173話 師匠の従者さんたち
2,400ポイント到達ですー、ありがとーございますぅ。
「ユリシーズ様が、馬車からお離れにならない理由が……」
解りました、って。
メルちゃん以下、兎人族の女性陣。
すっかり、我が家の馬車設備の虜でございます。
そりゃ?
元々は、親父殿と御母君の長距離移動用なので。
厨房から風呂から、これでもかって豪華設備。
さすがに兎人族も合わせたら、ベッドが足りないけども。
寝室まで完備で、快適全力だからねー。
──ただし。
親父殿、自前で移動魔法を複数持ってるので。
実際に、親父殿と御母君が同時に使用した回数って。
片手で数えられる程度しか、ないそうな。
……。
親父殿、そりゃ御母君も怒るよ。
もう少し、家庭を顧みた方がいいと思います。
長女的にはっ。
それは、ともかく。
「そろそろ到着じゃが……、メテルや?」
「ふぁいっ!?」
朝ごはん中に、突然師匠に呼び出されるオレ。
カツ丼のカツを口の中に無理やり押し込み。
もぐもぐ、もぐもぐ。
……ああ、丼物は日本人の心だなぁ。
「食べながらで良いが。儂、そろそろ消えるからの?」
「むぇ? そりゃまた何ででせう?」
って。
ああ。
島の現在の長、女王陛下な師匠。
幼女姿でお忍びしてるの、島民には内緒なので。
一旦ここで、オレらとお別れして。
大人姿になって、女王城で待ってるそうで。
「こんな騒動がなければ、戻りたくないんじゃがのう……」
「あっはっは。自業自得ですよぅ」
ぎろり、と睨まれた。
幼女姿で睨まれたって。
ただ、可愛いだけですよぅ。
と。
馬車の二番貨車。食堂車。
に。
にゅるんっ、と膨大な魔力が集まる気配。
な、何ですかね?
でも。
師匠、あんまし慌ててないし。
何事か、分かってるのかな?
と、思ってたらば。
そこかしこの、家具の影から。
むにゅるるるっ、と真っ黒な人影が、盛り上がる。
なんか?
リルの、人体変化を見てるような。
《リルのはあんなに怪しくないわよ!》
《はいはい、そうだね、リルは可愛いねー》
《マスターの仰る通り、ミスリルに酷似して怪しいです》
《誰が怪しいって!? たかが妖精風情が!!》
こらこら。
二人で喧嘩、すんな。
それに。
ティーマは妖精つっても?
精霊大陸全土のダンジョンを司る、妖精女王だし。
霊格で言うと。
リルと、大差はないと思うぞ?
とか言ったら。
火に油であった。
しばらく、精霊通信カットしとこ。
で。
家具から沸いた、影。
見る間に、数人の美しい女性の姿に変わる。
肌は、なんか青っぽいけど。
真っ赤な唇から覗く、鋭い牙。
ああ。
これは、アレですね?
「シルバーカリス女王陛下。お迎えに上がりましたわ」
「……呼んでもおらんのに、誠にマメじゃのう、お主ら」
師匠、超渋面。
師匠付きの、吸血鬼の侍従さんですね、この人たち。
素早く師匠のそばに、くっついたと思ったら。
てきぱき、てきぱき。
ボロ布みたいな衣装の師匠を、いい服に着替えさせてく。
「儂がこういう服、嫌いじゃと知っとるじゃろうに」
「女王陛下の品格というものに関わりますので」
「全く、どうせ城に戻ればまた着替えるんじゃろうに」
「女王陛下であれば、お召し替えは当然ですわ」
口からは、文句ばかりだけど。
師匠、めっちゃ大人しく従ってますね。
いい主従ですねえ。
「失礼、あなたは?」
「え、オレ? ええと、師匠の弟子になりました」
ざわっ。
従者さんたち。
顔を見合わせて。
めっちゃ、困惑顔。
え?
なんかオレ、変なこと言いました?
「そ、それは……、お気の毒です」
「はぇ? な、何故に?」
「余計な入れ知恵はせんでも良い。さあ、帰るぞえ」
凄く慌てた風な師匠が、従者さんの裾を引き引き。
ちょっと待てぃ?
なんか、不穏な発言がありましたよ、今?
「普通の人間ではない様子? 生き残れると良いですね…」
「え、オレ、死ぬ目に遭わされるの確定なんでせうか?」
「メテルは精霊じゃて、滅びることはなかろう」
……。
むしろ?
オレが、師匠たちを滅ぼす危険の方が、大きいと。
思ってたんだけども。
従者さんたちの、口ぶり。
普通の人間だと、どうなるんでせう?
「私ども、元は人間でしたのですが」
「女王陛下に付き従った結果、死亡しまして」
「吸血鬼として、再誕し」
ぉぉーぃ。
師匠ぅぅ?
めっちゃ、ブラック職場じゃないですかぁ。
なんですか、こんな美女さんたちを、死亡させるとか。
いけませんよ、そんな酷い扱い。
「ええい、風評を振りまくでない! 理由があるんじゃ!」
あ。
これは。
遊ばれてるな師匠。
だって。
顔背けて、くすくす笑ってるんだもん従者さんたち。
しかし。
面白いので。
オレも、便乗してしまい。
しばらく、ムキになる師匠で楽しみました。
「全く、性格の悪い従者どもが」
「陛下に似たんですわ」
「やかましい! ほれ、帰るぞ!」
「了解しました。では、メテル様? 城にて」
「歓待の用意をして、お待ちしておりますわ」
「お早く、おいで下さいませ」
はぁい。
つっても。
もう、城は、目と鼻の先。
坂を下った先に、正門が、見えて来てるので。
入場するだけなんですけどね。
師匠を中心にした、大きな影に。
皆、するり、と。
吸い込まれて消えるのを、見送って。
さあ。
兎人族さんたちを、引き連れて。
女王城へ、入場だっ。




