181話 ロックさんが、幸せそう
「ぱんぱかぱーん。さあ、探検隊は秘境の神殿へ!」
……。
ひとりでボケると。
寂しいこと、この上ないな。
まあ。
ロックさんとウンディの居た、洞窟よりちょい下。
草木生い茂る、崖の先端。
そこから。
相変わらず、下方に見える神殿を覗いてるわけです。
内部に侵入も、出来なくはないんだけど。
きっと、大騒ぎになっちゃうし。
猫耳や犬耳の、たくさんの獣人さんたち。
問答無用で吹き飛ばすのは?
ちょっと、可哀想だしね。
と、いうわけで。
オレ。
久し振りに。
ここから、地脈を伸ばすのだ。
地脈視点で、れっつごー。
…………。
ほんとに神殿なんだな。
ていうか、かなり人が多い。
宿舎みたいな建物の中には、数十人の獣人が休んでる。
食堂もあるし、風呂場というか、沐浴場も。
礼拝堂っぽいところでは?
学校みたいな雰囲気があった。
数人の僧侶が、数十人の信者に教えを説いてる、的な。
ただ。
厳粛な雰囲気が。
犬耳や猫耳、狸や狐の、獣人さんたちに。
……合わない気が、してしまう。
和やかというか、微笑ましいというか。
いや、あれでも各部族の戦士たちなんだろうけども。
ううむ。
意外や意外?
以前の、王都の地霊殿と違って。
かなり真面目に、布教してるような雰囲気があるな。
──以前の地霊殿、女性僧侶めっちゃ多かったもんな。
対して。
全員獣人のこの神殿、男性信者率、高すぎ。
ふーむ。
ここまで、真面目に布教活動されてると。
師匠も?
取り締まるの、困難なんじゃないのかな。
信教の自由とか?
そういう、法整備されてるのかは知らんけど。
この神殿で、見る限りは。
違法な活動内容は、ないような気がする。
ただ。
出入りする人は、少ないけども。
剣や鎧に、投石器みたいな武具兵器を集めた。
武器庫? みたいな設備は、あるんだよね。
この神殿、何のために大量に武器集めてるんだろう?
屋外の、動物や魔物に対抗するにしては?
多すぎるような、大規模すぎるような。
んじゃ。
神殿の様子は、この辺にして。
祭壇の奥へ、視点を進めてみよぅっ!
──。
と、思ったんですけども。
あ、あるぇ?
ふたつの大きな、かがり火の向こう。
祭祀の棚があって、その更に向こうは、下り坂。
その、坂の奥に。
……地脈が、伸びないぞ??
えええ?
オレの精霊力が届かない場所なんて?
地上で、そうそうあるもんじゃない、んだけども。
──。
あっ!
もしかして、もしかしますか!?
石造りの建物の。
天井に、地脈を伸ばし。
坂の途中から、奥をズーム、インっ!
……やっぱり!
ここ、迷宮だ!
迷宮内は、外部の精霊力が浸透しないから。
外から、内部が見えないのか。
そして。
神殿内の、どこにも見当たらないセラさんと。
旧地霊殿の、もともとの大司教、でっぷり親父。
察するに。
これは、迷宮内に居るんだろうな。
ふむむむむ。
うーん。
ロックさんたちの、二人っきりの時間。
邪魔したくは、ないけども。
獣人の目を躱して、迷宮内部へ侵入、となると。
オレひとりじゃ、無理だなあ。
仕方がない。
一度、洞窟に戻りますか。
メテルちゃん偵察任務、終了っ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ロックは我の恥ずかしいところを目撃した。責任を」
「いや、子供なら誰でもおねしょ程度あるだろ?」
……わー。
修羅場かしら。
ていうか、ウンディ。
お前、おねしょ癖、まだ治ってなかったのかよ。
まあ? 不要な水分が漏れてるだけで。
実際は、尿じゃないらしいんだけども。
そもそも、オレら精霊。
トイレの用事ないっていうか、排泄しないからな。
喩えるなら、セミのおしっこみたいなもんか?
じゃあ何で、下半身までガチで作り込んであるかって。
……シルフィ大先生の、造形力の暴走というか。
あいつ、なんであそこまで造形頑張ったんだろな。
謎すぎる。
そして。
火にかけた鍋の前で、なんか調理してる風だけど。
お前、そもそも料理出来たっけ?
「一日総必要エネルギー量2,650kcalを三食に分割し、
水分、タンパク質、脂質、糖質、食物繊維、
ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄分、
マグネシウム、リン、ビタミン、
ナイアシン、パントテン酸、
を混合した溶液。疾く食すべし」
「……ディーネちゃん? 頼むから、味を考えてくれ……」
それでも、飲むんですね。
ものすぎょい、顔しかめてますけど。
わー。
ロックさんっ、男前ー(棒読み)。
……いっぺん。
姉妹全員、料理の特訓させるべきかしら。
「って、嬢ちゃん! 居たんなら、何とかしてくれよ!?」
「イヤ、オレハタダノ彫像デスカラ」
誤魔化せなかった。
つか。
ウンディ、自慢気に胸を逸らせない。
それは、料理とは言いませんっ。
「? 人間の必要エネルギーは全て混合してある」
「だいたい、どこでそんなデータ入手したんだよ」
アッシュ先輩が教えてくれたらしい。
あの人? っていうか、あの神?
あそこからは出られないけど。
魔力を通じて、通信みたいなことは出来るのね。
神託、という奴かしら。
……内容は、ろくでもないけども。
はっ!?
もしや、今この瞬間もっ。
この遣り取りを、覗き見してるのでわっ!?
──。
分かるわけねえな、あっちの方が魔力の扱いは、上だし。
まあ。
オレが困るわけじゃないし。
別に、いいか。
「いや、俺が困ってるんだよ嬢ちゃん!?」
「ロックさんは大人の男性だから」
そんな雑な扱いをするなー。
などと。
怒られましたが。
ロックさん?
ほんとに嫌なら、単独で探索すればいいのに。
くっついて来るウンディのこと。
普通に、女の子扱いしてるんだもん。
そりゃ。
ウンディも?
ちょっとは、女の子を意識して当然かな、と。
……あの、ぐーたらウンディが。
こんなに、女の子らしく成長してっ。
おかーさんは、涙が止まりませんよっ。
──産んでないけど。
と、いうわけで。
お食事が終わったら。
一緒に、潜入しませうね?
「ロック、おかわりはまだたくさんある。疾く飲むべし」
「もう勘弁してくれぇ!?」
オレら、飲食必要ない身体ですからねー。
鍋の中身、頑張って飲み干して下さいっ。




