵の会話。
やっぱ、予想通りセラさんの関係者か。
《めーねぇ? ここからは、歩き》
《おう、信頼してるぜ魔道士殿っ》
ロックさんは、オレらの通信に混ざれないので。
軽く袖を引いて、そろりそろりと、徒歩で。
ウンディの光学迷彩。
薄い水膜が、オレら三人の周囲を覆っている。
全方位の視界を、誤魔化してるスグレモノだけど。
オレら自身は、普通にお互いの姿が見えてるので。
……外から見えてないのは理解してても。
めっちゃ、緊張しております。
ぶっちゃけ、バレても身の危険はないんだけどさ?
盗賊姿のロックさんだって、凄腕の騎士だし。
オレらだって、自分の身は自分で守れる。
……守れる以前に、神殿丸ごと崩壊させるかもだが。
けども。
セラさんたちの位置が、不明なので。
ここで取り逃がすと、また振り出しに戻るかも。
と、いうわけで。
ひたすら、隠密、隠密ぅ。
とんとん、とんっ。
軽く指で、腕を突付かれて。
目を上げると。
祭壇の周囲を、槍を構えた獣人兵士がずらり。
うーん、ここは通り抜け、出来なさそう。
ロックさん、どうします?
と。
ロックさん、そっと地面から、石を拾って。
あっ。
それ、あれですね?
物陰に石を投げて、注意を引きつけて、って奴。
でもそれ、オレのが適役かと。
今にも投げようとしたロックさんの、腕を掴まえて。
怪訝そうな顔で振り返ったロックさんに。
ぐっ!
サムズアップサイン。
よーし。
でわでわ。
地の大精霊の、権能をですね。
《めーねぇ? 加減》
《皆まで言うな、分かってらい!》
物音を立てりゃ、いいんだろ?
警備兵が、一斉に移動するレベルの。
ここら辺は、昼間に地脈を伸ばしたばかりだから。
全域、オレの権能の支配下だぜっ。
ごとん。
ごろっ、ごろごろっ。
……ずんっ!
「な、何だ!?」
「山だ、山の方だ!!」
ずぅぅん……、めきめきめきっ、みしみし!!
「山陰が、動いてる……土砂崩れだ!? 逃げろ!!」
「退避、退避ー!! 宿舎の奴を全員起こせ、崩れるぞ!」
ごおおぉぉぉわぁぁぁぁっ、どどどどぉぉん!!
暗闇、かがり火に照らされる山林。
それが一斉に動いて、神殿の内部になだれ込んで来る。
びっくりしたのは、ロックさんも同じ。
でも。
さすが、歴戦の騎士様。
咄嗟に、ウンディの手を取って。
急いで、祭壇の奥へ駆け込んで行く。
オレも、後に続きまーっす!
しかし。
ちらり。
軽く、肩越しに振り返る。
……大混乱ですな。
いや、その。
ここまで、やるつもりはなかったというか。
ちょっと?
そこそこ大きめの岩を、崩落させただけなんだけど。
……連鎖反応で。
裾野、崩壊させちゃった。
てへぺろ。
ウンディのツッコミがないのが、救いだな。
あいつ、ロックさんに手繋がれて。
めっちゃ、パニクってるのでっ。
意外と男慣れしてないのな、お前。
うぶで、可愛いぞ妹よ。
さあ。
混乱中の神殿を、背に。
迷宮内に、突撃だー。




