18話 呆れられちゃったかな?
入り口から武器屋然とした剣や盾、鎧を飾った先。
鍛冶場になってる空間を抜けて、開けっ放しの裏戸。
そこから、裏庭に出られた。
なぜかにやにや笑いのセラさんとオレが後をついて行く。
オレの後ろには、当然サラムがぴったりくっついてる。
店構えからは想像もつかないくらい広い、裏庭。
お店と鍛冶場を合わせた広さの倍以上?
よく見たら、敷地の奥に的が置いてある。
そうか、飛び道具の試射もするんだなあ。
と。
何気なく視線をくるりと巡らせると。
そこに、先客がいらっしゃった。
「あやつは試し斬りしとるだけじゃ。気にするでない」
って、先を歩くムギリさん。
相変わらずの、ぶっきらぼう。
そうは言われても。
武器を振ってる人って滅多に見ないし、気になる。
先客さんは、若い男の子だった。
薄汚れた革鎧に、鈍色に光る両手剣。
身長はオレよりちょっと低く、シルフィより高い、かな?
身長と同じくらいの両手剣って、バランスが悪いような。
だって、振り下ろすたびに身体が揺らいでる。
素人目にも、あれは体格に合ってないのでわ? って。
……あ。
じろっ、と睨まれたので、慌てて視線を逸らす。
今のは、失敗したのかな?
知らない他人に失敗を注目されたら、そりゃ不快だよね。
「お前さんは新人冒険者じゃったの」
「そうよー、期待の新人さんなの。優しくしてあげてね」
「あ、そうなんです。よろしくお願いします!」
ぺこりっ。
何事も、基本は挨拶だ。……と、思う。
頭を下げたまま、目線だけ上げる、と。
……あ、あれぇ?
「あはは。ムギリさんにはそんなにまっすぐは駄目よ」
「……?」
「あのねぇ、ムギリさんはすっごく照れ屋なの」
「やかましいぞ受付嬢!」
びくり!
響く怒声に、オレもサラムも揃って背筋が伸びた。
「む。驚かせたか。……ふん、武器の経験はあるのか?」
ぶんぶんっ。
勢い良く首を振るオレ。
サラム、これ真似しなくていいから。
「シルフィちゃんみたいに、魔法は使えないの?」
「あー、オレ、苦手なんですよ」
不思議そうに首を傾げるセラさん。
そうだよな、先に魔法万能なシルフィを知ってると。
──オレのポンコツっぷりが、解られてしまうよなあ。
「錬金術? は凄かったじゃないの」
「あれは術式が単純っていうか、ひとつしかないので」
掻い摘むように、説明。
錬金術は親父殿のオリジナル魔術。
親父殿以外じゃ、オレしか使えない。
これは、魔法に関しては天才のシルフィでも無理。
なんでかって。
オレの精霊核に、直接術式が書き込まれてるからだ。
だから、厳密に言うと。
オレは『術式を魔力で書く』って普通の使い方をしない。
精霊核に刻まれた錬金術理を、両手に移動してるだけ。
……そんな、変な使い方するから。
触ったものだけしか錬金できない、って制限がある。
触れさえすれば、時間掛けて発動できるんだけど。
──触れてからタイムラグあるし、戦闘に使うのは無理。
親父殿が帰って来たら、ここら辺も教わろう。
親父殿は普通に、距離空けて術を飛ばしたりするから。
話が逸れた。
「あら。それじゃ、何か武器の扱いを覚えるしかない?」
「そうなんですよ。初心者向けでお勧めってあります?」
無言でムギリさんから、剣が差し出される。
目が合うなり徹底的に目を逸らされると、軽く凹む。
そんなにオレ、呆れられてるのかなあ。
怒ってるのか、耳まで真っ赤だし。
うう、だって。
前世も今世も通じて、武器とか使ったことないし。
いやっ。
これでも、精霊四姉妹の長女!
できるところを見せれば、多少は見直してくれるかも!
そう思って、オレは差し出された剣を受け取った。




