177話 大地母神デメテル
「いえ、私は呼んでおりませんけども」
「ふぇ?」
「私もね、不思議に思って調べたことがあるんですよ」
数万年ほど前になりますが、とか。
さり気なく語って下さいますけど。
アッシュさん?
ほんとに。
オレら精霊よりも、年上なんですね?
「ああ、ほんの数億年ほどしか離れておりませんから」
「それ全然少しじゃないから」
くすくす笑う顔が、なんかちょっと子供っぽい。
可愛いと、かっこいいの中間みたいな。
女子ウケしそうだよなあ。
──。
リル、お前もう寝てろ?
発情期のメスみたいになってんぞ??
「おっと。お嬢様は、夢の国へご案内差し上げましょうか」
ふわり。
どこから取り出したんだか?
ビロードばりばりの、さらりとした薄手の毛布。
両手の指先で摘んだそれを。
軽く、リルに被せるアッシュさん。
「ふぁ……。もにゅむにゅ……」
「おやすみなさい、お嬢様」
て、手慣れてますねえ?
それ、師匠にもやってるんですか?
「もちろんですよ? 最愛の妻ですから」
のろけ光線、全力全開だった。
やぶ蛇である。
爽やかな笑顔が、超眩しい。
て、いうか。
話、戻りますけど。
あ、すみませんね話の腰、ぶち折っちゃって。
疑問に思ったら、即座に訊かないと気が済まなくて。
──あの。
オレが?
オレ自身で、この世界に来た、と。
そういう、話なんですかね?
「輪廻転生、って分かります?」
「ああ、お釈迦様のやつ」
「あの方はあっちで元気に寝転んでますね」
あっちって、どっち?
つか。
お釈迦様とも、お知り合い?
おっと。
こうやって話の腰を折るから。
アッシュさんのお話が、進まないんだな。
メテルちゃんっ、反省ー。
「ひとつの命が終わると、基本は同じ世界で転生しますが」
ふんふん。
つまり。
オレら、四姉妹の場合。
アッシュさんの、調べた結果によれば。
前の世界で死亡した後。
転生のために、魂が離れたとき。
理由は、よく分からないけども?
たまたま、魂の波長が同質化したのか?
オレたち。
意識体で思考活動できるほどの、超エネルギーを得たと。
それで。
元の世界の、キャパシティを超えてるので。
転生先がなく。
適合可能な、この『宇宙』へ転生した、らしいと。
「う、宇宙?」
「そうですよ? お生まれの故郷、地球ですよね?」
「え、そうですが」
「この星の外、どこを巡っても存在しておりません」
へ、へええ。
物理法則や、魔力、精霊力の法則。
宇宙全体、どこに行っても同じだそうで。
つまり。
魔法、魔力が存在しなかった、地球のあった宇宙。
全然別次元の、別の宇宙だそうです。
なんか。
急に、スケールが大きくなったな。
「あの宇宙は高次元なので、よく遊びに行ってましたよ」
「え?」
「いえ、私も元々は、そちらの住人でしたし」
同郷の方にお会い出来て、嬉しいですよ、って。
……。
あ。
そういえば。
ホストクラブ、なんて。
この世界に、まだ存在するわけねえよな。
全然違和感なかったもんだから。
全く、気づかなかった。
え?
アッシュさん?
元々は、地球人ですのこと?
「この世界を作る前ですけどね。前の宇宙に転生しまして」
「って、あんた創造神なのっ!?」
大したことじゃないんですよー、とか。
口元押さえて、苦笑してますけど。
いやいや?
全然、大したことあるでしょー!?
「前の宇宙は、超魔法文明まで発展したんですが」
は、はあ。
ああ、物語でよくある。
宇宙全体を巻き込んで、人類が自滅したと。
超先史文明、って奴でせうね。
あ、ちょっと分かった。
アッシュさんが?
好き好んでこんな地下に封印されてるのって。
人類の自滅を、防ぐため?
「半分正解ですね」
「半分?」
「もう半分は、勇者の妻を愛しているからです」
うわ。
うっわー。
歯が、歯が浮くんですよ!
リル?
天然たらしっていうのは。
こういう男性のことを、言うんだぞ!?
で。
その頃から、暗黒神?
ていうか、なんで暗黒なんでせう?
ぶ、ブラックホール?
ああ、アッシュさんの力の源が?
……そりゃ、現世最強でしょうね。
あれって、太陽の数億倍みたいな質量でしたっけ。
「扱い方は、精霊力と大して変わらないんですよ」
「ああ。それそれ。オレ、力の扱い方がよく分からない」
話の流れ、変えちゃったけども。
元々は、師匠に弟子入りしたのも。
親父殿や御母君に、いつも心配されてるのも。
オレが、力の制御が下手すぎるせいだし。
アッシュさん。
いや、アッシュ先輩っ。
なんか、巧い方法、ありませんかねえ?
「ふふふ。まさか、精霊力の源の方に教えを請われるとは」
「……は?」
「私と同じですよ、メテルさん。いや、大地母神デメテル」
「──はぁ? オレ、男なんですが」
「性別はあまり重要ではなく。内在する本質は、星です」
……。
神様に、男性を全否定されてんですが。
い、いや?
オレは、男なんだっ。
って。
オレも、神なの?
ていうか。
星って?
「神というか、本質ですね。何にでも成れます」
そうイメージすれば、って。
ああ。
もしかして。
オレ?
致命的に、イメージする力が、ないのでわ?
「メテルさん。貴女、本来の力は、星の意志なんですよ」
「おおっと。なんか、また話が大きく」
「ふふふ。いえ、全然大きくないです」
単に、この星の生命力全てを司ってるだけ。
って。
誰が。
オレが?
あっ。
もしかして。
精霊力、って。
星の、生命力ですのこと?
いや。
じゃあ、地脈って。
星の、血管みたいなものかな、と。
「そうですね。まだ、ほんの1%程度しか使えてませんが」
……。
1%程度で、人類滅ぼしそうになってるオレ。
本気で、修行しないと。
かなり、ヤバイんじゃないですかね?
「いやまあ、巻き戻せばいいんじゃないですか?」
「早戻し?」
「……は、はや、もどし?」
あっ。
アッシュさん。
九十年代くらいで、地球の知識。
お止まりに、なられておられますね?
ビデオテープ時代は、巻き戻しって言ってたそうで。
意外や意外。
神様、つっても。
全然、全知全能じゃないんですね。
「同郷ですが、転生した時代がズレているようですね」
……もしかして。
ハマってた漫画やアニメとか、続きを知らなかったり。
あ。
食いついた。
H&H?
バス○ード?
ああ、あそこら辺はまだ終わってなかった。
そんな、驚愕しなくても。
ほんとですから。
そうこうして、前世知識をすり合わせてるうちに。
このお部屋の。
本来の主が。
お戻りに、なられましたとさ。
──。
アッシュさんの、最愛の奥様。
オレの師匠。
シルバーカリス女王陛下。




