178話 甘えっ子の師匠、超かわいい
「聞いてよ旦那様ぁ、エレナたちったら酷いんだよぉ?」
「おかえりマイハニー、疲れただろう?」
「あんっ、不意打ちのキスは反則ぅ。だーい好きっ」
「知っているさ、私の天使様。そして、まずはこちらを」
……。
人間って。
こんなにも?
一瞬で、全身真っ赤になるんだなぁ。
あ。
師匠、吸血鬼だったか。
「な、ななな、なんっ!?」
「あ、どうも。お邪魔してます、師匠」
「なんでこんなところに、メテルが居るのじゃー!?」
えー。
だってー。
城内で自由にしてていい、って。
師匠が、言ったんじゃないですかぁ。
あ。
大人姿でじたばたしてる師匠。
超、可愛い。
さり気なく?
アッシュさんに後ろから羽交い締め、されとりますが。
あの。
頬や耳にキスしまくるのは。
さすがに、オレ、出ていくべき?
的な。
──あっまーい!
ほんとに、ご夫婦なんですねえ。
「旦那も旦那じゃ、仮にも封印神域に何故侵入させるか!」
「いやあ、私も何分、寂しがり屋でね?」
「浮気者ぉ! 儂だけでは満足出来ぬと申すかー!?」
いえいえ。
オレ、そういう気は全然ありませんとも。
ごゆっくり、二人の時間を楽しんで下されば。
オレ、ここで置物になってますので。
呼吸も新陳代謝も、してませんから。
彫像の振り、得意なんですよ?
て、いうか。
アッシュさん?
強烈に、愉しそうですよね。
表情が。
愉悦に、歪んでますけども。
美男子って、悪い顔してても綺麗なんですね。
そして。
先輩?
奥様の身体を、まさぐるのは。
オレが居ないときに、お願いしたく。
「ふんっ、ふんっ! 良いかメテル! 内緒じゃぞ!!!」
「……ええ、それはもう」
つか。
言っても、信じて貰えないような気が。
普段から、いたずら好きなところはあるけど。
飄々としてて、捉えどころがない、みたいな。
泰然としてますもんね、いつもは。
そっかぁ。
旦那さんと、二人っきりのときは。
超、甘えっ子なんですねえ。
「ギャップ萌え、という奴ですね」
「可愛らしい奥さんですねえ」
でしょう?
なんて。
軽く自慢げに話す、アッシュさん。
確かに、旦那さんのお顔してました。
……。
奥様の方は。
早々と、奥の空間に走り去っちゃいましたけども。
貴様ら、覚えておれよー!
なんて。
捨て台詞も。
あんなに。
嬉しそうと悔しそうの表情、半々では。
効果、ありませんな。
──。
明日から、どんな顔してオレの前に立つんだろう。
なんか。
師匠の弱みを、握った気分でございます。
「ああ、それで。話の続きですけども」
「はい?」
ん?
ええと。
何の話、してたっけ?
「ご自身の力を、制御できないとのことでしたよね?」
「あ、それそれ。割と困ってます」
先輩っ。
なんか、妙案ないでしょうか?
「自分から直接、力を出すから制御しづらいのでは、と」
「直接?」
「つまり……、自分がダム湖みたいなもので」
ふんふん?
水に、例えると。
オレ=ダム湖。
そこから、ダム壁を通して放流しようとすると。
元々貯水してる水量が、でっかすぎて。
水圧が、物凄すぎるから。
放水量が、どうしても大きくなりがち。
放水量の、調整のためには?
出口を、すんげえ力で押さえながら絞るしかない。
けども。
水道管を、通して。
各ご家庭に、水を送って。
蛇口を開けば、調節はもっと簡単。
……。
そりゃ、そうですけど。
つまり?
オレから?
どっか別に、力を移送する、みたいな?
「メテルさん、リルさんに力を送れますよね?」
「あ。そうか。詠唱だけじゃなく、発動も任せていいのか」
「そして、リルさんの出力は限界値が低いですから」
あー!
目鱗だ。
オレの魔法だから?
オレ自身が使わなきゃ、と思い込んでた。
「他にも、ゴーレムや魔道具を介する方法もありますが」
「っあー、そこら辺はまだ分からない」
覚えれば簡単ですよ、って。
アッシュさん、さすが転生の先輩。
なるほど、オレ以外の精霊や、物質を通せば。
強すぎる力は、容量制限で勝手にセーブされるし。
限界超えそうになったら。
ブレーカーが落ちるというか?
許容量に上限があるから、それ以上の出力出ないわな。
「こういうのは、妻が考えついたんですけどね」
「はぁー。さすが師匠、技術的には凄いんですねえ」
師匠が消えてった方向を、ちらり。
……。
なんか、謎時空みたいな歪みが、空間にあって。
その向こう、どうなってんだか見えないんだけど。
「とにかく、イメージが大事なんですよ魔法って」
「イメージ、ですかあ」
「異世界人の私たちは、割と想像力豊かですよ」
で。
オレら、ぶっちゃけると?
出力無制限、を地で行っちゃってるので。
思いついたこと、考えたこと。
殆ど、実現出来てしまう、と。
ああ。
それが出来る無限の時間、あるもんなオレら。
ぐわー。
地脈繋がった後でも、修行してれば出来たかも、なのか。
ネットサーフィン気分で、時間を無駄にしたような。
前世に、魔法なんてなかったから。
ぜったい使えないと、思い込んでいたともさ。
そういえば。
アッシュさん?
さっき、時間を早戻しすれば、とか。
言ってましたな。
「時間軸の制御は必須ですよ? 因果律にも関係しますし」
「い、因果律?」
「今のお名前は、どなたが付けたので?」
へ?
親父殿、だけど。
……あれ?
そういえば。
親父殿は、転生者じゃないから。
地=ノーム。
水=ウンディーネ。
火=サラマンダー。
風=シルフ。
なんて。
地球での四大精霊の名前、知るわけないよね。
なんで?
オレらの名前、そういう命名したんだろう。
「宇宙を超え次元を隔てても、因果律は変わらないので」
「ん? つまり、精霊の名称はどこの次元でも一緒?」
そうらしい。
というか。
地球でも?
パラケルスス、という名の錬金術士が居て。
その人が、四大精霊の概念を考えたんだとか。
へええ。
知らなかった。
つまり。
アッシュ先輩の、説明によれば。
シルフィが、オレに女性の身体を作ったのも。
オレに、大地母神の名が付けられたのも。
そのときその時点ではなく?
ずっとずっと前、オレが転生するよりも、もっと前に。
既に、因果律で決まっていた、と。
そして。
魔法の勉強を、頑張れば。
因果を、遡って?
そこら辺を、いじれるようになる。
因果律をいじれるのは、神だけ、と。
ほええ。
ほんとのほんとに、神様なんですねえ、先輩っ。
オレも、いつかの未来に出来るように?
い、いやあ。
自信、ないですけど。
あれ?
じゃあ。
この世界で、地霊ノームってどこに?
「貴方ですよ。正確には、男性人格の貴方」
「……は?」
「ですから、大地母神デメテルが女性格で」
え。
じゃあ、オレ?
二人分が、混ざってますのこと?
「他の精霊と比べても、出力が桁違いでしょう?」
「あ、確かに」
本気のオレを、止めるとき。
他の三姉妹が全力出しても、ぎりぎり。
そんな話をしてたよな、前に。
よくよく考えれば。
他の三姉妹は、力がほぼ同格なのに。
なんで、オレだけ突出してるのか。
最初から、神と精霊の力をダブルで持ってたから、と。
いやあ。
今日ここに来れて、良かったなあ。
自分のことが、いろいろ知れた感じ。
──。
あれれ。
もしかして。
オレが今日、ここに来ること。
先輩、ずっと前から知ってたとか?
「そのうち、メテルさんも出来るようになりますよ」
また、遊びましょうね。
って。
ううむ。
先輩に、太刀打ち出来る気がしませんよ、オレ。
また、遊びに来ていいですか?
はい、いろいろ教えて下さいね。
ありがとーございましたっ。
……。
さて。
師匠と先輩の、愛の営みを。
邪魔しないように。
完全にべろんべろんでスライム化してる、リルを担ぎ。
オレ、ダッシュで愛の巣を、出るのだった。
──あの、師匠?
螺旋階段の途中くらいまで。
すっごい気持ちよさそうな声が。
響き渡ってましたけども?
アッシュ先輩。
どう見ても、ドSっぽかったもんなあ。




